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2005年01月17日

全大教、「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」に関する意見書

全大教
 ∟●「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」に関する意見書(05/01/06)

「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」に関する意見書

2005年1月6日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会

 私たち国公立高等教育機関で働く教職員は、高等教育における教育研究が将来にわたり、一層充実することをめざして勤務しています。昨年4月に法人制度に移行した国立大学・大学共同利用機関・高専について、どのような高等教育の将来像が描かれるかを、重大な関心をもって受け止めており、その立場から、『我が国の高等教育の将来像(中間報告)』(以下『中間報告』と略記します)について、以下に意見を申し述べるものです。

1.高等教育への公財政支出
 私たちはかねてから人類と地域社会の負託に応える高等教育の新たな構築をはかるため、高等教育予算の拡大をはかることを求めてきました。この問題に関連して、『中間報告』が、現代社会において高等教育を社会の基盤と位置づけ、「高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者」として、公財政支出の抜本的な拡充をとなえており、とりわけ、欧米並みの公財政支出には及ばないだけでなく、OECD加盟国平均である対GDP比の約1%を遙かに下回り、最低位に属していることなどを資料により提示していることは、大きな意義があると言えます。
 ただし、高等教育への公的財政支援を具体的にどのように充実していくかについて、『中間報告』に示される方向性が、いくつかの問題点を内包していることを指摘せざるをえません。財政支援の具体的内容として、「高等教育への公財政支出の拡充と民間資金の積極的な導入」、「国公私を通じた競争的・重点的支援」を挙げています。こうした競争的経費と外部資金獲得の傾向を強めることが、基礎研究と先端研究のバランス、教育と研究の結合にどのような影響をもたらすかは慎重に検討されるべきです。一つには、経済活性化につながる特定の先端的研究領域の偏重が生じ、結果として、基礎的な研究や教育が軽視され、教育と研究の一体性が弱体化する可能性が危惧されます。また、上述した高等教育に関する国の財政支援策の受容がそれぞれの大学から「自発」的に促進され、この結果として行政の高等教育機関への介入がむしろ一層強化され、学術文化の発展に偏りが生じることも危惧されます。
 とりわけ、昨年4月に法人化し、現場での教育研究経費の減額という現実に直面している国立高等教育機関の教職員にとっては、何よりも基礎的基盤的経費の充実が必要不可欠であり、この点の十分な強調が必要と考えます。

2.大学の機能別分化と大学間格差是正
 『中間報告』は、「個性・特色ある大学の機能別分化」をとなえ、「各大学は、固定的な『種別化』ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(二大学の判断に基づく個性・特色の現れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。」としています。各大学が機能の比重の違いにより、自身の将来像を形成していくとしていることは、各大学の自律性と多様な実態を見据えた現実的な展望であると考えます。
 ただし、大学間にはすでに格差構造があり、旧帝大を頂点とする財政規模格差、都市・地方などの地理的社会的条件による格差が従来から実質上各大学を規定しています。そうした条件から自由に、大学が自身の判断で個性を機能させる余地は低いという現実を指摘せざるを得ません。この点でも、公財政支出が「国公私を通じた競争的・重点的支援」とされている点は問題です。それぞれの設置形態内部にある格差構造をそのままにして、国公私を一つにまとめても、既にある格差解消どころか、むしろ国公私を巻き込んだ弱者切捨てに拡大していくことが危惧されます。
 大学間地域格差について『中間報告』は、「地方における高等教育機関は、教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。」とし、「地域社会の二一ズに十分応えるべき分野(例えば医療・教育等)や、需要は少ないが学術・文化等の面から重要な学問分野については、国として全体的なバランスが図られるよう配慮していかねばならない」として、市場原理では解決できない高等教育の特性を訴えている点は重要です。とくに地方国立大学について、地域ごとの社会経済的な差異にもかかわらず、公的財政支援により、人材養成および文化・学術の面で、地域における拠点として一定の機能を果たすことができていることを、私たちは重視しています。今後、教育研究の両面において、地域間大学格差を縮小させるような公的支援の具体策が必要と考えます。

3.評価と資源配分について
 『中間報告』は事前規制から事後チェックヘという高等教育政策の流れにおいて、「高等教育の質の保証が課題となる」としています。しかし、高等教育機関における教育研究の充実に資する評価のあり方には、なお十分な政策的検討が必要です。一つには、国立大学法人法案等関係6法案の国会審議で附帯決議が行われた経緯にも明らかなように、評価における公正性・透明性確保の問題があります。国立高等教育機関の評価機構と資源提供者が未分離であることにより、学問の自由と大学等の自治が、財政誘導によって実体のないものとなることが危惧されます。公正な評価制度の確立には、資源配分の算定基準を公表するとともに、大学等からの意見申し立ての機会を十分保障すること、基礎的基盤的分野については、短期的評価による資源配分の対象とせず、教育、研究の総合的で均衡ある発展を支えるに足る財政措置を行う必要があります。
 私たちは、評価と資源配分機関が直結する現在の方式を見直し、少なくとも、資源配分については、その自律性を高める立場から、大学・高等教育関係者が担うよう改める必要があると考えます。例えば、国大協、全大教など教職員の組織が関わるかたちで、大学関係団体自身が機能を果たしていく必要があると考えます。
 また、『中間報告』は「認証評価制度は事後チェックの中核としてきわめて重要」と位置づけています。しかし、現行認証評価制度では、評価機関の許認可権を政府が掌握し、評価基準の設定や運用に国が実質的に関与するなど、国による大学の管理統制を強め、結果として学術研究の本質をゆがめる可能性があることに『概要』は十分な検討を加えてはいません。ただし、『中間報告』は、分野別評価に限定してではありますが、「学協会等関係団体の協力」を求め、「評価する側の質の高さや適正さを担保するための仕組みを整えること等がより重要となろう」と評価機関のあり方は検討課題としています。私たちは、認証評価における国の関与を、これ以下であってはならないという最低基準を示すという意味での適格認定にとどめるとともに、評価基準の作成と運用の両面において、第三者とともに、大学・高等教育関係者の参画が不可欠と考えます。


投稿者 管理者 : 2005年01月17日 00:09

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