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2005年05月31日

平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟、大津地裁「判決文」(全文)

平安女学院大学守山キャンパスの存続を守ろうの会
 ∟●裁判
  ∟●就学権確認等請求事件「判決文」(全文)2005年5月23日

 下記は,5月23日就学権確認訴訟における大津地裁判決文(全文)のうち,原告学生が訴えた2つの請求に対し裁判所が却下するとして,その理由を述べた部分である。

 ここで裁判官は,(1)本件における「在学契約」の合意内容,(2)第三者のためにする契約,の2つの観点から却下と判断している。法律の専門家ではないので,法律論をコメントする能力はない。ただ,(1)の大学における「在学契約」に関して言えば,文科省の定める一定の基準にしたがった教育施設の提供だけが問題であり,特定施設の利用については契約締結に至る学生側の「主観的動機」の問題とされている点がよくわからない。どうして教育の内容はそれが実施される場所や施設を切り離して論じることができるのだろうか。
 現在,文科省の設置基準においては,特に教育施設に関して言えば,著しく規制緩和されてきている。株式会社大学のように,図書館もなく,教室さえなくても大学は認可される。今日,学生と大学設置者との間で在学契約が締結される際,学生側は一定の授業料の対価として,どのような教育施設や設備の中で教育を受けることができるか(あるいは目的によっては,逆に建物・施設がなくてもよいとの選択もありうる)は,かつてわれわれの時代の観念とは違って重要な判断材料の一つである。この事を知っているからこそ,大学設置者は競って新しい設備投資や,他大学にはないキャンパス整備等を行って差別化を図るのであって,もし仮にこれが契約時の条件と異なった場合には,社会通念上,契約不履行となることは火をみるより明かではないか。特に,新しいキャンパスを設置して教育を行おうとする場合はなおさらであろう(学生の側からみれば,この点は単なる期待権だけでは済まされない。新品のキャンパスで勉強ができると思って入学したら,突然,古いキャンパスに強制的に移されたというのは,期待権の侵害だけで済まされないであろう)。今日,在学契約においては,裁判官の解釈のように,施設は認可の際の最低基準である大学設置基準さえ満たしておればよく,カリキュラムや授業の廃止の問題と授業を受ける場所の問題は「同列に論じられない」と言えるであろうか。
 また,これと同じ問題でもあるが,判決文で触れられている通学距離の論点もしかりである。今の大学は学生を確保する一手段として,学生の利便性の向上を目的に,教育施設の立地戦略を重要課題として考慮する。この点は通学の利便性が,交通費の補助では賄えない性質をもつがゆえにである。したがって,この問題,判決文にあるように,「保育所」と18歳以上の学生が通う「大学」とは違うなどといった論理は,今どき,社会的に通用しないのではないか。
 また,(2)の「第三者のためにする契約」について言えば,補助金の交付によって「自治体が期待したことの内容には,学生が守山キャンパスで就学し,守山市内を中心として学生生活を送ることも含まれている」と正当に評価しながらも,「それはその自治体の進行やその住民の福祉の向上のための手段にすぎず」と捉え,「個々の学生に,守山キャンパスで就学する具体的権利性を付与するところまで意図し」なかったと解釈している点は大いに問題であると思われる。
 守山市が大学設置者との間での誘致契約締結の際,ある特定の個人学生に対して守山キャンパスでの就学権を付与したか否かという問題は,「第三者のためにする契約」論の内容に関わる問題だと思われるが,これを否定する論理として,学生たちの存在は,同市の地域目的のための一手段にすぎないと主張しているのである。実際,地域振興と教育文化の向上を目的とした大学と自治体との共同の取り組みや,そのための環境システムづくりは,同市に集り学ぶ学生たちを行政の手段とする見方で進められてきたわけではあるまい。学生が学ぶ場所と環境があるからこそ,その地域の福祉と教育・文化が向上する,またそうした地域の発展が,学生の学習環境をさらに引き上げる,そうした相乗効果によって大学も自治体も発展するという期待をもって,血税が投入され誘致のための計画も練られたのであろう。単なる目的と手段という関係ではないはずだ。従って,学生が守山キャンパスで学ぶことができるという就学権の保障は,誘致の際の,あるいは「大学を核としたまちづくり」の基本構想において,明文化されているか否かは別にして,自明の前提で進められたに違いない。この点で,原告学生が判決文が示す判断に著しく違和感を覚えるのも,当然である(裁判日記、5月23日判決の言い渡し)

平成17年5月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ワ)第573号 就学権確認等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年3月3日
判       決

     原     告    川   戸  佳  代
     訴訟代理人弁護士   吉  原      稔
京都市上京区下立売通烏丸西入五丁目町172番地の2
     被     告    学校法人平安女学院
     代 表 者 理 事  山   岡  景 一 郎
     訴訟代理人弁護士   姫   野  敬   輔
     同          橋      英   樹

主       文

1 原告の,被告の設置するびわ湖守山キャンパスにおいて就学する権利の確認を求める請求にかかる訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1 請求
 1 原告が,卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置するびわ湖守山キャンパス(以下「守山キャンパス」という。)において就学する権利(教育を受ける権利)があることを確認する。
 2 被告は,原告に対し,卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置する守山キャンパスにおいて就学させよ。

…(中略)…

(以下判決文原文20ページ以降の抜粋…引用者)

2)本件在学契約の合意内容について
  原告は,平成14年4月に現代文化学部に入学した看であり,平成13年(2001年)度の学校案内等を見て,守山市という環境に建っ新しい校舎が気に入り,オープンキャンパスに行って施設を見学し,新しくきれいな施設で学べることを期待して入試の申し込みをしたことを認めることができる(甲24)。原告の入学時は,守山キャンパスが開設されてからわずか2年経過しようとする時期であるから,キャンパスが近々移転されるなどということは通常予想しないし,上記(1)ウのとおり,学校案内の内容は,現代文化学部が守山キャンパスにあることを当然の前提として,その施設の充実ぶりや,周辺環境の魅力を訴えるものであったから,ここで紹介された学習環境にも期待し,進学先の大学や学部学科を選択したと認めることができる。
 しかしながら,大学の在学契約は,大学が,学生に対して,①学生としての身分を取得させ,②文部科学省の定めた一定の基準にしたがって教育施設を提供し,③あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うなどの義務を負い,学生は,その対価である授業料等を大学に支払うことを主たる内容とする契約である。この契約には,施設利用契約の性質もあるとしても,その施設は一定の基準に従った施設であって,特定された施設を利用させることまでが内容となっているとはいえない。特定の施設を利用できることは,学生が契約を締結するに至る主観的な期待であって,動機にとどまり,これを越えるものとはいえないから,それに基づいて履行請求が可能となるような法的な権利が発生するとは認めることができない。教育内容に直接かかわる学科や授業が廃止されることと,授業を受ける場所が移転することとは,同列に論じられる内容ではない。たしかに,授業を受ける場所の移転が,あらかじめ提供を約束した授業を受けることを不能させることと同視できるような事情があれば,これは在学契約の本旨に従わないものであると認めることができるが,本件では,以下のとおり,そこまでの事情は見あたらない。
 原告は,守山キャンパスまでの通学は,自宅から徒歩20分で可能であったのに,高槻キャンパスまでの通学は,自宅からJR守山駅までバス又は自転車で10分,JR守山駅からJR高槻駅まで新快速電車で40分,JR高槻駅から高槻キャンパスまで高槻市営バスで20分を要することになり,乗り継ぎ時間も含めると,片道で1時間30分を要する(甲4,24,弁論の全趣旨)ことになり,通学時間が増え,学生に授業を受ける場所が移転することに伴う不利益や不便が生じるということができる。しかし,大学に入学する学生は満18歳以上であって,大学生が大学における教育を受けるために自宅や保護者の下を離れることは一般的なことである。施設自体の設備の充実度や通園に便利な位置関係等の条件が満たされなければたちまち利用が著しく困難ないし不能となる保育所等の場合と,大学とは同じに論じることができない。上記の程度の距離の移転は,18歳以上の大学生にとっては,極端に通学困難となり,授業や学習の提供が不能となったことと同旨できるというほどのものとはいえない。また,被告は,通学地域を限定した学生募集を行っているわけでもない。
 さらに,本件では,被告において,通学にかかる経済的な不利益については,卒業最短終業年限までの通学運賃等の補助をすることを決定しているから(乙34),経済的には本件統合に伴い原告に通学困難が生じているとは認めることができない。
 高槻キャンパスと守山キャンパスとで施設の内容に差があるとしても,それが授業や学習の提供が不能になることと同視できる程度のものといえるような事実は見あたらない。守山キャンパスにおいても,施設の内容が変化したり,授業の内容が変化したりする可能性はあり得るのであって,それは,場所の移転自体に伴う不便や不利益ではないから,守山キャンパスという場所を特定して就学する権利を主張する理由とはならない。
 また,学生が学校に在籍する以上は,教育関係法規及び行政処分(認可及び補助金交付決定等)に,学生である原告も被告も双方拘束されるものであるとはいえるが,原告から被告への法的に履行請求を認めうる法律関係が成立しているとはいえない。むしろ,在学契約の附合契約性によって,学生の個々の同意がなくても,大学が定める規定・規則,理事会や教授会の決定にも,学生が拘束され得るともいえる。公法上の営造物等の利用は,私的な契約関係に基づくものではないし,侵害されたときに損害賠償(国家賠償)が認められるかの問題と,本件での私的な在学契約基づく履行請求が認められるかの問題とを同列には論じることはできない。
 原告と被告との間の在学契約に基づく本件請求2は理由がない。

(3)第三者のためにする契約について
  被告が,守山キャンパスの開設にあたって,地元地方自治体である守山市及び滋賀県から多額の補助金の交付を受けた経過は前記(1)イ認定の事実のとおりである。
 上記の事実からも,被告の作成した平安女学院大学設置の理由書(甲14)からも,守山市は,「大学を核としたまちづくり」の基本構想を打ち出し,大学の誘致によって,「都市環境を創出する」とともに,「大学と地域社会との交流システムづくり」を目指していたこと,設置される大学周辺に市民文化会館,市民運動公園も設置して,「教育・文化・体育ゾーン」を形成して新市街地の核とし,近隣の医療(県立成人病センター,県立小児保健医療センター,市立市民病院)・保健(県立総合保健専門学校)・福祉(市立福祉健康センター)の諸機関・施設と連携をはかり,大学と地域社会との交流システムを形成すること,大学施設において,公開講座,セミナー等の市民向け学習機会の提供や地元女子生徒の進学機会の拡大,生涯学習への対応,体育施設,図書館,コンピューター施設等の市民への開放等を期待していたことを認めることができる。したがって,補助金交付は,こうした守山市の地域の振興と教育文化の向上を目的とする開発事業計画に基づく調和のとれたまちづくりのためになされたものであることが明らかである。また,滋賀県においても,同理由書から,福祉専門職や英語や中国語に堪能な人材が県下で養成されることが,滋賀県の福祉や経済に利益となることを期待していたことを認めることができる。
 このように,補助金の交付によって地方自治体が期待したことは,上記のような地方自治体の発展やその住民の利益であり,その目的のために,被告の大学を守山市の中心部に誘致し,その大学の内容や規模が4年制女子大学現代文化学部の1学年の定員280名であることを前提に,それにふさわしい補助金交付を決定されたものと認めることができる。したがって,ここで自治体が期待したことの内容には,学生が守山キャンパスで就学し,守山市内を中心として学生生活を送ることも含まれているとはいえる。しかし,それは,その自治体の振興やその住民の福祉の向上のための手段にすぎず,地方自治体が,その自治体外からも特段地域を限定せずに募集される個々の学生に,守山キャンパスで就学する具体的権利を付与することをまで意図し,それを内容とする第三者のために契約をする意思があったと解することは,困難であるといわざるを得ない。
 したがって,被告と守山市又は滋賀県との間の協定等が私的な契約関係としての性格をも有すると解することを前提としても,これに基づき,自治体が,個々の学生に対して,被告に対する具体的な権利が付与されるような契約をしたとは解されず,原告の,第三者のためにする契約を理由とする本件請求2も理由がない。
 なお,原告は,本件の補助金交付は,負担付贈与であり,被告は,原告に対し守山キャンパスで就学させるとの負担を負ったとも主張するが,原告の主張によれば,贈与契約の当事者は,守山市ないし滋賀県と被告であり,原告は被告の負った負担によって利益を受ける第三者であって,この場合第三者自ら負担の履行を請求する権利を有するか否かは,第三者のためにする契約がなされたとみるか否かによって決まるから,結局は,被告と滋賀県ないし守山市と補助金交付を巡る関係が原告を第三者とする第三者のためにする契約といえるかという問題に帰着する。したがって,この主張は,原告の被告に対する権利を基礎づける独立した主張とはいえない。

(4)その他,原告を守山キャンパスで就学させることが,原告と被告との間で法的に保護すべき契約内容となっているといえるような主張及び立証はない。よって,原告の請求2は理由がない。守山キャンパスでの就学が契約内容となっているといえない以上,その余の主張についてはいずれも判断をするまでもない。

3 以上の次第で,原告の請求1は訴えの利益を欠き不適法であるから却下し,原告の請求2は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。


投稿者 管理者 : 2005年05月31日 03:10

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