個別エントリー別

« 全大教、「国立大学の学生納付金標準額の引き上げに反対する」 | メイン | 岩手大学教職員組合、「教員評価(案)に関する教職員組合の意見」 »

2005年02月21日

こんな判決でいいのか。東京地裁、裁判官による一般週刊雑誌での判決批判は「問題なし」?

 2月16日付本サイトに「名誉棄損訴訟:判事による判決批判は問題なし 東京地裁」(毎日新聞2005年2月18日付)という記事を載せました。この東京地裁決定はかなり問題を含んだ決定であると考えています。この点について,本件原告である帝京大学藤原英夫教授からコメントを頂きました。下記に掲載します。(ホームページ管理人)

(当名誉棄損訴訟の原告である帝京大学藤原英夫教授より頂いたコメント)

 本件、名誉棄損裁判の毎日新聞社会部ニュース、2005年2月18日報道は、被告現職判事と神社本庁および関係機関等の原告に対する誹謗中傷の名誉棄損について、損害賠償請求の提訴としたものです。事件の経緯は報道にあるように、横浜地方裁判所井上薫判事が、「小泉総理大臣靖国参拝」の福岡地裁判決で違憲判断となった事件について、週刊新潮で「違憲」の蛇足判決として、これを原告の「信州大学のキャンパス神社訴訟」違憲判決も同じであるとし、神社本庁・同関係機関およびメヂアが一緒になって、不特定多数を対象とする報道を行ったものです。よって、原告は、主たる裁判の争点を、この憲法司法の独立、すなわち裁判官独立の規定に反するとして、提起しました。

 すなわち、現職判事が、仮に裁判官会議または学会、教育の場など物事には限度があって、限定された範囲の批判は別としても、この様に一般週刊誌あるいはインターネットなど、不特定多数を読者とするマス・コミ紙上で「蛇足判決」などと悪口を叩くのは、誹謗中傷に当たるということです。その上、その判事が、神社本庁など特定の宗教、宗派と一緒に機関紙、インターネット・ホーム・ページなどの関係する宗教団体どと、タイアップして名誉棄損の行為を行うのは明らかな違法です。少なくとも、現職判事は、憲法99条憲法尊重擁護義務、すなわち公務員としての憲法遵守義務があり、これはTPOと弁えた行動が求められているものです。
 
 もし、全国の判事が、皆でそれぞれ他の判事の判決を、マスコミで「違法」であるとして大々的に報道しあったら、果てしない司法の独立、憲法の裁判官の独立原則の侵害となります。何よりも、司法と裁判判決の権威、信頼は失墜して、社会的な混乱を招きます。従って、物事はほどほどの社会的常識と遵法精神、特に憲法の編成権に関わる司法の独立の原則は、やはり維持しなくてはならないのです。

 よって、本件は、東京高等裁判所に控訴して、憲法司法の独立を守る闘いを継続します。

下記は,東京地裁の決定を掲載したもう一つの新聞記事。

裁判官が雑誌で判決批判「問題なし」…東京地裁

読売新聞(2/18)

 小泉首相の靖国神社参拝を「違憲」と述べた福岡地裁判決を、横浜地裁の井上薫判事(50)が雑誌で批判したことについて、別の政教分離原則を巡る訴訟を起こしていた藤原英夫・帝京大教授(69)が井上判事らに160万円を支払うよう求めた訴訟の判決で、東京地裁は18日、請求を棄却した。

 藤原教授は「雑誌の記事で名誉を傷つけられた」「裁判官が判決を批判するのは、裁判の信頼を脅かす」などと主張したが、金沢秀樹裁判官は「記事は藤原教授を批判したものではない」とし、「裁判官が職務を離れて判決を批判することは問題ない」と指摘した。

 福岡地裁は昨年4月、首相の靖国参拝により信教の自由を侵害されたとして宗教関係者などが賠償を求めた訴訟について、請求を棄却したが、判決理由の中で「参拝は違憲」と指摘した。これに対し、井上判事は同月発売の「週刊新潮」で、「主文に影響を及ぼさない憲法問題を、理由欄にあえて書くのは『蛇足』だ」などと批判していた。

 藤原教授は、信州大学の構内に神社があるのは憲法の政教分離原則に違反するとして、神社の移転などを求め提訴したが、1、2審とも請求を棄却し、確定している。ただ、東京高裁判決は「憲法の精神に反する」とも指摘していた。

なお,井上判事は,新潮新書より『司法のしゃべりすぎ-判決文は蛇足だらけだ! 現役判事が司法の問題点を鋭く突く』を2005年2月20日付で発売している。

[昨年4月の週刊新潮掲載問題]は続きを読むへ

現職判事が靖国判決批判 週刊誌で「越権」指摘

東京読売新聞(2004/04/15)

 小泉首相の靖国神社参拝を「違憲」と述べた福岡地裁の判決に対し、横浜地裁の現職裁判官が、十五日発売の「週刊新潮」で、「主文に影響を及ぼさない憲法問題を理由欄にあえて書くのは『蛇足』というほかはない」と、痛烈な批判を浴びせている。
 法律雑誌などで裁判官が最近の判例に評釈を加えるケースはあるが、一般週刊誌への寄稿で“同僚批判”を展開するのは異例だ。
 この裁判は、九州地方の宗教関係者、在日韓国・朝鮮人らが、首相の靖国参拝で「信教の自由を侵害された」と主張、国家賠償を求めたもの。同地裁は今月七日、「参拝は、原告らに宗教上の強制などをしたものではないから、信教の自由を侵害していない」として請求を棄却したが、判決理由の中で、「参拝は憲法が禁じる国の宗教活動に当たり、違憲」と言及した。
 これを批判して井上薫判事(49)。「結論に至った理由は、参拝が違憲かどうかということと全く関係がない」「元来、裁判所はこの点について判断する権限を持たず、それをあえてするのは裁判所の越権」などとした上で、「マスコミ向けのスタンドプレーをし、当事者の一方に肩入れしすぎる裁判官が多い」と指摘した。
 さらに、そうした「蛇足判決」によって、〈1〉勝訴した側(この場合、小泉首相)が上訴できず実質的敗訴者となり、「濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」を晴らせなくなる〈2〉司法が政治化し、中立性が喪失される――などの「弊害」が生じると懸念を表明。「裁判所は裁判の独立を守るためにも政治的な動きに巻き込まれてはならない。蛇足は厳に慎まなければならない」と結んでいる。
 矛先はメディアにも。井上判事は、記事で国民を「誤導」することのないよう、「真に判決理由なのか、蛇足ではないかという問題意識を抱いて客観的な眼(め)で判決文を検討して書くべき」だとしている。
 井上判事は東大大学院・化学専門課程(修士)修了。民間企業勤務の後に司法試験に合格、任官した異色の経歴を持つ。「刑事公判の実際」「裁判の基準」(法学書院)など著書も多い。
 井上判事は読売新聞の取材に、「自分の著書で唱えた『判決理由の蛇足』理論を、今回の事件に当てはめただけ。各裁判体は独立して裁判をするのだから、たとえ裁判所の組織内の者が(別の裁判官の判決を)批判しても、『内部批判』とはいえないと思う」としている。

靖国参拝訴訟:福岡地裁違憲判決 現職の地裁判事が批判--週刊新潮で

毎日新聞(2004/04/15)

 小泉純一郎首相の靖国神社参拝を「違憲」と判断した福岡地裁判決(7日)について、井上薫・横浜地裁判事(49)が、首都圏などで15日に発売される「週刊新潮」(4月22日号)に「裁判の中立性に疑問が呈され、偏向裁判との評価がなされる」などと批判する投稿をしていたことが分かった。現職裁判官が、確定前の判決批判を週刊誌で展開するのは極めて異例。
 「やっぱりヘンだよ『靖国参拝』蛇足判決」の見出しの記事で、井上判事は、福岡地裁判決が主文で原告の損害賠償請求を棄却したことに触れ「主文に影響を及ぼさない憲法問題を書くのは『蛇足』というほかなく、厳密にいえば違法」などと指摘。また、判決の「弊害」として(1)勝訴した小泉首相側が上訴できず(憲法違反という)「濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」をはらすことができない(2)司法が政治化し、中立性を喪失する――などと述べた。
 更に、違憲判決をトップニュースとした報道についても「国民を誤導するもの」などと批判している。
 井上判事は86年任官。千葉、神戸地裁などの判事補や、前橋地家裁高崎支部などの判事を歴任した。同支部判事時代には、群馬県を相手取った民事訴訟の原告から「裁判長が弁論期日を一方的に決め、原告不在のまま判決を言い渡した」として提訴された。提出した答弁書の中で「因縁をつけて金をせびるような新手の法廷戦術」と反論したことが名誉棄損に当たるとして、前橋地裁は03年7月に20万円の支払いを命じた。2審では逆転勝訴した。


首相靖国参拝――現職判事が判決批判、週刊誌に寄稿「違憲判断は蛇足」

日本経済新聞西部(2004/04/15)

 小泉純一郎首相の靖国神社参拝を違憲と判断した四月七日の福岡地裁判決に対し、横浜地裁の井上薫判事が十五日発売(四月二十二日号)の「週刊新潮」に「主文に影響しない憲法問題を理由にあえて書くのは『蛇足』というほかない」とする批判を寄せた。
 現職の裁判官が、肩書や名前を明らかにして、大手週刊誌で判決について論評するのは異例。
 この訴訟は、九州の宗教家や市民ら二百十一人が参拝は違憲として、首相と国に損害賠償を求めた。請求自体は棄却されたが、判決は理由の中で「参拝は憲法が禁止する宗教的活動に当たる」と述べた。
 井上判事は寄稿で、蛇足で憲法問題を判断するのは「裁判所の越権」とした上で、「マスコミ向けのスタンドプレーをして、当事者の一方に肩入れし過ぎる裁判官が多く、さまざまな弊害を引き起こしている」と指摘。
 今回の判決での小泉首相のように実質的敗訴した場合、上訴できずに「ぬれぎぬ」を晴らすことができない点や、政治的問題に意見を述べれば裁判所の中立性が疑われることを挙げ、「蛇足は厳に慎まなければならない」と結んでいる。
 井上判事は八六年に判事補となり、水戸地、家裁下妻支部判事、前橋地、家裁高崎支部判事などを経て、四月から横浜地裁判事。「裁判の基準」などの著書がある。
 高崎支部時代には、訴訟指揮を巡って当事者から損害賠償訴訟を起こされ、一審前橋地裁は井上判事の提出した答弁書が名誉棄損に当たると二十万円の支払いを命じたが、二審東京高裁は請求を棄却。相手が上告している。


投稿者 管理者 : 2005年02月21日 00:30

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi311/mt/mt-tb.cgi/699

コメント