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2006年12月14日

自由法曹団、文部科学省・自由民主党・公明党へ公開質問状を送付

自由法曹団
 ∟●12月12日、自由法曹団は公開質問状を発表し、文部科学省、自由民主党、公明党へ送りました。

文部科学省・自由民主党・公明党に対する公開質問状 

自由法曹団
2006年12月12日

■質 問 の 趣 旨

伊吹文明文部科学大臣の答弁

 伊吹文明文部科学大臣は、2006年12月5日、参議院教育基本法特別委員会の審議において、「この提案は内閣が提出しておりますが、原案は文部科学省が作成しております。そして、その文部科学省が作成する原案の基本になっているのは、公明党と自民党の与党協議で出てきた案です。その各々の場面で、文部科学省も、そして自民党、公明党の与党協議会も自民党(新憲法草)案との整合性はチェックいたしております。」と答弁した。また、同年11月27日の審議においては、同大臣は、自民党新憲法草案の各条との整合性について説明し、さらに、「同時に、国や社会を愛情と責任感と気概を持って自ら支える責務を共有しというくだりがございます。ここのところを教育基本法の二条で受けて、そして、教育のところについては、教育基本法でございますから、この教育基本法には法律としては異例ですが前文がございます。その前文の中で、『我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図る』ということを明記しております。」と、日本国憲法が「改正」され、自民党新憲法草案が新しい憲法になることを想定した上で法案を作成した趣旨の答弁まで行っている。
 即ち、現在参議院において審議されている政府教育基本法案は、自民党の発表した新憲法草案なる憲法「改正」案が新しい「日本国憲法」となった場合を想定されて立案されているというのである。

教育基本法と憲法との関係

 教育基本法は、戦前において、天皇(=国家)を何よりも尊重すべしとする国家主義教育に対する反省から、天皇という特定個人を主権者とし、立憲主義でなく法律によっていかようにでも国民の権利が侵され得た大日本帝国憲法から、立憲主義に立脚し、個人の尊重と法の支配を根幹とする日本国憲法への憲法改正に伴い制定された法律である。
 教育基本法が「(日本国憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつべきもの」「日本国憲法の精神に則り・・・新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する」(前文)とし、政府教育基本法案も「日本国憲法の精神にのっとり」(法案前文)とされているように、教育基本法は、憲法の精神を実現するために制定されるものであることは争いのないところである。これが、教育基本法が「準憲法」といわれる所以である。

教育基本法案における「日本国憲法」の意味

 しかし、ここにいう「日本国憲法」が、果たして現在の日本国憲法を想定しているのか、それとも自民党の新憲法草案を想定しているのかによって、その意味は大きく異なる。
 日本国憲法は、権力者の権力濫用を抑えるために憲法を制定するという考え方である立憲主義に立脚した憲法であり、「個人の尊重」と「法の支配」を中核とする立憲主義に基づき、すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障などをはかるという理念を基盤とした憲法である。基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」(11条)とし、「公共の福祉」なる基本的人権相互間の調整という内在的制約以外には、例え国家権力といえどもその制約には服さないこととされているのはこの立憲主義の典型的なあらわれである。

自民党新憲法草案と現行日本国憲法の相違

 ところが、2005年に発表された自民党新憲法草案は、この日本国憲法の根幹である立憲主義を根底から覆し、本来、主権者の持つ人権相互間調整という内在的制約でしかなかった「公共の福祉」の概念を、「公益及び公共の秩序」(草案12条・13条)とし、その意味を、「国家の安全と社会の健全な発展を図る『公共の価値』」という個々の基本的人権の調整を超越した抽象的な概念を新たな人権の制約根拠とすることを認める内容となっているのである*1。このように、自民党の発表した新憲法草案は、主権者たる個人の尊重を最高の価値とし、これにのっとった、国会の策定する「法律」をも超える「法」によって、国家権力を拘束するという立憲主義の考えを根本から変更するものなのである。
 これにより、(法案前文、2条3項)「個人の価値」、(法案第16条1項)「公共の精神」、(法案2条2項)「不当な支配」などの意味も全く異なるものとなってくる。

 また、日本国憲法の特徴として、(第9条2項)を定めていることがあるところ、「戦力の不保持」同条項の存在によって、日本国憲法及び教育基本法にいう「平和」とは武力行使を伴う戦争行為の全てを否定する非武装平和主義を指すこととなる。
 ところが、新憲法草案は、この非武装を定めた日本国憲法第9条2項を削除するとともに、新たに自衛軍という軍隊を創設し、「法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。」

(草案第9条の2)と定める。即ち、「武力」を持つことを認めるばかりでなく、「国際協調活動」という名の下であれば、イラク戦争のような国外での紛争についてまで、武力行使が可能となる内容となっているのである。
 ここにおいても、日本国憲法と新憲法草案では全く異質なものとなっているのである。
 逆に言えば、この意味が変化しないのであれば、現在の日本国憲法では、我が国の安全を守りきれず、我が国の安全保障のために憲法改正が必要であるとする自民党の主張と真っ向から矛盾することになるのである。
 このように、日本国憲法と新憲法草案とは異質のものであり、憲法の精神を伝え、実現することを目的とする準憲法である教育基本法は、その立脚する前提となる憲法が異質なものとなる際には、その授権された範囲を超えた違憲無効なものとなることは当然である。 特に、日本国憲法の根幹である立憲主義、平和主義の内容の変更を伴う新憲法草案への変更であれば、同一文言が用いられていたとしても、その文言の意味は全く異なる意味のものとなるのであり、教育基本法が憲法の精神の実現を直接の目的とする限り、現行日本国憲法でも、新憲法草案でもどちらでも適法に立脚できるなどということはないのである。
 そこで、以下の質問にお答えいただきたい。
 
 ご回答期限:今国会期末の2006年12月15日までにご回答下さい。

 「公益及び公共の秩序」の意味については、自民党は、2004年11月17日に発表された草案大綱(たたき台)において、「これらの基本的な権利・自由は・・・・・・他人の基本的な権利・自由との調整を図る必要がある場合又は国家の安全と社会の健全な発展を図る『公共の価値』がある場合に限って・・・・・・制限されること」として、「国家の安全と社会の健全な発展を図る」ことを「公共の価値」としている。
 また、2005年7月7日に発表された要綱第1次素案では、「現行の『公共の福祉』の概念は曖昧である。個人の権利を相互に調整する概念として、または生活共同体として、国家の安全と社会秩序を維持する概念として明確に記述すべきである。」としている。

■ 質 問 事 項

1 自民党 公明党 文部科学省 共通

(1)自民党・公明党与党、文部科学省が想定する政府教育基本法案の立脚する「日本国憲法」が現行の日本国憲法であるのか、自民党新憲法草案のいずれを想定しているのか、貴省及び貴党における見解をお答えいただきたい。
(2)上記質問事項1(1)について、仮に日本国憲法・新憲法草案いずれにも立脚することが可能であると判断するならば、新憲法草案にいう「公益・公共の秩序」の意義と現行日本国憲法にいう「公共の福祉」のそれぞれの意義・その異同の有無、違いがある場合にはその内容、また違いがあるにもかかわらず、政府教育基本法案が日本国憲法・新憲法草案いずれにも立脚することが可能であると考えるその理由について、貴省及び貴党における見解をお答えいただきたい。
(3)上記質問事項1(1)について、仮に日本国憲法・新憲法草案いずれにも立脚することが可能であると判断するならば、新憲法草案にいう現憲法9条2項の削除、新憲法草案における9条の2新設の意義及び現行憲法下における第9条に定める平和主義との異同の有無・違いがある場合にはその内容、また違いがあるにもかかわらず、政府教育基本法案が日本国憲法・新憲法草案いずれにも立脚することが可能であると考えるその理由について、貴省及び貴党における見解をお答えいただきたい。

2 公明党
  貴党は、2005年度マニュフェストにおいて、現憲法を高く評価し、『恒久平和主義』「公明党は、『国民主権主義』『基本的人権の保障』の憲法3原則を堅持します。その上で時代の進展とともに提起されている環境権やプライバシー権などを新たに付け加える『加憲』という立場をとっています。憲法第9条については、第1項、第2項を堅持した上で、自衛隊の存在や国際貢献等について、『加憲』の論議の対象として慎重に検討していきます」とされている。

(1)貴党は、自民党新憲法草案と整合性をもつ政府教育基本法案を自民党と共同提案しているが、憲法9条2項を削除し、自衛軍の国際協調活動を認める自民党新憲法草案に賛同する趣旨か。
(2)憲法9条の改訂等を内容とする自民党新憲法草案との整合性をもつ政府教育基本法案を自民党と共同提案することは、貴党のマニュフェストと矛盾しないのか、矛盾しないというのであれば、その理由を説明されたい。


投稿者 管理者 : 2006年12月14日 00:01

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