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2005年06月03日

北見工業大学、任期制導入へのあゆみとその後の1年

任期制導入を決意

読売新聞(5/25)

 北見工業大学長の常本秀幸(63)は、1974年に助教授として迎えられて以来、30年余りを同大で過ごしてきた。ただ、その前の10年間は、大手自動車メーカー「いすゞ」で、ガソリンエンジンの開発などに携わった経歴を持っている。

 「任期制に対して、それほど抵抗を感じなかったのは、民間にいたからかもしれない」と自己分析する。

 民間企業の世界では、程度の差こそあれ、社員は業績で評価され、給料やその後の出世にも影響する。職場の活性化を狙った人事異動も、日常茶飯事だ。

 一方、独立行政法人化される2004年4月以前の国立大教員は国家公務員。「教育を通じて国民全体に奉仕する」(教育公務員特例法)という崇高な責務を担う者として、その身分は手厚く守られていた。だが、民間の空気を吸ったことのある常本にとって、違和感を持つ部分もあった。

 仕事の質・量がそれほど変わらないのに、ポストによって給料がかなり違う。能力があるのにポストが空かないために、なかなか昇任できないという事例も目の当たりにした。

 出世には脇目もふらず、研究・教育に没頭する。それは美しい姿かもしれない。しかし、公平に業績を評価し、結果を残した人材の処遇を良くしていく仕組みも必要ではないか。

 2003年の学内調査の結果は芳しくなかった。「教員の任期制を導入するなら、今しかない」。多少の軋轢(あつれき)は、覚悟していた。

批判は承知、計画進める

読売新聞(5/26)

 2003年3月、全学的な教員任期制の導入へ向けて動き出した北見工業大。全国でも初の取り組みだけに、教員側にスムーズに受け入れられるかどうかは未知数だった。

 文部科学省の調査によると02年10月現在、一部の研究所や学科などに教員の任期制を導入していたのは、国立大65、公立大12、私立大119。増加傾向にあったものの、全体の3割弱にとどまっていた。全学的に導入していた大学は皆無だった。

 任期制の導入を巡っては、「大学の教員等の任期に関する法律」が施行された1997年前後から議論が活発化してきた経緯がある。任期制の最大のメリットは、教員の流動性が高まることにより、研究活動が活性化する点だとされる。

 一方、より雇用条件の安定した大学へ教員が流出する懸念もある。また、じっくりと腰を据えた研究ができなくなり、学問の自由や大学の自治を損なうと批判する声も多かった。

 学長の常本秀幸(63)は、これらの批判は承知の上で、任期制の導入時期を、国立大が独立行政法人化され、教員の身分が非公務員となる04年4月に定めた。「この時期をおいてほかにない。ソフトランディングにこだわっていては前に進まない」と、腹をくくった。

 常本は、03年4月から各学科ごとに懇談会を開き、説明を始めた。「各教員のレベルアップが求められている」。口を開いた常本の手には、学内調査の結果が携えられていた。


任期制導入へ議論1年

読売新聞(5/27)

 2003年4月、北見工業大学長の常本秀幸(63)は、副学長を伴って各学科ごとに懇談会を開き、教員任期制の必要性を説いて回った。

 基本的な任期は5年。教授・助教授は、その後も5年ごとに再任審査を受ける。講師・助手については、1度再任されると、今度は3年で審査を受け、昇任できなければ失職する――というもの。

 常本は、任期制に移行した教員に対しては、研究費や給与などで優遇する方針であることも説明し、理解を求めた。

 その際、大きな説得材料となったのが、数か月前に実施した学内調査の結果だった。それは、東大や北大などの調査結果と比べ、研究水準で見劣りする学科もあることを示していた。

 6月には、全学を対象にした説明会も開いた。職員代表を務めた機械システム工学科教授の小林道明(57)によれば、任期制の導入そのものについては、異論は出なかったという。「任期制などないほうがいい。しかし、学内調査結果を知った教員の多くが、何らかの手を打たないといけないと感じたはずでは」と振り返る。

 それでも、常本の懇談会は、各学科を2周した。質疑応答が3時間に及んだこともあった。納得が得られるまで、何度でも議論しようと思った。

 「最後は信頼関係の問題だった」と常本。1年間の議論を経て、04年3月、教授会は任期制の導入を承認した。

導入1年で60%が移行

読売新聞(5/28)

 北見工業大は、2004年4月、全国初となる教員任期制の全面導入に踏み切った。国立大が独立行政法人として新たなスタートを切り、各大学が改革を競い合う中で、同大の任期制導入は脚光を浴びた。

 ただ、「全面導入」とはいっても、任期制は雇用条件の変更にあたるため、移行するかどうかは、各教員の選択に任された。このため、「同意書」の提出を募ったところ、“志願者”は、ほぼ半数にあたる76人だった。

 独法化に際し、同大が6年後を見越して策定した中期計画で掲げた60%の移行率には届かなかったものの、学長の常本秀幸(63)は「滑り出しとしては、予想以上だった。改革の必要性を理解してもらえたからだと思う」と振り返る。

 しかし、逆にいえば、半数の教員が従来の雇用関係にとどまったことになる。

 ある教員は「地道な基礎研究の世界では、すぐに成果が出るわけではない。あせって論文を出したとしても、必ずしも良い内容にはならない」として、任期制への移行を保留した理由を語る。

 その後、同大では、毎年4月と10月に各教員に追加の意向確認を行っている。その結果、少しずつ任期制へ移行する教員は増加。スタートから1年が経過した今年5月現在、任期制へ移行した教員は計92人となり、早くも中期目標の60%を達成している。

 背景には、研究費の傾斜配分など、任期制選択者への優遇施策がある。

任期制、教員の意欲刺激

読売新聞(5/29)

 国立大として全国初の教員任期制の全面導入に踏み切った北見工業大。今年5月現在で、全教員の60%が任期制に移行、中期計画に掲げた目標を1年で達成した。背景には、研究費や給与面での優遇措置がある。

 任期制を選択した教員に認められる研究費は、非任期制の教員よりも高く設定されている。

 研究費の配分は業績に応じて、10段階に分かれているが、算定の基礎額が、任期制に移行した教員は、非任期制の2割増しとされている。

 また、給与面でも、勤勉手当に差がつけられた。その最低額が、任期制に移行した教員は基本給の0・9か月分なのに対し、非任期制の教員は0・3か月分。学長の常本秀幸(63)によると、ケースによっては、年収に最大100万円程度の差が出るという。

 こうした教員への処遇面での違いが、任期制への移行を後押ししたことは間違いなさそうだ。

 任期制を選んだある教員は、「研究面、給与面ともに、以前とそれほど変化はない。今まで通りに仕事をしていれば問題はなく、自分が任期制で雇われていることを強く意識したことはない」と語る。この点も含めて常本は、「任期制は、教員の意欲を刺激するのが最大の狙い」「努力すれば結果が出ることを示したことが、(選択率の向上に)良かったのでは」と話す。

 任期制導入が順調に進んでいるかに見える北見工大。他大学では、どうなっているのだろうか。

「年俸制セット」で二の足

読売新聞(6/01)

 教員の任期制を全面的に導入したのは、北見工業大のほかに、都立首都大学東京、横浜市立大などがある。来年開学予定の札幌市立大も、任期制を導入する方針を決めている。

 首都大学東京は、東京都立大、都立科学技術大、同保健科学大、同短大の4大学を統合し、今年4月に開学。教員の多くは4大学からの移行組だ。

 同大によると、開学当初の任期制の選択率は約50%。新規採用組を除いた「現員」に限ると、その割合はさらに下がるという。

 導入1年で60%に達した北見工大に比べると、順調なスタートとは言い難い。その最大の要因は、年俸制もセットにして導入したことにありそうだ。

 年俸の内訳は、経験や専門能力に応じた基本給が5割、授業負担や役職などに基づく職務給が3割、研究業績、社会貢献実績に即した業績給が2割となっている。しかし、肝心の評価基準など細部が未確定だ。

 実際に年俸の形で給与が支払われるのは2008年度からで、首都大当局も、「まだ制度作りが途中にあるため、教員が二の足を踏んでいる面がある」と認める。

 北見工大学長の常本秀幸(63)は、「新たな制度を入れようとする時は、教員の不安に応えなければならない。その点はしっかり説明してきたつもり」と話す。

 ただし、北見工大では、年俸制こそ導入していないが、任期制とは別に、教員の評価制度が確立されている。


投稿者 管理者 : 2005年06月03日 02:17

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