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2004年06月07日

欲しい!優秀な学生、国立大学法人化で競争激化

東京新聞(6/05)より

 十八歳人口が減少する中、今春の国立大学法人化で本格化した大学間の生き残り競争。一方、「受験競争の緩和により、学生の基礎学力が低下するのでは」と心配する大学側の不安も深刻だ。より優秀な学生を確保するため、高校に出前授業に赴いたり、高校生に研究の一端を体験させたりと「高大連携」を模索する大学が増えている。 (社会部・高橋治子)

■全国で進む高大連携

 武蔵野の緑が色濃く残る東京都小金井市の国立大学法人「東京農工大」キャンパス。五月中旬、首都圏の公立、私立高校の関係者約六十人が集まり、工学部が毎年夏に開催している「高校生のための体験教室」に、希望する生徒を参加させる協定を結んだ。

 席上、宮田清蔵学長は同大の特許申請数の多さや、学生の国家公務員1種試験の合格者の多さをPR。世界トップレベルの研究拠点作り(21世紀COEプログラム)として、国から補助金を受けている研究室に参加者を案内し、潜在的な能力の高さをアピールした。

 「悩みは大学の知名度の低さです」と入試課では打ち明ける。「教員一人当たりの共同研究の数は日本一多くても、東大や東工大に比べて教員の絶対数が少ないので目立たない」。私学の東京農業大と間違えられることも、しばしばだという。

 高校生の理科離れを食い止め、学問の面白さを知ってもらおうと始まった体験教室だが、スタートから三年で開催の目的も変わろうとしている。

 「これまでは国立大としての社会貢献的な意味合いが強かった。しかし、結果を出さなければ補助金が削減されるという厳しい競争の中では、近い将来、優秀な学生を集めるためのものにシフトせざるを得ないでしょう」と担当者は話す。

 当初八校だった連携先を、本年度は四十二校に増やした。今後は入学実績を調査し、連携する高校の顔ぶれを入れ替えることも検討するという。

■少子化背景 青田買い批判も

 文部科学省などによると、高大連携は公立高の進学率を高めようとする教育委員会側が積極的に進めてきた。「大学や高等専門学校の講座に生徒が参加しやすいように」と、二〇〇二年度で全国百八十四の高校が単位認定をしている。だが最近は大学も、積極的に門戸を開こうとしている。

 中央大商学部(東京都八王子市)と都教育委員会が〇二年度から実施している「高大接続教育プログラム」は、連携の最も進んだ形の一つだ。大学と、指定高校の教員が協力して生徒を指導し、学習の成果が上がれば無試験で学部への入学を認めている。早稲田大では学部生向けの授業を受けた指定高校の生徒が入学すれば、履修単位を大学の単位として認める制度を導入している。

 こうした高大連携には、生徒が高校のカリキュラムを超えた学問の奥深さに触れ、意欲的に勉強に取り組むようになるといった効果がある一方で、「一つ間違えば優秀な高校生の“青田買い”になる」という批判もある。

 東北大大学院の荒井克弘教授(教育計画論)は「少子化で緩和された受験競争の代わりに、子どもに基礎学力を身につけさせるための基本デザインをこの国はまだ持たない。今後、上位の大学間では優秀な生徒の争奪戦が激しくなり、中堅以下の大学では生き残りをかけた“青田買い”が一層進む可能性がある」と指摘した上で、こう疑問を投げかける。

 「大学は、子どもの才能をどのように評価し、才能を伸ばすためにどのようなプログラムを用意しようとしているのか。その準備を整えた後でなければ、個別の『高大連携』だけを進めても弊害の方が大きくなる」

 理論上は〇九年に大学定員が十八歳人口を上回り、入試という“選抜”が一部の大学を除いては機能しなくなる。子どもに自ら学ぶことの楽しさを教えるより、受験戦争に「学力の維持」を頼ってきた戦後教育のつけが回ってくる。社会からは有用な人材の輩出を急がされ、板挟みとなった大学の模索が続く。


投稿者 管理者 : 2004年06月07日 00:16

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