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2005年04月25日

国立大法人化から1年(1)裁量は広がったのか

日本経済新聞(2005/04/22)

 頑張れば学費五十五万円で医師になるのも夢じゃない――。山口大が今月導入した授業料優待制度が話題を呼んでいる。半期ごとの各学部の成績優秀者二人は次の半年の授業料を免除するもので、成績トップを続ければ、入学金と最初の前期の授業料だけで卒業だ。

「不可能な発想」
 私大の一部にもあるが、医学部までは珍しい。「学生がやる気を出す仕組みを考えた。法人化されなければ不可能な発想」。加藤紘学長は胸を張る。優秀な学生をねらい琉球大が今春、四年間授業料ゼロの二十人の特別入学枠を設けるなど、他の国立大の動きも急だ。
 今月五日、東京工業大の入学式。新入生約千百人の中に、東工大付属科学技術高校卒の十人の姿があった。国立大が付属高に“エスカレーター式”の特別枠を設けたのは初。相沢益男学長は「理科離れを防ぐため、やる気のある学生を受け入れたい」と期待する。
 昨年四月の法人化で、制度変更に伴う膨大な事務作業に追われた国立大。二年目に入り、旧制度では無理だった試みに次々と挑戦し始めた。
 高知大は退官したOB教授に報酬ゼロで授業や研究をしてもらう「エルダープロフェッサー」制度を始めた。全くのボランティアだが、四月から十人が教壇に立つ。松永健二副学長は「利用できる人的資源はどんどん利用したい」と言い切る。
 だが法人化したといっても「国立」は国立。国の呪縛(じゅばく)から逃れたわけではない。
残った入札義務
 「両手足を縛られて海に投げ込まれ、さあ泳げと言われているようなもの」。東大の小宮山宏学長は不満を隠さない。
 例えば高額の物品調達。政府機関が千六百万円以上の物を買う場合、原則として国際競争入札にかけなければならないが、国立大は依然このルールの適用対象だ。
 まとめ買いすれば安くなる物も、官報に掲載し入札にかけるとなれば、購入は半年以上先。「実際は海外からの応札はほとんどないのに……」。小宮山学長はぼやく。
 さらに予算削減の重圧がのしかかる。
 国が支給する運営費交付金は毎年マイナス一%の「効率化係数」がかかり、自動的に減っていく(専任教員の給与などを除く)。国が今年度、全国立大に渡す同交付金の総額は一兆二千三百十七億円。前年度より百億円近く少ない。
 予算削減を補うのは独自財源しかない。
 二〇〇七年に創立百周年を迎える東北大は、五十億円を目標に募金に乗り出した。記念事業に半額を充て、残りは基金としてプール。大学院の奨学金などに充てる。
 募金だけでなく、寄付講座などの外部資金獲得も直接扱えるようになったが、威力を発揮するのは多数のOBを輩出し、企業とのパイプがある有力大学など。地方大学や小規模大学には不利だ。
学長給与カット
 学長ら幹部九人は毎月給与を三―五%カット――。業績不振会社の経営陣さながらの決断をしたのは信州大の小宮山淳学長。「予算削減で教職員にしわ寄せがいくのは明らか。授業料値上げで学生にも負担を強いているのに、トップが無傷ではいられない」と説明する。
 京大の尾池和夫学長も「文部科学省は国立大の裁量が広がったとPRするが、実際はほとんど自由がない」と手厳しい。文科省と財務省が折衝する概算要求の仕組みは適用され続け、「交付金でこんなことをやりたいと思っても、文科省のおめがねにかなわなければ予算要求さえできない」。
 文科省幹部は反論する。「法人化前も国立大予算には国の削減枠がかかっていたし、他の独立行政法人もマイナス予算でやり繰りしている。工夫の余地は色々あるはず。法人化した以上、努力せず文句ばかりでは国民の理解は得られない」

 国の出先機関にすぎなかった国立大に、独り立ちを求めた法人化から一年。いまだ生みの苦しみは続き、国への不満もくすぶるが、複数の大学幹部は打ち明ける。「もう泣き言を言っても仕方がない。知恵を出さなければうちの大学が消えてしまう」。脱皮を終え、それぞれの道を模索する国立大を検証する。


投稿者 管理者 : 2005年04月25日 00:00

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