個別エントリー別

« 9条改憲阻止の一点で「バージョンアップした平和運動」を 渡辺治一橋大教授が基調講演 市民とジャーナリストを結ぶ集会(6月19日) | メイン | 日本私大教連、「5・25私大助成中央要請行動の概要報告」 »

2004年06月24日

都立大人文学部仏文学科・独文学科教員一同より雑誌「財界」編集部への抗議文(6月19日)

都立大人文学部仏文学科・独文学科教員一同より雑誌「財界」編集部への抗議文(6月19日)

「財界」編集部御中
2004年6月19日

 貴誌2004年6月8日号に特集「試練の大学改革Vol.2」として 「首都大学東京はどんな大学になるのか」が取りあげられていますが,首都大学東京理事長予定者である高橋宏氏の「東京都からの補助金百五十億円が垂れ流しとなってはならない:首都大学東京の経営では五年後をメドに黒字体質を目指す」(p.80-82)には重大な事実誤認が含まれています。今回,このようなインタビューを,その中に含まれる事実関係の確認もせずに記事にした「財界」編集部に対して,またわざわざ小見出しに「学生より先生のほうが多いなんておかしい」と太字にした編集者に対して,私達,東京都立大学人文学部文学科仏文学専攻,並びに独文学専攻は,ここに強く抗議し,謝罪と訂正を求めます。


 81ページに以下のような高橋氏の発言があります。

 都立大学の人文学部は六百五十人の学生に対して百三十九人の先生がいます。実に四・六人の学生を一人の先生がめんどうを見るという割合です。ちなみに仏文科と独文科は学生より先生の方が多い。

 「人文学部では四・六人の学生を一人の先生がめんどうを見ている」というのは誤りです。まず,教員一人当りの学生数4.6人という主張は昨年9月29日東京都文教委員会の資料として東京都大学管理本部が発表した数字ですが,人文学部の学生収容定数639人を教員定数139人で割った(639÷139=4.59)結果でしかなく,教養科目の多大な負担をしている人文学部教員の現状をふまえたものではありません。これは,すでに2003年10月30日に都立大学教養部長の丹治信春教授が,より信頼性のある計算結果を公表し,人文学部教員の1人当りの負担は,9.9人であることを明らかにしています。この「人文学部教員負担4.6」という数字は,2003年11月13日都議会文教委員会でも問題にされ,同年12月25日に南雲智都立大人文学部長が「東京都による基礎データの歪曲に抗議する」という声明の中で,再度この数値に抗議しています。同年12月27日朝日新聞にも「情報操作即刻中止を:知事の現状批判で都に抗議声明」という記事が出ています。このように度重なる過ちの指摘にも関わらず,この数値をあたかも驚くべき実態のように「首都大学東京」の理事長予定者高橋宏氏が語ること自体に強い憤りを覚えます。
 さらに,「ちなみに仏文科と独文科は学生より先生の方が多い」という発言も事実無根です。これまでの東京都立大学人文学部文学科仏文並びに独文専攻では,教員数が学生数を上回ったという歴史はありません。参考までに昨年度と今年度の教員数と学生数を以下に示します。

仏文 独文
教員数 学生数 教員数 学生数
2003年度 10 51 18 53
2004年度 8 44 16 50

 インタビューという性格上,その発言者が果たしてどこまで本当にそのように語ったか,雑誌の読者としては確認するすべがありませんが,今回のインタビュー記事には,極めて多くの誤謬,誤解,見当違い,根も葉もない噂話が含まれています。以下に気がついた点を列挙しますが,これだけの問題点を放置してインタビュー記事として掲載した責任は,ひとえに「財界」編集部にあると考えられます。この事実を真摯に受け止めて頂くためにも,私達はこの抗議文を郵送と同時にインターネット,及び,その他のマスメディアに公開することを申し添えておきます。

事実無根の憶測や現状認識不足から来る間違いを参考までに列挙します:

(1)「学生より先生のほうが多いなんておかしい。」
 ⇒事実誤認。学生数の方が教員の数より多い。
(2)「学部長にもかかわらず論文を1つしか書いたことがないという人もいました。」
 ⇒事実無根の憶測。そのような事実はない。大学はもともと競争社会であり,学部長になった人が,論文を1つしか書いたことがないというようなことは,起りえない。
(3)「その先生の授業は十年一日のごとく変化がなくてつまらないから、登録した50人の学生のうち毎回出席しているのは1人か2人だそうです。」
 ⇒事実無根の憶測。そのような事実はない。
(4)[「150億円の不足分はどうやって穴埋めを?」という質問に対して]「都議会の承認を経て東京都の予算で穴埋めします。したがって不必要なコスト、特に人件費を削らなければなりません。4、5年で収支をトントンに持っていきたいですね。」
 ⇒現状認識の不足。運営費交付金も,私学助成金もなしに「収支トントン」の大学は,日本ではありえません。
(5)「日本の大学の先生は終身雇用で、一生、怠け者でも食べていけます。」
 ⇒現状認識不足からくる間違い。まず,「大学の先生は,一生怠け者」では,食べていけません。近年では,研究だけでなく教育の評価も行われていますので,否定的な評価を受ければ,昇進できない体制が確立されています。また,日本のすべての大学の先生が終身雇用である訳ではありません。2002年10月時点で,すでに国立大学の7割弱の65校がすでに任期制を導入しています(日本経済新聞2004年6月1日)。しかし,「大学教員任期法」により,そのの対象が「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織」に限定されています。
(6)「経済学部講座,工学部講座_,.といった講座制という制度に守られて,頂点に大教授,以下にナンバー2教授,助教授,講師,助手が続くという四層構造になっています。」
 ⇒現状認識不足からくる間違い。(1)小講座制で大学の学部学科がすべて構成されているわけではありません。(2)四層というより,このように数えるなら五層構造になると思われます。
(7)「(助手は)ずっと、試験の監督や採点など雑務をやっています。」
 ⇒現状認識不足からくる間違い。助手は,研究や教育で欠くことができない仕事をこなしています。理系にあっては危険物の取り扱いもしますので,適材適所で助手が配置されなくなったら,非常に危険なことになります。文系では,図書や資料の管理もしています。この仕事が滞ると教育や研究に大きな支障をきたします。
(8)「理学部の助手に至っては一生試験管を洗っているそうです。…中略…国立大学や公立大学の定年は63歳で、その定年まで試験管を洗い続けて一生を終えるんだそうです。」
 ⇒現状認識不足からくる間違い。今は,研究機器のハイテク化が進み,試験管そのものを使う機会が非常に少なくなり,そのような助手は存在しません。
(9)『ではその方たちの定年時の年収は?』と聞くと、「まあ七百万円ぐらいでしょう」という答えです。驚きますよね。そのような待遇をうけている教員を前にして『任期制や年俸制を導入する』と言ったら、一斉に反発されましたが。」
 ⇒事実無根。「そのような待遇をうけている教員を前にして」高橋理事長予定者が「任期制や年俸制を導入する」と発言したという事実はありません。高橋氏は,まだ一度だけ(2004年2月17日)しか東京都立大学に来たことがありません。もし大学管理本部で2〜3人の教員の前で発言したことがあるという趣旨なら,多くの聴衆の前で語ったかのような誤解を招く「一斉に」という表現は慎むべきでしょう。
(10)「教授は教授のままですが、助教授は準教授、講師と助手は研究員という名称に変更し、教授、準教授、研究員の三層構造にします。」
 ⇒「首都大学東京」の構想に関する知識不足からくる間違い。「首都大学東京」の構想では,主任教授,教授,准教授,研究員の四層構造になるというのが正しい(「準教授」というのは「准教授」の誤り)。また,講師は研究員になるのではなく,准教授になります。
(11)「年俸制の導入とは、給与体系を基本給と職務給と業績給で構成する制度に改めるということです。これは、大学教員法と労働基準法によって合法的なんだそうです。大学教員法では5年の任期で契約をすることが可能だということ、労働基準法では経営者が労働者を三年以上握ってはいけないということが定められています。」
 ⇒法律関係の知識不足からくる間違い。「大学教員法」というのは存在しません。「大学教員任期法」は存在します。「大学教員任期法」によれば,法律の対象がr多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織」に限定されているので,「大学全体の教員に5年の任期で契約をすることが可能」であるという意味ではありません。
(12)「アメリカの大学教授はみんな最長3年の任期でやっている…中略…学生から『あの先生の講義はつまらん』と言われたらたちまちリコールされる。」
 ⇒間違い。アメリカのすべての大学で,大学教授の任期が最長3年というのは,事実に反します。「首都大学東京」でも導入される予定のテニュア制度は,アメリカの多くの大学で受け入れられている制度で,テニュアになれば任期がなくなります。
(13)「大学間で相互に単位を認証する単位バンク制度を導入します。」
 ⇒「首都大学東京」の構想に関する知識不足からくる間違い。「大学間で相互に単位を認証する制度」は,単位互換制度と呼ばれ,すでにほとんどの大学で導入されています。「単位バンク制度」は,大学間での制度ではなく,個々の授業を単位として認定する制度です。

些細な点をさらに3つ付け加えます.
・「都立大学の人文学部は650人の学生に対して139人の先生がいます。」
 ⇒間違い。2003年9月29日の管理本部発表の数字では639人の学生収容定数です。
・「ちなみに仏文科と独文科は学生より先生の方が多い。」
 ⇒間違い。東京都立大学人文学科には,「仏文科」とか「独文科」はありません。「文学科」の下に,仏文学専攻と独文学専攻があります。
・「その間に理事長と学長、学部長、社外の学識経験者で構成する評価委員会で教員を評価します。」
 ⇒間違い。社外ではなく,学外でしょう。それとも法人化した大学を会社と考えているのでしようか?

東京都立大学人文学部文学科独文専攻教員一同
東京都立大学人文学部文学科仏文専攻教員一同

投稿者 管理者 : 2004年06月24日 00:41

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1280

コメント