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2005年04月08日

埼玉大学教職員組合、学長回答に対する組合の回答

2005年4月6日

埼玉大学学長
田隅 三生 殿
埼玉大学教職員組合
執行委員長 林 量俶

2005年3月2日付にて、「『見解』に述べられている国立大学法人法における学長の位置づけ、権限に誤りがあると、組合が言うのならば、組合はその証拠となる文書類(組合が作成したものではない)を提出されたい。」という文書をいただきました。取りあえず、『法令用語辞典』の関係箇所を摘示し、われわれが誤りと考える点を指摘させていただきます。

Ⅰ.学長が用いている論理とキーワード

1.国立大学法人法第11 条では、『学長は学校教育法第58 条第3 項*1)に規定する職務を行うとともに、国立大学法人を代表し、その業務を総理する』とされている。
  *1)学校教育法第58 条第3 項:「学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。」

2.国立大学法人を代表する権限を持っているのは学長のみである

3.国立大学法人に設置された機関、すなわち、役員会、経営協議会、教育研究評議会は全て審議機関であり、意思決定を行う権限を有していない。

4.法人としての国立大学の意思決定は最終的に学長に委ねられている。

5.学長は、教育研究評議会での教員評議員の意見に拘束されずに、その国立大学の教育研究に関する方針を決定する権限を有している。
〔以上、2004年12月3日付「学長権限とその行使に関する見解」〕
6.法人法において、経営協議会及び教育研究協議会は、「…を審議する機関」とされており(法人法第20条第1項及び第21条第1項)、これらの機関を、上記の文章*2)のとおり、審議機関と位置付けることに問題はないと考える。
  *2)(独)国立大学財務・経営センター編『国立大学法人経営ハンドブック』
「教育研究に関する『教育研究評議会』と、経営に関する『経営協議会』の2つの審議機関(『決定機関』ではない)を新たに設け、これらの審議機関の意見を勘案しながら、学長と理事で構成される『役員会』が重要事項を議決し、最終的には学長の権限と責任において意思決定を行うことを制度上明確にしている。」

7.役員会の「議決」と「意思決定」とを区別していることに留意していただきたい。

8.法人法第11条第2項では、「学長は、次の事項について決定しようとするときは、学長及び理事で構成する会議(第五号において『役員会』という。)の議を経なければならない。」とされていますが、ここで用いられている「議を経る」という表現は、法的には、議決によって拘束されないと解されることが多いものです(学陽書房刊「法令用語辞典」(第八次改訂版)129ページ)。したがって、役員会が審議機関であると考えても間違いではないと思います。

9.法人としての国立大学の意思決定は、最終的には学長に委ねられている

10.学内諸規則・規程に「議決」などの表現が用いられているとしても、それは「投票、挙手その他の方法により、埼玉大学の意思を最終的に決定すること」を意味するものではなく、「投票、挙手その他の方法により、その会議の意思(または、その会議における意見分布)を明らかにすること」と解されなければなりません。種々の会議での結論を受けて、埼玉大学としての最終意思決定は学長によってなされます。もし、このように解釈しないのならば、これらの学内諸規則・規程は上位規則である法人法に違反していることになり、改正しなければならないことになります。
〔以上、2005年2月10日付「教育学部教授会の質問への回答」〕
〔2005年2月10日付「教養学部教授会の質問への回答」:基本的に同旨〕

Ⅱ.法令用語辞典における関連キーワードの解説
…略…

Ⅲ.以上を踏まえた、通則法・国立大学法人法・学内諸規程等に関する我々の理解と見解

 以上の法令用語理解に立ったとき、以下に詳述するように、学長のⅠ-3,4,5,6,7,8,9,10の見解は、誤った主張である、と思量いたします。


1.国立大学法人法(以下、法人法)第11条第1項に規定されているとおり、法人の機関〔埼玉大学学長〕が行為をしたときに、法律上、法人〔国立大学法人埼玉大学〕がこれをしたのと同じ効果を生ずる場合に、法人を「代表する」という意味(Ⅱ-1)において、埼玉大学学長は国立大学法人埼玉大学を「代表」します。
しかし、埼玉大学学長が埼玉大学を「代表」するということをもって、「法人としての国立大学の
意思決定は最終的に学長に委ねられている」(Ⅰ-4)ということはできません。
なぜなら、Ⅱ-1に述べられているように、都道府県知事は当該都道府県を「代表」します。しか
し、条例制定権・予算承認権等は都道府県議会が有します。また、都道府県の行政委員会である教育委員会・人事委員会等は議決機関として委員会規則制定権を始め、所定の事項に関する審議・決定権を有しています。知事は当該都道府県を「代表」しますが、当該都道府県の機関である議会や行政委員会の議決に優越する「最終的意思決定権」を有している訳ではありません。
埼玉大学を「代表」するということをもって、埼玉大学という機関のすべてに関する「意思決定は
最終的に代表(学長)に委ねられている」とするのは誤りであると思量いたします。

2.法人法第11条第1項に規定されているとおり、学長は埼玉大学の業務を「総理」します。
しかし、「総理」の意味内容はⅡ-2に述べられてところであり、そこに指摘されているように、
機関の長だけでなく「部局の長等」も「合議体の機関の長(審議会の会長、委員長、議長等)」も業務を「総理」するのです。
つまり、「総理」するということは、その機関の「最高意思決定機関」であることを意味するもの
でも、「専決権」を有していることを意味するものでもありません。
学長が埼玉大学の業務を「総理」するということをもっても、国立大学法人埼玉大学のすべてに関
する「意思決定は最終的に学長に委ねられている」とすることは誤りであると思量いたします。

3.学長は、(a)「審議機関」/「決定機関」、「議決」/「意思決定」を区別すべきである、(b)「役員会」・「経営協議会」・「研究評議会」は「審議機関」であり、それらの行う「議決」は「その会議の意思(または、その会議における意見分布)を明らかにすること」に止まる、(c)「決定機関」として「意思決定」を行うのは学長である、とされています。(Ⅰ-3,4,5,6,7,8,9,10)

(1)まず第一に、「議決」の理解に誤りがあると思量いたします。「議決」とは「合議体」〔「複数…の人
員をもって組織し…その意思を決定する組織体」(Ⅱ-4)〕の「意思決定」(Ⅱ-3-①)であり、「合議体の機関において多数人の合議によりある事項を決定すること」(Ⅱ-3-②)です。
 つまり、学長にいうように「議決」と「意思決定」は別のものではなく、「議決」=合議体」の「意思決定」なのです。
 そして、「合議体」の「意思決定」である「議決」の拘束力〔「執行機関」(Ⅱ-6,7)である学長の業務執行に対する拘束力〕は、(a)その合議体が「議決機関」であるか「諮問機関」であるか、また、(b)「議により」、「議に基(づ)き」、「議を経て」、「議に附し」等の定められ方、等によって異なるとされます。(Ⅱ-5,8,10,11)

(2)それらのうち、「議により」とされる「議決」を行う合議体は「議決機関」ということになり、「そ
の議決は執行機関を拘束する」(Ⅱ-5-①)、「その意見を求められた機関の議決は、その意見を求めた機関を拘束する」(Ⅱ-10-②、Ⅱ-11-②)とされます。

(3)学長は、「ここで用いられている「議を経る」という表現は、法的には、議決によって拘束されない
と解されることが多いものです(学陽書房刊「法令用語辞典」(第八次改訂版)129ページ)。したがって、役員会が審議機関であると考えても間違いではないと思います」とされています。
 これは、前後の文脈から切り離した恣意的かつ誤った読み取りであると思量いたします。
 Ⅱ-10-②に当該項目の全文を抜き出しましたが、その中に解説されている以下の点が全く顧慮されておりません。
①「法令上、ある機関がある行為をする手続要件として、あらかじめ、一定の他の合議体の機関の審
議に付すべきものとされている場合が少なくない。」
②「議に附し」、「議を経て」、「議に基づき」、「議により」の「いずれも、行政機関等の専断を避け、
手続の慎重を期すための規定である。」
③その議決が、議を求めた行政機関等に及ぼす拘束力については、上記の用法の別に従って若干の差
異が認められる(拘束力に「若干の差異」があるのであり、「拘束力がない」等とは言っていない)。
④大体において、「議により」の場合はその議決に拘束され、その他の場合は、ニュアンスの差こそあ
れ、「諮って」というのと同様に、【法的には、議決に拘束されないと解することができよう】が、常にこのように解するのが適当であるとは限らず、その議決の拘束力は、結局それぞれの法令の規定の趣旨によって個々に判定すべきものと思われる。この場合、その法令の趣旨が、適正な手続によって、処分を受けるべき国民の権利を保障するためのものであるとき、又は執行機関と議決機関との関係において議決機関の議決を経ることを要するものであるときは、その議決に拘束され、単に諮問的性格において、議を経る場合は拘束力が弱いとみるべきであろう。」

 何と、上記【法的には、議決に拘束されないと解することができよう】の部分だけが文脈を無視して切り取られ、それに続く「が、常にこのように解するのが適当であるとは限らず、その議決の拘束力は、結局それぞれの法令の規定の趣旨によって個々に判定すべき」という重要部分は恣意的に削り取られ、かつ、上記の①②③および④の残りの部分の趣旨は全くくみ取られていません。
 そのような恣意的引用を、ほぼ唯一の"根拠"にして、「したがって、役員会が審議機関であると考えても間違いではない」⇒法人としての国立大学の意思決定は、最終的には学長に委ねられていると、論理展開されているのです。
 これは正に、牽強付会・恣意的な根拠づけと論理展開である、と思量いたします。
 この辞典からも、「その議決が、議を求めた行政機関等に及ぼす拘束力については、上記の用法の別に従って若干の差異が認められる」、すなわち、「若干の差異」はあるが"拘束力はある"(上記③)、「その議決の拘束力は、結局それぞれの法令の規定の趣旨によって個々に判定すべき」(上記④)、と読み取り論理展開することが至当であると思量いたします。

 さらに、出典①は、「議を求めた機関がその審議の結果に法的に拘束されるのか、単に諮問的性格を有するにすぎないのかは、その法令の趣旨によって個々に解釈するほかはない」としつつ、「議に付す」→「議に基づき」→「議を経て」→「議により」等の法令上の定めをおく場合、「一般的には、その拘束力は前記の順序で強くなる」としているのです。(Ⅱ-10-①)

(4)われわれは、以上の〈一般法〉解釈の次元においても、学内「合議機関」の「意思決定」である「議
決」は、"それぞれの規則・規程の趣旨によってその拘束力の強弱に差異はある"が、「行政機関等の専断を避け、手続の慎重を期すため」に、"それぞれに見合った拘束力が認められなければならない"、という論理が導き出されるのが至当と思量いたします。

(5)さらに、憲法上に明文規定されている「学問の自由」が実現するための重要なよう制度的保障とし
ての「大学の専門的自治(professional autonomy)」という〈特殊法〉解釈の次元においては、学問研究を死滅させぬため、〈一般法〉次元に増して、"専断を避け、手続きの慎重を期す"ことが強く求められる、と思量いたします。

4.学内諸規則・規程と照らし合わせて
(1)「学長選考会議」は、学長候補者の選考及び学長の解任について「審議」し(埼玉大学学則第21条、
学長選考会議規則第3条)、「議決」すると規定されています(選考会議規則第4条第4項)。
 そして、「学長の任命は、法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う」(役員規則第4条)、「学長の解任は、学長選考会議の申し出により文部科学大臣が行う」となっています。
 学長の論理に則れば、"学長選考会議も「審議」し「議決」すると規定されている「審議機関」であり「決定機関」ではない"、それゆえ、"埼玉大学としての意思決定は最終的に学長に委ねられている"ということになりますが、まさかそのようなことは言われますまい。
〔ここにおいて、学長の見解の論理破綻は明らかである、と思量いたします。〕
 学長選考会議は、学長候補者の選考および解任に関して、「議により」という文言は使われていませんが、文部科学大臣への申請を拘束する「議決機関」と解するのが至当と思量いたします。

(2)「役員会」も、本学・役員会規則第3条に規定されている事項を「審議」し「議決」する機関とさ
れ、「学長が次に掲げる事項について決定しようとするときは、役員会の議を経なければならない」とされています(同規則第3,4条)。元規定となっている国立大学法人法第11条も「学長は、次の事項について決定をしようとするときは、学長及び理事で構成する会議(第五号において「役員会」という。)の議を経なければならない」と規定しています。
 Ⅲ-3-(3)末尾に述べたように、一般的に、「議を経る」は、執行機関を完全に拘束する「議により」に次いで強い拘束力を持つと解されているのです。

(3)「経営協議会」「教育研究評議会」「教授会」(経営協議会規則第4,5条、教育研究評議会規則第4,5
条、教授会規則第3,4条)も、いずれも、「審議」すべき事項と「議決」を行う要件が定められている「合議体」です。
 しかも、その中には、「教員人事に関する事項」「教員の解雇、降任及び懲戒に関する事項」(教育研究評議会の審議・議決事項)、「学生の入学、卒業その他その在籍に関する事項及び学位の授与に関する事項」「学部長並びに教員の選考に関する事項」(教授会の審議・議決事項)等が含まれているのです。
 これらに関し、教授会・教育研究評議会の議を経ず、あるいは、それらの議に反する"最終意思決定"を学長が行い、大学を代表して執行したならば、〈手続き上の瑕疵〉が問われることは、火を見るよりも明らかでしょう。

 以上の根拠および見解をもって、埼玉大学職員組合は2005年3月2日付文書による学長からの要請にお答えするとともに、2004年12月3日付「法人化後の学長権限とその行使に関する見解」の撤回を改めて求めるものです。
 もし、我々が誠実応答いたしました上述の根拠・理解・見解に対し疑義・異議・反論等がおありでしたら、--あのような「学長見解」を全学に公にされ、また冒頭に記した3月2日付文書を当組合に対して寄せられましたからには--「公的」な団体交渉・話し合いの場において、しっかりとした根拠〔学長が引用している『ハンドブック』の編者・国立大学財務・経営センターは、法解釈に関しては、何ら学問的権威も行政権限も有しておりません〕をお示しの上、誠実にご応答いただけるものと考えます。
以上。

投稿者 管理者 : 2005年04月08日 00:16

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