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2005年02月22日

横浜市立大学の未来を考える『カメリア通信』第32号

学問の自由と大学の自治の危機問題
 ∟●『カメリア通信』第32号2005年2月20日大学改革市民アンケート、全面開示へ 情報公開・個人情報保護審査会 市長に答申 理学部 一楽重雄

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横浜市立大学の未来を考える
『カメリア通信』第32号
2005年2月20日(不定期刊メールマガジン)
Camellia News No. 32, by the Committee for Concerned YCU Scholars
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大学改革市民アンケート、全面開示へ
情報公開・個人情報保護審査会 市長に答申

理学部 一楽重雄

横浜市立大学が大学改革案を策定するために行った「大学改革市民アンケート」は、その結果の全容が発表されず、その一部が「横浜市立大学の新たな大学像について」の附属資料として発表されただけであった。そのため、「アンケート結果が必ずしも予定していた実践的教養大学を支持する結果になっていないので一部しか発表しないのではないか」との強い疑いが生じた。そのため、「横浜市が保有する情報の公開に関する条例」に基づき、一市民としてアンケート結果の集計結果を記載した文書を開示するよう請求した。これに対して、横浜市は回答者の個別の意見の大部分を黒塗りとしたものしか開示せず、その理由としては「回答者が識別される」、「回答者の権利権益が犯される」、「回答を公表しないと言って行ったアンケートであるから回答者との信頼関係が崩れる」などの理由をあげていた。しかし、黒塗りとしたものの中にも、すでに公表している個別意見なども含まれていることや、そもそも、このアンケートの趣旨からしてアンケート結果は公表することが当然であると考えた私は、この一部開示決定に対して、平成16年5月14日に異議申し立てを行った。
この異議申し立てに対して、横浜市情報公開・個人情報保護審査会は平成17年1月7日と21日に審議を行い、2月14日に横浜市長に対して「横浜市長が大学改革アンケート集計結果を一部開示とした決定は、妥当ではなく、開示すべきである。」との答申を行った。横浜市の主張は、ことごとく認められなかった。私自身は黒塗りの部分を読むことが出来なかったので、そこに個人や個別の会社が特定される情報が記載されていないとは断言できなかったのであるが、審査会はこれらを見分した結果、まったく、非開示にする理由はないと結論した。審査会の答申では、個別意見を開示しても回答者が特定される恐れはないとした。また、開示請求した文書は回答そのものではなく、それらをもとにアンケート結果をまとめたものであることから、信頼関係が壊れる恐れもないとした。
これは、私の主張が正しかったことを第3者が認めたものである。この答申の意味は、6つの文書の内容がこれから明らかにされるだろうという以上に大きな意味を持つものであると思う。「市立大学の今後のあり方懇談会」の答申(平成14年度)に端を発し、「大学自らが改革案を作成する」として、そのために行った「大学改革シンポジウム」や「大学改革アンケート」は、すべて非民主的なものであったという多くの人々の主張の正しさが裏付けられたものだと私は考える。今回の審査は、大学改革アンケートの集計結果の開示に関するものではあるが、「市立大学の今後のあり方懇談会」自身も、もともと特殊な意見を持った人[橋爪大三郎]を座長にすえ、大学事務局の主導によって懇談会を運営すると言う、およそ非民主的なものであったことは、すでに指摘したとおりである。また、「大学改革シンポジウム」もフロアからの意見をまったく受け付けないという常識では考えられない運営であった。大学自らが策定したとされる「横浜市立大学の新たな大学像について」も実際には教職員のごく一部の人たちによって作成されたものでしかないことは、教授会などでの実質的な審議がまったくないこと、最終的にこの案を審議した評議会が深夜まで紛糾したことなどでも明らかであった。しかし、これらの段階の事柄については、横浜市の行動が違法と言いきるのが難しい形を取っていたが、このアンケート結果の開示については、明確に第3者の結論が出されたわけである。これらの横浜市の行動は一貫したものであり、今回明確になった非民主性はすべてに共通するものであると私は考えている。
また、実際には「新たな大学像」に基づいてカリキュラムなどを構築することは、多くの教員の協力を得たとは言っても、それはまさに協力であって、カリキュラム等作成の責任と主体は横浜市にあり、大学はまったく関与していない。これは明確に「大学の自治の侵害」であって、違法なことである。違法ではあっても、行政が強引に押し進めてしまえば、裁判などの手段によらない限り、それを止めることはなかなか出来ない。そして大学改革案の策定ということがらは、もともと裁判にはなじみにくい。市民の意見によるのでもなく、現場の教員の考えによるのでもなく、誰かよく分からない少数の人が描いた「オンリーワン大学」は、確かに現実化しつつある。ただし、"入試倍率激減のオンリーワン大学"として。
2月3日に確定した横浜市大の「入試倍率」は極端な低下を示している。昨年度の一般入試志願者の倍率は5.4(総志願者数4654募集人員586)であったが、今年度の倍率は3.7(総志願者数2420募集人員660)に留まっている。(昨年度について手元のデータには看護短大は含まれていない。)今年度の公立大学の全国平均は、6.8倍である。公立大学法人横浜市立大学が、受験生にとっていかに魅力ないものとなっているかが如実に分かるデータではないだろうか。
大学の伝統は、学生、教職員のみんなの意識的な、あるいは無意識のたゆまない努力によって、長い時間の経過とともに創りあげられるものではないだろうか。この一連の大学改革騒動によって、多くの教員が大学を去ったし、今も去りつつある。「反対のための反対」が無意味であることはよく言われるが「改革のための改革」もまた同様に虚しい。伝統を壊すことは簡単だが、それを創り上げることは一朝一夕には出来ないのである。今回の大学改革の内容が、新聞に報道されることだけを目的としたとしか思えない無意味なものであることは、そろそろ誰の目にも明らかになってきたのではないだろうか。この時期に、市民が求める大学とは何なのか、原点に回帰して謙虚に考え直そうではないか。

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編集発行人: 矢吹晋(商学部非常勤講師) 連絡先: yabuki@ca2.so-net.ne.jp


投稿者 管理者 : 2005年02月22日 01:01

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