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2004年10月01日

首都大学東京設置認可答申の詳報と「都立の大学を考える都民の会」総会の案内

Academia e-Network Letter No 188 (2004.09.30 Thu)より転載

【2】都立大の危機 FAQ より
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki.html

【2-1】2004.9.25
Z-2: それにしても,あれほどまでに批判されている「首大構想」
に対して,なんで設置審は認可する答申を出したのですか?
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-z.html#ninka-no-riyuu

【2-2】2004.9.29
Z-3: 2004年9月21日の設置審の発表には,口頭での厳しい意見が
3つ添えられたと聞いたのですが,その内容はどんなものだっ
のですか?
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-z.html#kakushi-3-koumoku

【2-3】2004.9.29
XX-2:シンポジウムとか集会に参加したいんですが,今後の予定は?
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-xx.html#symposium
都立の大学を考える都民の会」総会 2004.11.14
+「このままでいいのか? 都立の大学」集会

━ AcNet Letter 188【2】━━━━━━━ 2004.09.30 ━━━━━━

都立大の危機 FAQ
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki.html

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【1-1】2004.9.25

Z-2 それにしても,あれほどまでに批判されている「首大構想」に
対して,なんで設置審は認可する答申を出したのですか?

http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-z.html#ninka-no-riyuu
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ポーカス博士

設置審のメンバーで議論に加わったわけではないので,本当のと
ころは分からない。以下は,わしの憶測だ。「首大」設置認可に
GOサインを送ったのには,3つの理由があると思う。

(1) 「首大」は,東京都の設置する大学であり,国立大学の場
合と異なり,直接,運営交付金を支給しているわけではないか
ら,強力な指導はできない。

(2) 設置審は,大学から提出された申請書の内容と著しく違っ
た事実が判明した場合を除いて,申請を不許可にはできない。

(3) 経済産業省主導の元,経済のあらゆる分野で規制緩和が実
施されている流れがある。


(1) の理由だが,国立大学の場合のように,直接,国から予算
(運営交付金)をもらっている場合には,その予算を盾に取り,
注文を付けることがこれまで文部省/文部科学省のやり方だった。
「大学の自治」とか「学問の自由」を守るという観点から,個々
の国立大学内部の改革や教育内容に直接手を出せない文部省/文部
科学省は,予算面から締めつけることで国立大学を操ってきたと
いう側面がある。私立大学に関しては私学助成金が支給されてい
るから,そこで国との関係がある。しかし,公立大学は別なのだ。
直接的金銭関係はないから,(2) で挙げたような,申請書と実態
の決定的な違いを見つけない限り,設置審は何も言えない,と言
われている。

中井浩一「徹底検証:大学法人化」(中公新書ラクレ 147) とい
う本が出ている。全体的にスキャンダラスな書き方がされており,
事実よりもさまざまな当事者の意見を集めて,大学という社会を
魑魅魍魎が住む異様な世界のように書き立てている部分があり,
片寄った内容の本だと思うが,部分的には正しい指摘も含まれて
いる。その中に,次のような下りがある。

問題は、こうした権限や議論の問題だけではない。文部省の審
議会や会議は、官僚主導で行われ、答申は実質的には「官僚の
作文」になっている。メンバーには官僚に都合のよい論者だけ
でなく、あえて敵対する論客も入れる。そして最初は談論風発。
しかし、議論が深められることはなく、言いっぱなしで推移す
る。対立は最初から最後までそのままだ。「さて、時間があり
ません。そろそろまとめていただかないと」。そこで、やおら
官僚の作文が提出され、そこに、それまでの長々とした応酬の
すべてが集約され、対立は解消されてしまう。かくして「答申」
「提言」の一丁できあがり。中井浩一「徹底検証:大学法人化」
(中公新書ラクレ147, 2004年9月10日発行) P. 171-172.

国の政策決定の前には,さまざまな審議会や諮問会議などが組織
されているのは聞いたことがあるだろう? それらの会には,何千
人という大学の教員が動員されている(注1)。これらの会議では,
「専門家」としてよばれた大学の教員がさまざまな発言をして問
題点を洗いだし,提言を行ったり,審査をしたりするわけだ。上
で挙げた中井氏のまとめは,ひとつの典型的な審議の様子を誇張
して表現したものだが,「当たらずといえども遠からず」であろ
う。大学設置審でも,おそらく,様々な意見が出て,談論風発だっ
たことだろう。強行に認可すべきでないとまで主張した人は少数
派だったと想像できる。それは,(1)や(2)の考え方が根底にあっ
たからだ。そして,文部官僚に強力な圧力をかけていたのは,経
済産業省の「規制緩和」という大方針だ。国の許認可制度を抜本
的に見直して,「自由競争させればよい」という考え方で,「自
由競争の中で,駄目なものは自然に淘汰されるから,市場経済の
原理に委ねればよい」とする。そして,文部科学省の下で設置審
も答申を出す。その答申結果を受けて文部科学大臣が許可を出す
わけだから,「ある意味で国が大学の自由競争を阻害する可能性
がある,だから好ましくない」と考える人々がいる。確かに,そ
のような議論の流れでは,「国が教育をコントロールできる」と
いう最悪のシナリオに結びつく。

がしかし、ちょっと待って欲しい。「首大」が市場原理の中で淘
汰されればよいと考える人々がもし設置審の中にいたとしたら,
そこで犠牲になる学生のことを忘れているのではないか! そこ
で留まって,少しでも良い教育・研究環境を残そうとしている教
員のことを忘れているのではないか!認可された劣悪なシステム
の中で,入学してくる学生とそこに残された教員が犠牲者になる
ことは目に見えている。さらに,このような設置者の都合だけを
考えた「大学構想」が全国の大学に飛び火することを想像できな
いのだろうか? このような「大学構想」で教育・研究が続行でき
ずに,転出したり退職したりしていく教員の無念さを理解できな
いのだろうか?教育理念に踏み込んで,「首大構想」が教育基本
法や学校教育法の理念に合わない,という抽象的ではあっても根
本的なところで異議を唱えるというのは,教育に携わる者として
必要な態度ではないか?

東京都は,東京都に徹底的に服従するシステムの導入を,高等教
育の理念を無視して強行しようとしている。それに異議を唱える
のは,自由競争を阻害することではなく,急進的束縛システムの
導入を妨げ,自由な学問的環境,教育環境を保護するという本来
の教育理念に立ち返る一歩ではないのか?


「本来の教育の理念が欠けている」,「学問の自由が保障されてい
ない」,「教員の現場の声が教育や研究に生かされるシステムが
全くない」,そういった理由で大学設置審が不許可の答申を出す
という場面があってもよいと思う。それは,決して大学の自由競
争を阻害するのもではない。国の教育への介入でもない。高等教
育に携わる者が,本来の教育研究を守るために,国に働きかけ,
大学設置者の勝手でゆがめられた教育理念を正す道なのだと思う。
「服従から開放するための不認可」というのは,「服従させるた
めの不認可」とは決定的に違うのだ。

注 1:大学の教員が「象牙の塔」にこもっているという批判を繰
り返す政治家がいるが,実際にはかなりの数の大学人が,この
ような会のために時間をさいている。残念ながら,どれだけの
大学の教員がこのような国や地方自治体の「会」のために働い
ているかを示す総合的な統計はない。数値目標を要求し,大学
人の社会貢献を求めるのが文部科学省/経済産業省の方針なら,
このような数値もきちんと把握して公表すべきだろう。

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【2-2】2004.9.29

Z-3 2004年9月21日の設置審の発表には,口頭での厳しい意見が
3つ添えられたと聞いたのですが,その内容はどんなものだった
のですか?

http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-z.html#kakushi-3-koumoku
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ポーカス博士

口頭で伝えられたとのことなので,なかなかその本当の内容は分
からなかった。噂が噂を呼び,人の口から口へと伝えられたもの
がようやく明らかになってきた。まず,2004年9月24日に都立大学・
短期大学組合のホームページにアップされた 「手から手へ」
2299号http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/0924.htm に触れられて
いるので,その内容から見てみよう。

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またこれらに加え、「その他意見」として以下のようなものが
付されたと伝えられます。

第一に、都市教養学部の学部名称について、普遍的性格を持つ
「教養」と限定的な「都市」とを組み合わせた名称には違和感
を感じる向きもあるとして、学部名称の今後の変更を示唆して
います。

第二に、教育研究の質を確保するためには教員の意欲・モラル
が重要で、そのために設置者からの正確な情報提供等、設置者
と教職員が一致協力して開学準備にあたるなどの体制を確立す
べきことを指摘しています。

第三に、新大学の掲げる使命にとっては様ざまな学問的アプロー
チが必要で、学問分野間の均衡のとれた教育研究体制を求めて
います。(都立大学・短期大学組合 「手から手へ」 2299号より
抜粋)
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これだけ読むと,「なんだ,たいした注文ではないではないか。」
と思ってしまうが,これらの注文の真意はかなり深いのだ。

まず,(1) だが,「首大」の最大の売りである「都市教養」とい
う概念が自己矛盾していることを指摘している。そして,設置審
としては,今後,この「都市教養」という名称を変えてくれても
いいよと言っているようなのだ。これは,簡単に言えば,現時点
で「都市教養」なんてものは認められないと宣言し,改名を妨げ
ないという立場を表明しているように解釈できる。

(2) は,「教育研究の質を確保するためには教員の意欲・モラル
が重要」で,設置者と教職員が一致協力して開学準備にあたりな
さいと要請している。つまり,設置審にも,現在「首大」開学準
備において「設置者と教職員が一致協力」しているようには見え
ないようだ。研究や教育の質を確保するためには,設置者が一方
的に教員を締めつけるのではなく,教育・研究環境を整備するこ
とが本来一番重要なことなのだ。例えば次のことを考えて欲しい。
今回,4大学の統合を強行しようとしているが,その結果,「首
大」は(「分散キャンパス」と言うと聞こえはいいが)タコ足大
学になる。一年生はすべて南大沢キャンパスで教養科目を履修す
ることになるが,募集定員1510人の一年生というのは,これまで
の都立大の一年生の募集定員1000名と比べると5割増しだ。図書
館,食堂,教室,実験設備,大学の事務の窓口など,あらゆる面
でこの増員が影響してくる。そんな中で,教員数は削減され,一
部の教員は流出し,事務職員も任期雇用にしようとしている。こ
れだけでも大変な変化だ。

健康福祉学部の学生は,一年だけ南大沢キャンパス(京王相模原
線南大沢下車)に通い,その後は都立保健科学大学がある,荒川
キャンパス(荒川区東尾久,都電荒川線熊野前駅)に通うことを
強いられる。もし,教養の単位を1つ落としたらどうなるか,分
かるかな?その1つの単位のために,南大沢まで来ることになる。
普通,タコ足大学では,コンピュータ・ネットワーク用の高速専
用線をひいて,キャンパス同士を結んでいるから,ネットワーク
を活用した授業をしている所もかなりの数になる。がしかし,
「首大」にはネットワーク高速専用線など無いのだ。そういった
構想すら,今のところ出てきていない。

「首大」は,教員の研究面での環境改善案を示しているだろうか?
答えは,NO だ。傾斜的研究費配分は,これまでの研究費総額をお
よそ半分にして,残りを傾斜的に配分するだけだ。だから,たと
え傾斜的配分研究費をもらったからといって,研究費という面で
以前より多い額を支給されるかと言われれば,そうでないケース
も多くなるだろう。研究活動を支援するというよりは,「産学共
同研究を支援する」という面ばかりが先行し,本当の意味で,研
究がしやすい環境を整えるという配慮はまったく提示されていな
い。環境整備という観点から見て,これでは教育も研究も質的向
上を望めない。

では,大学の研究者が必要とする研究費以外の研究環境とはどん
なものだろうか?4つほど研究環境の改善に関する提案をまとめ
てみた。

(I) 十分なスペース

・理系の場合には,実験器具や機械を買えても置くスペースが不
足してしまうことが大きな問題。

・共同研究をするための建物。特定の大きなプロジェクトを立ち
上げても,それを遂行するための設備を置く場所がない。

・文系と理系をまたぐような学際研究をする場合に必要な場所が
ない。

・図書館の拡充。文系研究者にとって,十分な図書を確保し有効
利用できる図書館が必要。(すでに,現在の都立大図書館は,蔵
書の限界が目前に迫っている。)


(II) 研究者のメンタルヘルスを維持できるような施設

(研究者は,とかく問題を徹底して追求する性向を持つところか
ら,精神的にまいってしまうことが多い。)

・常時カウンセリングを受けられるような組織と場所。

(学問上の競争社会は厳しい。ましてや,今よりももっと競争を
激化させようとするのが「首大構想」なのだから,心のケアをす
る施設を作らないと,自滅する研究者が大量発生する危険があ
る。)

(III) 十分な研究を保障するための人的援助

(研究を遂行するためには,時間が必要だが,貴重な時間を有効
利用するためには,無駄な時間を雑用で奪われることはさけねば
ならない。近年の顕著な傾向として,「機械は購入できても人が
つかない」という事態が生じているが,本当に必要なのは研究を
補助してくれる優秀な人間である。)

・専門職員を減らして事務的仕事を教員に押しつけるようにして
はならない。

・研究助手を積極的に雇える制度を設け予算を別途配分して欲し
い。


(IV) 若手研究者を優遇する措置

・例えば,海外の学会で研究発表をする研究者には積極的に渡航
費を援助する。

・若手研究者には,大学内の各種委員会の内で負担の大きいもの
から免除するシステムを作る。


最後に,(3)だが,「首大」の使命を覚えているかな? そう,
「大都市における人間社会の理想像の追求」だ。まず,「人間社
会の理想像」とは何だろう? これまでの人類の歴史の中で,さま
ざまな考察がなされてきたが,もちろん決定的な答えが出ている
わけではない。そもそも何が理想なのか,誰にも分かっていない。
ただ,「平和な社会を実現させたい」とか,「民主主義に基づい
た社会を構築したい」とか希望を述べることはある。それらの希
望に,「大都市」が絡んでくるといったい何を求めたいのか,意
味不明になる。背後にいったい何があるのか? 例えば,「大都市
には犯罪が多い」という命題が考えられる。そうすると,「大都
市の理想像」は「犯罪の少ない都市」となるかもしれない。さて,
「犯罪の少ない都市」を実現させるための教育研究する学問分野
は何だろう? この質問の立て方は,どこか変な気がしないかな?
そうだ,「犯罪の少ない都市」を実現させるためには,現状分析
とその原因を取り除くための政策が必要なのであって,学問分野
が必要なのではないはずだ。「大都市における人間社会の理想像」
を考えるには,さざまざな学問的アプローチがあってもよいが,
それは具体的になればなるほど,「都市政策」の問題となる。原
因を深く追求することはできるし,それは犯罪心理学や社会学,
哲学などの問題と関係するかもしれないが,それしか研究対象に
ならないような学問のやり方には問題を感じる。前から言ってい
るように,「大都市」と「人間の理想像」の両方に(直接的に)
関係しているような学問というのは,そんなに多くはない。「発
生学」,「量子力学」,「数学基礎論」,「天文学」,「バイオ
テクノロジー」さてさて,どうやって「大都市」と「人間の理想
像」に関係させればいいのかな?わしの思うところでは,「学問
分野間の均衡のとれた教育研究体制」とは,「大都市における人
間社会の理想像」にとらわれない,「学問の自由」の元に初めて
可能だと思うのだが,どうだろう?

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【2-3】2004.9.29
XX-2 シンポジウムとか集会に参加したいんですが,今後の予定は?
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-xx.html#symposium

「都立の大学を考える都民の会」総会 2004.11.14
+「このままでいいのか? 都立の大学」集会

都民の会連絡先:ganbare_toritudai@yahoo.co.jp
サイト:http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Lounge/3113/index.html
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日時:2004年11月14日(日)
 午後1:00〜4:00 集会
 午後5:00〜6:30 総会

場所:三省堂ホール(東京都新宿区西新宿4-15-3 三省堂新宿ビル内)

(新宿駅西口から徒歩15分。都営地下鉄大江戸線都庁前駅から徒歩5分)
(新宿駅から見て、都庁を過ぎて新宿中央公園を通り抜けた向こう側です。)

都民の会総会ならびに11月14日集会のご案内と呼びかけ

都立の大学を考える都民の会ニュース8号(2004年9月23日)より抜粋

私たち「都立の大学を考える都民の会」も、昨年11月1日の結成
以来 、早いもので一年が経とうとしています。皆さん、本当にお世
話になりま した。つきまして、この間諸状況の様子をみるために、
当初予定の3月か ら延期しておりました総会を、この1年の節目を
期に、来る11月14日 (日)に開催することにしました。

また、同日、総会にあわせて、「このままでいいのか?都立の大学」
と いうテーマの集会も開催します。この集会では、12月都議会で
の新大学 定款論議を前に、「本当にこんな大学の設置を認めていい
のか?」という 点での一致を求めて、学内の各諸団体から発言を求
め、あわせて、学外の 都内・都政の各領域で起こっている諸問題に
ついても短い報告をいただき ながら、学内の取り組みを学外から応
援していくことを考えています。そ れに加えて、この間学内諸団体・
個人間で、意見表明や取り組みについて 若干の「不協和」や「齟齬」
が生まれているかにみえる状況に対して、都 民の立場から改めて、
「立場や意見は異にしていても都立の大学の良質な 蓄積を守り、ま
た学生・院生の権利を守るという点で一致を」との声を届 ける会に
もしたいと考えています。

 みなさん、どうぞふるってご参加ください。


投稿者 管理者 : 2004年10月01日 00:43

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