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2005年04月29日

日本私大教連、「経営困難な学校法人への「対応方針」について(案)」に関する見解

日本私大教連
 ∟●「経営困難な学校法人への「対応方針」について(案)」に関する見解

「経営困難な学校法人への「対応方針」について(案)」に関する見解

 2005(平成17)年3月30日に公表された、文部科学省高等教育局私立大学経営支援プロジェクトチームによる「経営困難な学校法人への「対応方針」について(案)」(以下「対応方針」と略)に関し、日本私大教連としての見解を表明する。

1、経営困難に陥る原因に関して

(1)理事会ないし理事長の経営姿勢・方針が「経営困難」を引き起こしている
 「対応方針」は経営困難に陥る主たる要因を「近年における少子化等の影響」を挙げ、加えて「少数ながら不適切な経理等、学生数の減少以外の要因」を述べている。
 確かに「少子化」は大きな要因といえるが、我々が承知している私立大学・短期大学(以下、「私大」と略す)の「経営困難」な事例は、むしろ理事会ないし理事長の経営姿勢・方針が、「経営困難」を引き起こしている最大の原因であることを示している。例えば学部・学科の改組転換等で、全学的な議論に付し全学の知恵と力を結集せず、トップダウン経営とかスピード経営とか称し、軽薄な思い込みと独断で改組転換等を行い、結局、定員割れを起している事例は事欠かない。こうした私大に間々見られる共通点は、理事長の独断・専横の大学運営、情報開示をしない、教授会の無視ないし破壊、組合の無視ないし軽視などである。
 組合は団体交渉などを通してそれらの改善を要求しているが、上記のような理事会あるいは理事長は、総じて馬耳東風の感の傾向が強い。一般の企業にならえば経営責任を取って役員が辞任したり、株主代表訴訟による損害賠償請求がなされる程の事例でも、学校法人役員に対する教職員、学生等「利害関係人」による解職請求権等を定める寄附行為上の規定を持つ学校法人は皆無であり、また、私立学校法も役員の経営責任を明らかにする等の規定がないため、学校法人では理事長はじめ役員が居座り続けることになる。
 「経営困難」への対処を検討するのであれば、こうしたところにもメスをきちんと入れていかないと、「事態は繰り返される」と言わなければならない。

(2)より根本的には私大助成の貧困、高学費の放置、高等教育予算の絶対的低さが原因
 私大助成の貧困は私大の高学費を招く最大要因であり、これは家計所得が連続して低下し続けている現在、私大への進学を経済的理由によって断念させる大きな要因である。何とか高学費を工面して入学しても、教育条件は国立大学と比較して目を覆いたくなるほど劣位で、学費減免制度、奨学金制度も国立大学生と大きな較差の下に置かれているのが現実である。
 これでは私大に進学しようとする意欲が、削がれてしまうことは明白である。また教育条件のみならず研究条件も劣悪であるため、教員の研究面での苦労も並大抵ではなく、率直にいって教員は疲弊している。
 これらは誰の責任なのだろうか。答は自ずと明らかである。私大助成をわずか補助率12%程度に落とし込め、高等教育予算をOECD平均のGDP比1%の半分しか計上していない政府の責任は大と言わなければならない。また、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」のうち高等教育の漸進的無償化を定めた13条2項(c)の留保を撤回せず、高学費を容認する政府の姿勢は糾弾に値する。

2、経営困難な法人への対策をどのように構想するか
(1)経営救済システムの構想
 現行私大助成制度が、経営困難を救済するものではないことは明らかで、その意味で「経営が悪化し再建の見込みがないと判断される学校法人に対し、国費の投入によりその存続を図ることについては」考えないとの指摘は、現在の仕組みからはそのようなものとなる。
 しかし、私立学校は今や我が国の公教育において極めて大きな役割を担っている。したがって、その役割に値する何らかの経営救済システムを国として構想することは、「国民理解は得られない」とまでは言えず、はじめからこの構想を排除すべきではない。
(2)学校法人役員に経営責任を取らせるシステムの構築と情報の開示
 「対応方針」は理事会に対し経営分析を踏まえた指導・助言などを行い、事態が逼迫している場合は「特に早期の決断を強く促す」などとしている。これはそれとして適切な指導・助言だろうと思うが、そうした事態を招いた理事会の経営責任を取らせるためのシステムの構築も必要である。
 具体的には株主代表訴訟のようなステーク・ホルダーによる損害賠償請求の法的手段の整備、寄附行為に学校法人役員に対する学生、教職員等による解職請求権を定めることなどが考えられる。また、経営の透明性を確保するための情報公開の範囲の拡大――例えば財務情報であれば学校法人会計基準第4条に規定する全て計算書類の開示を義務付けること、理事会、評議員会の議事録の開示など――とそれを拒む学校法人へのペナルティーを科すことなどが考えられる。

(3)経営に関する指導・助言と情報の開示
 「対応方針」の段階的な指導・助言は適切と考えるが、各段階の情報開示をどのように扱うかが問題になる。主要な受験者層である高校生にとって大学選択は一生を左右しかねない程の重大な選択になり得るから、出来得るかぎりの情報が、適切に受験生側に開示されるべきである。そこで、文科省等による指導・助言がなされた事実の公表と、私立学校法第47条に規定する「利害関係人」からの請求があれば、指導・助言内容及びその根拠となる経営分析資料等を開示するようにすべきである。これは経営にとっては開示されたくない情報であろうが、大学が受験生の一生に責任を持ち得るはずがないのだから、当然のことと考える。
 なお、学校法人の財政状況について、「単年度の帰属収入で消費支出をまかなうこと」ができているか否かを重要な判断基準とみなしている記述が明瞭になされていること、たとえば経営分析指標で帰属収支差額比率を挙げていることは、極めて適切である。これまで文部科学省は、帰属収入から基本金組入額を前もって引いた消費収入と消費支出との差額である消費収支差額が採算を示す数値としてきたが、学校法人会計において採算を示しているのは消費収支差額ではなく帰属収支差額であることを認めたものと理解できる。しかし学校法人会計基準がこの度改正されたが、この点が変更されていないのはきわめて遺憾である。学校法人の中には依然として消費収支差額が採算を示す数値と誤解している例が見られるので、「個々の学校法人において…財政及び経営状況を的確に把握」する必要性を述べているのであるから、帰属収支差額を算出して明示すること、それが採算をあらわす数値であることを周知徹底すべきである。

(4)学生転学支援プログラム発動の前に
 「対応方針」の学生転学支援プログラムの基本的な枠組みは、概ね適切であると考える。
 問題は、「事態が逼迫している場合には、特に早期の決断を強く促す」状況に至っている私大で、少なくとも在学生が卒業するまでの間の運転資金をどのように確保させるかである。そのような状況に至っている大学は、資産らしい資産には概ね抵当権がつけられていて、金融機関からの新規融資は不可能であろうことは容易に想像できる。したがっておそらく指導上は、少なくとも在学生が卒業できるまでの間の運転資金が確保できるだけの状態のときに、「決断を強く促す」ことになるだろう。決断が遅れれば、支援プログラムの発動ということになるが、「対応方針」も指摘するように、「一般的には転学はけっして容易な道ではなく」「いわば最後の最後に残るやむを得ない手段」であるから、少なくとも運転資金が確保できる状況のときに、「決断させる」「決断しなければならない」あるいは「強制」する仕組みが必要といえる。

(5)教職員の雇用等に関する問題
 「学生の就学機会の確保」を最重点に構想する点は、十分理解できる。同時に、そこに働く教職員の雇用を確保することも、重点として考えられるべきである。
 しかし不幸にして学生転学支援プログラムが発動される事態に陥った場合の経営状況は、給与の遅欠配も考えられるし、退職金が確保されるかどうかも危ぶまれるのではないかと予想される。したがって労働債権の最優先確保の措置が取られるべきである。

3、安心して私大で学ぶことのできる条件を整備すること
 「対応方針」は、タイトルのごとく経営困難に陥った大学への対処方針であるが、経営困難に陥らないための条件をどのように整備するかはより重要である。
 私立学校振興助成法並びに国会附帯決議に謳われる「経常費2分の1補助」を直ちに達成することと、高学費を解消するための学費負担軽減施策は二大重点政策であると考える。前者は基盤的経費部分を厚くすることであり、後者は少なくとも経済的理由で進学を断念せざるを得ない学生や、授業に出席できないほどアルバイトに依存しなくてはならない学生を無くすことのできる水準の負担軽減施策が求められる。そのためには、高等教育予算をOECD平均のGDP比1%へと倍増させることは絶対的に必要である。そして経営責任を明らかにすることができる経営体制を構築できる仕組みを構想することも重要である。

以 上


投稿者 管理者 : 2005年04月29日 00:20

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