個別エントリー別

« 女性は科学の開拓者、慶応義塾大学名誉教授米沢富美子さん | メイン | 鹿児島国際大学解雇事件本訴裁判、ラウンドテーブル形式による「弁論準備」の協議と結果報告 »

2005年04月27日

「君が代訴訟」、処分を一部取り消し 福岡地裁判決

朝日新聞(2005年04月26日)

 北九州市立の小、中、養護学校の入学式や卒業式での君が代斉唱をめぐり、「良心に反する」などと着席したまま歌わなかった教職員18人と教職員組合が、職務命令に従わなかったとして市教委から受けた処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、福岡地裁であった。亀川清長裁判長は、市教委の裁量権を逸脱しているとして減給処分4件についての取り消しを命じ、他の処分の取り消しと賠償請求については棄却した。職務命令については、思想良心の自由を定めた憲法19条には違反しないとの判断を示した。

 訴えていたのは、小学校教諭の稲田純さん(47)らと、稲田さんらが所属する「北九州がっこうユニオン・うい」。

 稲田さんらは89~99年にあった入学式や卒業式で、校長から「起立して斉唱する」との職務命令を受けたが、「特殊な歴史的背景を持つ君が代は歌えない」として、着席したまま歌わなかった。北九州市教委は、減給や戒告などの処分にした。

 同市教委は、式での「国旗掲揚と国歌斉唱の徹底」を求めた85年の文部省通知や学習指導要領などを受け、「全員が起立して、正しく心を込めて斉唱すること」などとする「4点指導」と呼ばれる独自の手引を策定し、各校長に、これに従った職務命令を出すよう指示した。

 原告側は「『正しく心を込めて』という文言は内心にまで踏み込んだ介入で、学習指導要領をも逸脱している」と主張。また、処分を伴う職務命令は君が代斉唱の強制にあたり、思想良心の自由を定めた憲法19条に反すると訴えていた。

 これに対し市教委側は、4点指導は学習指導要領の趣旨に沿ったもので、「国旗国歌を尊重するために常識的で自然なもの。心を込めて歌うことは音楽科の基本」と反論していた。



北九州君が代訴訟判決要旨

京都新聞(4/26)

 福岡地裁で26日、言い渡された北九州君が代訴訟の判決要旨は次の通り。

 【君が代は国歌か】

 君が代は国旗国歌法の制定前も国歌としての地位にあり、君が代の「君」が天皇を指すとの解釈を前提としても、国歌とすることは憲法に違反しない。

 【校長の権限】

 校長は学校教育事業に必要な一切の事務を行う権限を持ち、卒業式等に関し、裁量の範囲内で式次第を決定し、教職員に職務命令を発することもできる。

 【職務との関連性】

 卒業式等は学校行事として行われ、運営への協力は教職員としての職務に関するものといえる。

 【斉唱について】

 ▽指導要領との関連

 国歌の指導に関する定めは、国を愛する心を育てるために必要かつ合理的な大綱的基準といえ、教員に対し国歌に関する指導をしなければならないという一般的、抽象的義務を負わせる拘束力を持つ。もっとも、指導要領には大綱的基準から逸脱した定めが含まれており、個別の定めまでが各教師の教育活動に拘束力があるとは解せない。

 卒業式等で国歌斉唱を指導する旨の定めは、特定の行事を指定する細目的事項に関する定めで、大綱的基準とは言い難い。校長が卒業式等で国歌斉唱を実施し、各教員がこれを指導しなければならないという義務を負わせる拘束力を持つとは解せない。学校生活に有意義な折り目を付け、国歌を尊重する態度を育てるための一つの方法を提示し、特別活動としての学校行事における国歌斉唱の実施を推奨する一般的な指針にすぎないと解するべきだ。

 卒業式等で斉唱を指導することは、国歌を尊重する態度を育てるという教育目的に沿い、斉唱実施は一定の教育効果が期待できる教育活動といえる。校長は裁量権の範囲内で国歌斉唱を含む式次第を決定することもできる。

 ▽中立性について

 卒業式等での君が代斉唱は、特定の道徳やイデオロギーを教え込むものといえず、国家、教育の信条的中立性に反するものではなく、宗教的行為ともいえず、憲法、教育基本法に違反しない。

 ▽思想、良心の自由

 君が代斉唱の実施・指導は、教育活動の一環として合理的範囲を逸脱しておらず、内心に対する働き掛けを伴うものであっても児童、生徒の思想、良心の自由を不当に侵害するとはいえない。

 【人権との関係】

 原告らの差別撤廃を求める意思、教育のあり方についての意見などは憲法19条等にいう思想、良心といえるが、君が代を歌えないという考えは、原告らの人間観、世界観と直接結び付くものではなく、本件職務命令は憲法19条に違反しない。特定の宗教に結び付く行為を強制するものとはいえず、憲法20条にも違反しない。

 【校長の裁量権】

 教員の不起立が、教育効果を減殺すると考えられることから、本件職務命令には必要性、合理性がある。

 君が代斉唱で起立しない教職員がいることに嫌悪感、不快感を覚える者もいると考えられ、本件職務命令がただちに校長の裁量権を逸脱するとはいえない。

 教育委員会の指導は、国歌斉唱の方法提示にとどまらず、実施しているか否かを監督するもの。各校長は、指導に従わざるを得ないという事実上の拘束を受けていたといえ、教育基本法上の「不当な支配」を受けたといえるが、本件職務命令は最終的には各校長が自己の判断で発したものといえる。

 諸事情を考慮すると、本件職務命令が裁量権を逸脱して発せられたとまで認めるには足りず、無効とはいえない。

 【処分の相当性】

 戒告処分は、地方公務員法上最も軽い処分で、職務命令違反を理由とする。原告らは同様の職務命令違反を繰り返し、すでに厳重注意、文書訓告を受けており、裁量権の範囲を逸脱したとはいえない。

 減給処分については、式の進行に混乱がなかったこと、原告らの教員としての適格性を疑わせる他の事情が認められないことを考慮すると、生活に影響を及ぼす処分は社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したといえる。

 【損害賠償請求】

 教員である原告らに対する本件職務命令や戒告処分、指導は適法。学校用務員が卒業式等に参加する場合には、円滑な進行に協力すべく一定の制約を受けることを受忍していると解され、学校用務員に対する職務命令も裁量権を逸脱するとはいえない。それに違反したことを理由とする文書訓告、厳重注意も適法。

 減給処分について、信用の低下や精神的苦痛は処分取り消しによって回復され、当該処分が取り消されても回復されない損害が発生したと認めるに足る証拠はない。(共同通信)


[関連ニュース]
君が代職務命令は合憲 福岡地裁、原告一部勝訴(共同通信4/26)
斉唱に教育効果、命令合憲 北九州君が代訴訟判決(共同通信4/26)
君が代拒否、減給処分取り消し・福岡地裁「職務命令は合憲」(日本経済新聞4/26)
君が代:斉唱拒否教諭へ処分取り消し 福岡地裁(毎日新聞4/26)
国歌斉唱指導は「合憲」…減給処分は取り消す判決(読売新聞4/26)
君が代斉唱命令は合憲 教諭減給処分を取り消し 福岡地裁(産経新聞4/26)

投稿者 管理者 : 2005年04月27日 01:25

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi311/mt/mt-tb.cgi/1176

コメント