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2005年04月26日

国立大法人化から1年(3) 横並びでは生き残れない

日本経済新聞(2005/04/25)

地域か世界か個性模索
 この春、滋賀大で聞きなれない資格の養成プログラムが始まった。
 「環境学習支援士」。環境問題のリーダーに、大学が授与する独自資格だ。琵琶湖を抱える滋賀県は、学校や地域で環境学習が盛んだが、体系的に学んだ指導者の不足が悩みだった。そこに大学が目をつけた。
 定員は学生が二十人、社会人・現役教師が十人。専門科目と実習、課題研究を履修後、資格審査まで最低二年間。今年度は社会人・教員三十六人が志願した。「環境を大学の特色にし、地域に貢献したい」。神部純一助教授の鼻息は荒い。
 高知大も今春、独自資格「防災インストラクター」を設けた。防災関連四科目を履修させ、最終試験を経て認定する。南海地震対策が重要課題の高知県は、地域の防災リーダー育成が急務。「資格があると学生もやる気を出す」。松永健二副学長は、県との共同資格認定もねらう。
■  ■
 存在感が薄いとされた地方国立大が、地域に目を向け始めた。“ミニ総合大学”にとどまっていてはじり貧になると、地元の課題を正面から受け止めたのが特徴だ。
 マグロ漁で名高い青森県大間町。弘前大は、大間漁業協同組合と共同研究を始め、昨年九月、漁協内に、共同研究室を開いた。当面のテーマは、コンブの成育に有害な海草の有効活用と、津軽海峡の急流を利用した自然エネルギー開発。「大学と地域の共同研究の見本にしたい」。同大の加藤陽治・地域共同研究センター長は意気込む。
 東京都内で三月、「国立大学法人地域貢献シンポジウム」が開かれた。トキの野生復帰のため佐渡島の環境保全に取り組む新潟大。地域の女性リーダーを育成する奈良女子大……。二十四大学が成果を競う。金沢大の中村信一副学長は「大学の経営努力が問われている。学生や資金の確保も、地域連携なしにやっていけない」と話す。
 学生サービスもキーワードは「地域」だ。島根大は山陰合同銀行と連携し、国立初の授業料奨学融資制度を始めた。在学中は元金を据え置き、利息は大学が負担。卒業後に島根県か鳥取県に居住または就職すると、金利を〇・五%減免する。
 信州大や佐賀大の医学部、滋賀大の教育学部などは、入試に地元受験生向けの特別枠を設けた。医師や教員不足に対応し、今後も広がりそう。
■  ■
 地域志向が高まる傍らで、有力大学はグローバル競争の勝ち残りに、一段と軸足を移す。
 「東大は世界一の総合大学を目指す」。小宮山宏・新学長は今月記者会見で言い切った。東大学長が公式の場で世界一を表明したのは「たぶん私が最初」という。
 知の大競争の時代ともいわれる中、その主戦場は大学だ。英タイムズ紙のランキングでは一位ハーバード大、二位カリフォルニア大バークレー校、三位マサチューセッツ工科大と続き、東大は十二位。北京大(十七位)、シンガポール国立大(十八位)などアジアの有力大も猛追する。「米、欧、アジアの競争の熾烈(しれつ)さを、社会がどれだけ認識しているか」。小宮山学長の言葉に強気と危機感が入り交じる。
 「世界最高の理工系大学」を長期目標に掲げる東京工業大も「国家の支援を受けた東南アジアの大学は急成長している」(相沢益男学長)と危機感を募らせる。
 法人化から一年。将来を模索する中で、各国立大が描く大学像に違いが出てきた。それが大学の個性として花開けば、法人化は一定の成果を収めたことになる。

投稿者 管理者 : 2005年04月26日 00:00

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