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2005年01月11日

信濃毎日新聞、社説=憲法論議その視角(1月3日~1月9日)

社説=憲法論議-その視角 平時の改正論 急ぐことより「成熟」こそ(1/03)
社説=憲法論議その視角 地球との対話 「人類の脅威」克服に向け(1/04)
社説=憲法論議その視角 戦争放棄 新たな意義を踏まえつつ(1/05)
社説=憲法論議その視角 次世代の育成 心豊かな未来を目指して(1/07)
社説=憲法論議その視角 地方自治強化 自立の意気込みを確かに(1/08)
社説=憲法論議その視角 舞台の整え方 国民の手の内でじっくり(1/09)

1月5日付社説から一部抜粋

<「押しつけ」と歓迎と>

 憲法もおびただしい犠牲の上に、今につながる一歩を踏み出した。歴史の反省と未来への希望が、そこには刻まれている。憲法論議を進めるとき忘れてならないポイントだ。

 憲法の中身が連合軍主導で決まった経過は、多くの資料で裏付けられている。日本が二度と戦争を起こさないようにするための歯止めを、条文に盛り込もうとした。

 とりわけ九条の戦争放棄条項だ。改正を唱える人たちが論拠の一つとする「押しつけ憲法」との見方は、その限りでは間違っていない。

 同時に、当時の日本人が戦争放棄の考えを心から歓迎したことも事実である。例えば文部省がそのころ発行した社会科教科書「あたらしい憲法のはなし」にはこう書いてある。

 「みなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」

 時代の高揚感がにじむ。

<専守防衛政策を導き>

 戦後半世紀余りの間、憲法はしっかり働いてきたと言っていいだろう。日本が豊かな国になれたのは、憲法が平和や人権を大事にする原則を高く掲げてきたことが大きい。

 平和の理念は専守防衛、非核三原則、武器輸出三原則など、一連の抑制の利いた防衛政策に結びついている。憲法は旧日本軍の記憶が残るアジアの人々の日本に対する疑心暗鬼を、和らげる役目も果たしてきた。

 半面、戦後日本の歩みは憲法の精神にどこまで忠実だったか疑問も残る。憲法発効の三年後には警察予備隊、のちの自衛隊が発足する。自衛隊は今では世界有数の実力部隊に成長した。時の首相が「自衛隊は軍隊だ」と明言する状況は、九条規定が空洞化する懸念を浮上させる。

 戦後の防衛政策で加えて見落とせないのが日米安保条約の存在だ。自衛隊は専守防衛に徹する一方、米軍が強力な抑止力で日本を外敵の侵攻から守る構図である。

 抑止力の中に「核の傘」が含まれるかどうかは、国会でも論点の一つであり続けた。日本の戦後は、憲法が安全保障政策との調和に苦しみ続ける年月でもあった。

 安保条約は九六年四月の日米安保共同宣言により、大きな変容を遂げている。条約の目的はそれまでの日本防衛から「アジア太平洋地域安定の基礎」に変更された。“日米同盟の世界化”と言える。

 二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロがさらに一石を投じる。日本政府は米英軍のアフガニスタン攻撃に合わせ、海上自衛艦を派遣した。米国がイラク攻撃に踏み切り「主要な戦闘の終結」を宣言した後は、陸上自衛隊も送り出している。

 外交・防衛政策のここ数年の流れは、専守防衛の基本原則との折り合いを一段と微妙にしている。改憲により状況を一気に打開し、集団的自衛権行使への道も整えようとする動きは、ここからも出てくる。

<世界に広げる希望>

 制定から長い間、憲法が力を失わないできた理由はどこにあるのだろう。一つには、世界の人々が営々と重ねてきた平和への努力をしっかり踏まえていることと考える。

 第一次大戦の反省から一九二九年、不戦条約が結ばれる。「締約国は国際紛争解決のため戦争に訴ふることを非と」すると定める。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という憲法の条文は、不戦条約の精神そのままだ。

 国連憲章は、加盟国が軍縮を進め安全保障は国連に委ねる考えに立つ。憲法は国連憲章とも響きあう。

 イラク戦争では力の政策の限界がはっきりした。社会安定への民生面の役割が注目されている。軍事力に重きを置かない憲法の意味にあらためて、光が当たる展開だ。

 国際協力機構(JICA)は昨年、アフガニスタンの新憲法制定を手助けするため日本から法律専門家を派遣した。前駐アフガニスタン大使駒野欽一さんによると、アフガン側が詳しく聞きたがったのは、日本の経済発展に平和憲法がどんな役割を果たしたか、の話だったという。

 国造りをこれから始めようとしているアフガンの人々にも、日本の憲法は希望を与えている。憲法論議で踏まえたい観点の一つだ。


投稿者 管理者 : 2005年01月11日 00:24

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