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2005年03月10日

国立大法人化1年 小宮山宏氏VS佐和隆光氏

東京読売新聞(3/08)

 国立大学が法人化されて4月で1年になる。規制が緩和され、大学の裁量が生かされるはずだが、その効果は表れているのだろうか。授業料のほぼ一斉値上げなど、相変わらずの横並びにも見える。現状と課題を聞いた。
 
 ◇小宮山宏氏
 ◆「自由裁量」まだ不十分
 ――この1年を振り返っての感想は。
 小宮山 これまで国立大学は、画一的で金太郎アメのようになっていた。文部科学省が制度を定めており、大学は一々お伺いを立てねばならなかったからだ。その規制が取り払われ、国立大学法人として自由裁量を持つようになったことは良い。だが、百年に一度の大改革にもかかわらず、法人化は非常に唐突で、これほど早く実施に移されるとは我々も思っていなかった。法人の形を整えるのに精いっぱいで、自由裁量とは何かの検討が不十分なまま走り出した。この1年で、いかに多くのことが自由にならないかがわかった。
 ――どういうことか。
 小宮山 規制や制限が残っており、自由裁量が制限されている。特に財務面が不自由だ。国立大学の物品は、政府調達手続きをする規則がある。法人化後も国から運営費交付金が配分されており、この規則は生きている。例えば、1500万円以上の物品を購入する際は国際入札にかけねばならない。東大のように規模が大きいと、すぐその額を超える。時間と手間がかかるが、海外企業の応札は何年もない。死文化した規則に縛られている。
 ――効率化が難しい。
 小宮山 民間企業は、まとめ買いなどで、財務の効率化をはかるが、国立大学法人はそれができない。ほかにもこうしたたぐいの規制が残っている。両手両足を縛られたまま、海に放り込まれ、自由に泳げと言われているようなものだ。
 ――法人化の効用は。
 小宮山 人事制度は比較的自由になった。特任教員制度を作り、企業の寄付などの外部資金で雇えるようにした。運営費交付金を使わず、幅広い人材を登用できる。教員の年齢制限も取り払われたので、小柴昌俊・東大名誉教授など世界の頂点に立つ学者による講義も始める。また、これまでは学部ごとに教員を採用していたが、大学本部でも採用できるようにした。学問が細分化し全体像をつかみにくくなっており、それを統合するためだ。こうしたことで教育や研究の質向上につながるはずだ。
 ――国立大学の授業料が春から値上げされる。学生へのサービスという点ではマイナスではないか。
 小宮山 国が授業料の値上げを前提として、その分の運営費交付金減額を打ち出した。まだ1年目の決算が終わっていないのに、我々もショックだ。人材育成への影響も大きい。東大は学部の授業料は値上げするが、大学院博士課程は値上げをしない。1億円の減収だが、人材育成という筋を通したつもりだ。入るを量りて出ずるを制する一方、国に日本の高等教育の現状を訴えたい。
 ――現状とは。
 小宮山 経済協力開発機構(OECD)諸国の高等教育支出を見ると、国内総生産(GDP)比で1%だが、日本は0・5~0・6%だ。欧州の授業料は日本の半分以下だろう。米国の授業料は高いが、多くの減免策がなされている。そうした実情を政策決定の場にいる人は見ようとしない。人件費が高いのではという意見もあるが、国際比較してほしい。むしろ低い。東大の教職員7500人のうち教員は4000人で、給与も私立大学より低い。教員は大学の“商品”だ。それを削減して何の意味があるのか。
 ――産学連携などで収入を得ようとする傾向が一層強まった。実利的でない基礎研究や文学などの分野は冷遇されないか。
 小宮山 そんなことはない。大学人は学術に対する見識がある。心配なのは貧すれば鈍することだ。小さな国立大の中から、背に腹は代えられないと、切るところが出るかもしれない。
      ◇
 ◇こみやま・ひろし 東大副学長。4月からは東大学長。専門は化学システム工学、地球環境工学。60歳。
  
 ◇佐和隆光氏
 ◆事務部門の見直し急務
 ――かねてから、法人化の問題点を指摘してきた。
 佐和 法人化とはそもそもはお金の話で、国立大学特別会計の歳出を削減することが狙いだ。これまでの国立大学は、定員に応じて人件費などが配分され、予算が硬直化していた。人件費と物件費をひとまとめにして運営費交付金として大学法人に渡し、どう使うかを任せた。そうすることにより効率化が可能だとして、2005年度から大学への運営費交付金が毎年1%弱ずつ減らされていく。他方、大学法人は6年間の中期目標と中期計画を文部科学省に提出し、達成度の評価が評価委員会に委ねられる。結果は運営費交付金の額に反映される。達成度の高い大学は増額されるが、低いと減額される。
 ――予算的に厳しい?
 佐和 企業が効率化をはかる場合、間接部門の職員を減らす。例えば、総務部門から、営業、製造、宣伝などのライン部門へ人を回す。しかし大学は企業にはない難問を抱えている。ライン部門にいるのは教員であり、間接部門にあたる膨大な数の事務職員を抱えている点だ。京大の場合、教員約3000人に対し、職員約1500人だ。米国の大学では考えられない構成だ。しかも事務職員の役割が日米の大学では異なる。
 ――どういう意味か。
 佐和 米国の大学の事務職員は、教育や研究を支援することに徹している。例えば、応募・審査を経て国や財団から研究費を獲得する競争的研究資金があるが、事務職員が申請書の書き方の指南役を務める。しかし、日本では国家公務員時代のなごりで、事務職員は教員を管理することを本務としている雰囲気だ。事務職員の役割を見直し、その配置を適正化することが、大学法人の経営効率化に資する最優先の課題だ。
 ――大学は変わったか。
 佐和 運営費交付金の配分の在り方を抜本的に改めようとしている大学もあれば、旧態依然のところもある。国家公務員でなくなったのに、国家公務員法や教育公務員特例法に由来する規制を温存しているところもある。教職員の定員の枠が取り払われたのに、生かせないところもある。自由化・効率化の進展はまちまちだ。そうした中、大学間の格差が目立ち始めた。
 ――格差とは。
 佐和 産業界でも独り勝ち傾向が強まっているが、大学も同じだ。制度改革などが大学の創意工夫に任された結果、群雄割拠の競争ではなく、強いものがますます強くなる。毎年度、各大学法人が応募できる「特別教育研究費」という枠がある。運営費交付金に追加されるボーナスのようなものだが、2005年度の配分額を見ると、東大の獲得金額が圧倒的に多い。
 ――格差はお金だけか。
 佐和 もともと国立大学には暗黙の序列がある。序列の高い大学へ優秀な研究者が流れる傾向が加速された。私立大学も、優秀な人材が引き抜かれるから安心できない。お金も人材も一極集中の傾向があり、このまま数年たてば東大の独り勝ちになりそうだ。
 ――産業創出などの役割も課されている。
 佐和 昭和35年の池田内閣の「所得倍増計画」で、学術・科学は経済のしもべであるべしという考えが打ち出された。以来、学問の価値を有用性ではかる風潮が根付き、法人化で一層加速された。だが、授業料以外の金を稼ぐのは容易ではない。だからといって、すぐに役に立たない研究を冷遇してはならない。予想外の応用の場が生まれる可能性がある。例えば京大の数理解析研究所の伊藤清先生の独創的な研究は、数十年後に金融工学に生かされ、米ウォール街でもその名が知られている。無用の学を大切にすることが必要だ。
       ◇
 ◇さわ・たかみつ 京大経済研究所所長。専門は計量経済学、エネルギー・環境経済学。62歳。
 
 《寸言》
 ◆知の創出 長期的視点で
 国立大学の法人化は、一気に進んだこともあって、多くの大学が戸惑っている。様々な規制が残っていることも混乱に拍車をかける。小宮山氏は「両手両足を縛られたまま、自由に泳げと言われているようなもの」と言う。予算面の厳しさも増しており、佐和氏は「国家公務員時代のなごりの事務職員の役割の見直しや、配置の適正化が、最優先課題」と語る。
 大学は、人材育成や知の創出を腰を据えて行う場のはずだ。効率化や目先の利益にとらわれ、視野の狭い研究や人材の育成になっては困る。両氏の大学は、様々な点で恵まれているが、規模の小さい大学では一層問題が深刻だ。政府も大学もより良い姿を引き続き模索すべきだ。


投稿者 管理者 : 2005年03月10日 00:22

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