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2007年03月12日

秋田国際教養大学における任期制問題-大学運営のトップへの集中は危険である-

都立大・短大教職員組合
 ∟●手から手へ、第2444号(3月8日)

秋田国際教養大学における任期制問題
-大学運営のトップへの集中は危険である-

 大学教員の任期制が持つ問題が浮かび上がってきている。秋田県の国際教養大学には、文部省から副学長兼事務局長が派遣されていた。この大学は3 年任期制、年俸制をとり、今年度がその3 年任期の終わりであった。朝日新聞の昨年12 月17 日付の記事などによると任期満了になる教員27 人のうち11 人が再任を拒否された。この数は全教員の四分の一に当たる。
 教員は採用時に「更新の可能性有りの3 年契約」で雇用された。しかし、研究や教育における業績不足、特に博士号未習得を理由に、今年度末に英語集中プログラム教員の14 人中7 人(全員アメリカ国籍)、それ以外では35 人中4 人(そのうち2 人は外国人博士、2 人は日本人修士)、合計11 名が再任を拒否された。(goo Wikpedia)

教学を浸食する経営サイド
 この大学はどのような運営体制をとっているのであろうか。法人の理事長は学長を兼務する。「理事長は、法人が設置する大学の学長となるものとする」(定款第10 条)。理事長は、経営審議会の理事3 名、教育研究審議会からの2 名による選考委員会で決められ、県知事により任命される。したがって、経営審議会が優位に立つ。理事は理事長の任命で、そのうち常務理事1 名は理事長の指名である。
 この大学は、教授会には教員の選考権がなく、また評価権もない。人事の決定権限は学長=理事長を含む理事などによる大学経営会議の権限である。この経営会議は、学部、課程の改廃、教育課程編成の基本的方針に関わる事項など教学に関することも審議、決定する。さらに、「教職員の人事及び評価に関する事項」(定款第16 条)がこの経営会議の審議事項である。教育研究会議、教授会には教員の人事権はない。教育研究会議に「教育研究の状況の評価に関する事項」(定款21 条)があるのみである。
 教授会は、授業科目、学生の身分、賞罰、厚生補導、学位に関する事項の審議をする権限しか与えられていない。そして、学長は重要事項の直接の執行者である。かつ、教授会を主宰し、その議長は学長、または学長が指名する者である。
 ようするに、この大学は教学部門の権限が狭く限定され、経営部門が教学部門を浸食し、かつ理事長=学長が理事の選任、教授会の運営に決定的とも言える権限を持っている。民主はなく理事長・学長への集中のみが保障されている。

2年間の評価で非再任を決定
 再任に当たる評価は、まず課程長(二つの課程がある)から提出された各教員の評点を学長(=理事長)が評価査定・調整を行い、運営会議に諮る。学長の調整の際に職階に応じたスケールに従って最終評価が下される。職階の上位の者ほど評価基準点が高くなるという。
 評価は教育・研究・地域貢献の総合評価である。研究面、地域貢献面に関しては定められた評価基準に照らして各教員から報告された事項について評価者が質的な面も含めて査定し評点を出すことになっている。(平成17年度自己点検・評価報告書)評価項目、配点、評価基準表は別掲。
 この体制の中で、今回の事態が起こったのである。この事態が不透明なのは、非再任の理由が業績不足、博士号未取得があげられたにもかわらず、役職者は修士号さえ持たない者も含め全員再任されたことにある。
 さらにもうひとつの問題は、3 年任期であるにもかかわらず、再任するかしないかの評価は二年間の評価でしかないことである。というのは、再任しないことは、該当者の最終年度の昨年7 月に伝えられたからである。ようするに最終年度の評価は意味をなさない。

標準の評価でも再任されない
 それでは、業績評価はどのような基準なのか。業績評価はS,A,B,C,D,E,X の7 段階からなっている。このうちS が期待値より想定外に良く、A,B がプラス評価、C が標準、D,E がマイナス評価、X がD、E にも達していないことになっている。
 2004 年度と05 年度の業績評価の結果は下記の通りであった。(平成16 年度及び17 年度自己点検・評価報告書より)

 標準C に達しなかった者は、2004 年度で5 人、2005 年度で2 人である。2005 年度の二人が2004 年度からいた人だとすると、2005 年度評価で、9 人が標準点C となる。
 もし仮に、2005 年度のD と評価された者が2004 年度にC 未満に評価された者に含まれていたとすると6 人が両年度C 評価でも再任されなかったことになる。
 このように、C 評価でも再任拒否された者は多い。しかも、朝日新聞の記事によると2005 年度に前年のC からB になった人も対象になっている。そして、実は非再任者は16 名おり、この16 名に新人事の応募資格を与え、15 人が応募し、外部からの公募者約400 人と競わせた結果11 名が残ることが出来なかった。(朝日新聞2006/12/17)
 この結果について中島学長は「今回の新規採用でさらに学内が活性化すると信じている。形だけの公募でないし、優れた教員が獲得できた」と言っている。(産経新聞2006/12/26)これを読んで笑ってしまった。なぜなら、再任を拒否された教員のうち再度採用された者がいたわけだから、その教員は再任拒否という評価をされるべきでない「優れた教員」だからである。自らの評価が間違っていたことを言っていることになる。したがって、どうもどのような評価の結果、再任されなか ったかが外部者にははっきりしない。外部者だけでなく、該当者にも納得がいかないようで、朝日新聞の取材に一該当者は、こう言っていたという。
 「『教員として成績が上がっていたのに、大学を去るなんて想像できなかった。』退職が決まった米国人教員の一人は、今回の結果にため息をつく。学生の授業評価などがもとになる勤務評定は、04 年度は中ぐらいだったが、翌年度は1 ランクアップ。『これなら更新できる』と思っていたという。」
 課程長から学長に教員評価が出される段階で、評価者と教職員は個別面談を行い、評価案について意義がある場合は、面談後一〇日以内に、理事長・学長に対して文書にて異議申し立てが出来ることになっている。しかし、評価の最終結果についての異議申し立ての制度はないようだ。

教授会の権限強化が必要
 以上のことを整理してみよう。
① 任期3 年は、実質的に任期2 年である。最後の1 年は非再任者にとって、失業しないための就職探しの期間である。
② 非再任者にとって、最後の1 年は針のむしろに座るようなものである。なぜなら、教員として不適格という烙印がおされて、教育に当たらないといけないからである。
③ なぜ再任されなかったが、不明確であり、標準の評価でも再任されない。
④ 最終評定は、「学長が個別の評価査定および調整」をおこなう。したがって、学長の権限が大きい。かつ、学長=理事長の大学運営権限が専決的におおきく。それは評価の最終決定に大きく作用している。
⑤ 最終決定に意義を申し立てる時間と制度がない。
このうち、特に問題にしたいことは、③と④と⑤である。すなわち、運営権が一部に集中していると、評価の決定の過程で案が該当者に提示され、教育活動における同僚評価があっても、最終的に再任、非再任の決定の理由がよくわからないのである。そのうえ、最終決定に対し意義を申し立てる時間も制度もないから、再度任用を希望すると公募に応募しなければならない。
 以上のことを我々の大学に引きつけてみると、評価権を学長、学部長などの管理職に集中させてはならないこと、彼らないし管理職のグループに日常の運営でも全面的に専決権を与える慣習を作ってはならないことである。そのためには、教授会の人事権、管理職の選考権を確立しなければならない。
 最後に、秋田国際教養大学の年度評価は年報に反映されている。評価S は120%、A は110%、B は105%、C は変わらず、D は115%、E は90%、X は80%となる。ちなみに、理事長=学長の年俸は、2422 万円、理事は非常勤で360 万円である。


投稿者 管理者 : 2007年03月12日 00:06

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