個別エントリー別

« 文科省、平成16年度 大学等における産学連携等実施状況報告書 | メイン | 裁量労働制交渉 その手もあったか »

2005年06月29日

2005年4月の入学式における不起立者に対する処分に抗議する研究者声明

■「意見広告の会」ニュース287より

2005年4月の入学式における不起立者に対する処分に抗議する研究者声明

 東京都教育委員会は、2004年中の248名、2005年3月卒業式に関わる52名に加えて、2005年5月27日、2005年の入学式において「国歌斉唱」の際起立しなかった9名の教員と、「君が代」の伴奏を拒否した1名の教員を処分しました。その中でも、特に、東京都立川市立立川第二中学校教諭根津公子さんに対しては、停職一ヶ月という非常に重い処分が加えられました。わたしたちは、「国歌斉唱」時に着席したことを理由に「停職」という非常に厳しい処分が行われたことについて、正直驚きを禁じ得ません。
 今回の処分は、教員が起立をしないならば、最終的には「免職」にまで至るという東京都教育委員会の意志を、明確に示しました。しかし、そもそも、「国歌斉唱」の際、教員に対して職務命令を出して起立させることは、憲法および教育基本法に照らして、違法としか考えられません。したがって、違法な職務命令に法的義務は発生せず、それが繰り返されたからといって、「停職」や「免職」に至るはずはありません。
 自由で民主的な社会において、教育という営みは、その受け手である子どもが、自律的に思考する力を獲得するために行われるべきものです。この原理は、憲法13条の個人の尊重、19条の思想良心の自由、26条の教育を受ける権利などによって、子どもに保障されています。教育の目的として「人格の完成」を掲げ、教育に対する「不当な支配」を禁じる教育基本法は、日本国憲法が想定する自由で民主的な社会における教育のあり方を具体化したものです。この原理は、旭川学力テスト最高裁判決において、国は「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入」を行うことができないと判示された通りです。
 以上のような憲法と教育基本法の理念に照らすならば、学習指導要領に基づいて、「国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導」することには限界があるはずです。学習指導要領は文部科学省の「告示」であり、旭川事件において最高裁が示したように「大綱的基準」にすぎません。個々の教員に対して起立・斉唱の職務命令を発して、その違反に対して戒告・減給・停職・免職という処分を行うことは、教員を利用することによって、子どもたちを特定の価値に従わせることを目的とするものであり、日本国憲法および教育基本法に違反し、教育委員会が有する権限の範囲を著しく逸脱することは明らかです。
 東京都教育委員会は、今回の処分によって、教員と子どもたちに対して、「日の丸・君が代」に恭順を示さない者は許さないという、強烈なメッセージを発しました。この処分は、子どもたちを「指導」するために行われているのであり、すでに子どもたちへの直接の強制は作動しているものと考えられます。
 処分を受けた10人の教員は、このような状況を未然に防ぐために、職をかけて抵抗を試みたものと考えられます。わたしたちは、このような教員の抵抗は、「信用失墜行為」どころか、東京都教育委員会の違法行為を社会に訴え、それを是正するために行われた正当な行為であると高く評価します。
 わたしたち研究者は、「不起立」を貫いた10人の教員の勇気に敬意を表すとともに、彼らとともに、法を回復するために力を尽くすことが、わたしたちに課された社会的責任であると自覚します。それゆえ、彼らに対して「停職」を含む厳しい処分を行うことによって、日本国憲法と教育基本法に違反し、あるべき教育から逸脱を続ける東京都教育委員会の行為に強く抗議し、10.23通達に基づくすべての処分を撤回することを要求します。

2005年6月22日

署名者122名

呼びかけ人・賛同人:(2005年5月31日まで、順不同)

成嶋隆(新潟大学)、堀尾輝久(東京大学名誉教授)、中田康彦(一橋大学)、今野健一(山形大学)、舟木正文(大東文化大学)、中川明(弁護士・明治学院大学)、姉崎洋一(北海道大学)、青木宏治(高知大学)、林量俶(埼玉大学)、永野恒雄(全国教育法研究会)、市川須美子(獨協大学)、三上昭彦(明治大学)、山口和孝(埼玉大学)、八木英二(滋賀県立大学)、細井克彦(大阪市立大学)、中嶋哲彦(名古屋大学)、竹内俊子(広島修道大学)、土屋基規(神戸大学)、伊藤進(明治大学)、丹羽徹(大阪経済法科大学)、荒牧重人(山梨学院大学)、戸波江二(早稲田大学)、植野妙実子(中央大学)、片山等(国士舘大学)、西原博史(早稲田大学)、山崎真秀(元静岡大学)、隅野隆徳(専修大学名誉教授)、清水雅彦(明治大学)、江熊隆徳(全国教育法研究会)、足立英郎(大阪電気通信大学)、池田正樹(静岡県)、久保富三夫(立命館大学)、川口洋誉(名古屋大学院生)、谷口聡(名古屋大学院生)、杉山和恵(名古屋学泉大学)、山本由美(工学院大学非常勤)、吉岡直子(西南学院大学)、平岡亮(中央学院大学)、西脇秀晴(神奈川大学院生)、小林正直(神奈川大学院生)、木村陽吉(全国教育法研究会)、田口和人(武蔵野美術大学)、水谷厚子(愛知教育法研究会)、山崎武央(新潟五泉高校)、三島敏男(民主教育研究所)、竹田友三、金井徹


投稿者 管理者 : 2005年06月29日 00:44

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi4/mt/mt-tb.cgi/59

コメント