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2005年01月13日

教育基本法改正、与党中間報告の問題点(改訂版)

教科書情報資料センター
 ∟●与党中間報告の問題点(改訂版)

与党中間報告の問題点(改訂版)

 2003年3月20日、中央教育審議会が教基法「改正」の答申を出し、その後、与党による協議が積み上げられ、04年1月、正式に「教育基本法改正に関する協議会」の名前で協議を進めることが合意され、6月20日に与党の「中間報告」がまとめられた。

 この与党中間報告を読むとき、自民党と公明党の間に、「愛国心」と「宗教教育」をめぐる対立ほかを残しているとはいえ、すでに根本的な点で改悪へと踏み出したことは重要である。その内容を別表に掲げておいたが、削除されようとしている点を条文の順に従って要約すれば、以下のようである。

 ①憲法と教基法の有機的結びつき、②平和的国民の形成という目的、③個人の尊厳と価値、④学問の自由の尊重、⑤平等主義教育の課題、⑥部落差別の撤廃、⑦九年の義務教育制、⑧男女共学、⑨教育の公共的性質、⑩教育の自立性などである。

 また、今回新たに加えられようとしているのは、a道徳心の涵養、b公共の精神、c伝統文化の尊重、d「愛国心」ないし「国を大切にする」こと、e能力に応じた教育、f大学・私学・幼児教育、g家庭教育の第一義的責任、h生涯学習、i教育行政の教育内容への責務、j教育振興計画などである。

 これらの特徴をさらに要約するならば、第1に、現行の教基法は、平和憲法の制定を承け、平和的国民の育成をうたってきたのだが、今回その基本方向を否定し、代わりに盛り込もうとしているのが「愛国心」ないし「国を大切にする」である。

 また第2に、戦後教育の目標とした重要な価値観としてあった個人の尊厳、学問の自由、部落差別の撤廃などを削除し、今回、これらに代わって加えられようとしているのが、道徳心、公共の精神、伝統文化などである。個性・知性・人権を抑制し、戦前的価値観への逆戻りである。

 さらに第3に、戦後教育のシステムの基礎となってきた平等主義教育、それを支える9年間の義務教育と男女共学の条項が抹消され、代わりに加えられようとしているのが、能力に応じる教育、大学・私学・幼児教育の規定である。教基法第3条には、これまでにも能力主義教育を容認するとの批判が一部あったが、それを制御する役割を果たしてきたのが「ひとしく」であり、その文言が削除されようとしている。「能力に応じた教育」のみになった意味はきわめて大きなものとなろう。

第4は、教育において家庭教育の第一義的責任が加えられたことの意味である。これまで学校教育は、家庭教育の不備をも補うものと考えられていたが、そうした側面を否定し、教育の多くの側面を家庭教育へと移行させ、公教育から排除してよいと認めたことを意味しよう。教育改革を唱えながら、実質は公教育が負担する部分を切り捨て、スリム化が目指されているというべきだろう。いっぽうで「家庭、学校、地域等の連携」もうたわれてはいるが、右の基本から生じる弊害を補うものとしか考えられていないようである。

 そして最大の注目を要する変化は、教育の公共性と自立性が全否定されたことである。教基法の特徴は、「国民全体に対し直接に責任を負」(第10条)うという基盤の上に打ち立てられていることに特徴があり、それが教育の「公共性」、教員の「全体への奉仕」(第6条)の意味するところであるとともに、不当な支配を排除する教育の「自立性」(第10条)を保障する必要性が導き出され、教育行政の権限というものは、狭く条件整備に限定されてきた(第10条第2項)。

 それらが今回削除され、反対に教育行政による責任と義務が大きくとりあげられ、その中には「教育水準の維持」が盛り込まれていることから、教育内容への行政の責務が入ったと見るべきだろう。国家による教育権の明確化であり、そこから「不当な支配」の主体は、これまでの国家などから、労働組合であったり市民運動などへと変わり、意味内容を180度転換することになる。

 最後に、振興計画の盛り込みについても理解しておく必要がある。これは教育に限らず、他の分野でも同じだが、現在の国家機構の仕組みでは、基本法と振興計画を結びつけることで、国家予算の確保をほぼ自由にできる権限を担当省庁に発生させることになる。文部科学省が、教基法の改訂を推進してきた主な動機は、行政改革のもとで省庁のスリム化が求められている中、自らの省益を保護し権限を確保する有力な方法として、教基法の改訂により、この部分を獲得しようとしてきたからにほかならない。……



「現行教育基本法と与党中間報告の対照表」は省略。上記URLを参照して下さい。

投稿者 管理者 : 2005年01月13日 01:15

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