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2005年08月24日

弁護士は「郵政民営化反対」の声をあげよう

自由法曹団
 ∟●団通信第1173号(8/11) 弁護士は「郵政民営化反対」の声をあげようより

弁護士は「郵政民営化反対」の声をあげよう

東京支部  萩 尾 健 太

一 「消費者金融と手を組む銀行」「審査で融資だめならプロミスへどうぞ」

 衝撃的な見出しが舞うのは、本年七月一一日付全国商工新聞。

 UFJ銀行・三井住友銀行・東京三菱銀行など大手都市銀行が、プロミス・アプラス・アコムなどの消費者金融と提携した銀行系ローン三社(モビット、アットローン、DCキャッシュワン)のローン残高は〇五年三月末で三六〇〇億円を超えた。
 銀行は消費者金融を政略的パートナーと位置づけ、双方のノウハウを最大限生かすとして銀行内部でもすさまじい「改革」を進めている。リスク商品(投資信託、変額保険、外貨預金など)を販売し、運用結果の損得は顧客に帰着し、銀行には確実に手数料が入るようにしている。相続関係にも力を入れ、信託銀行に紹介するだけで一件一〇〇万円の手数料をとるという(これは弁護士の職域を侵しているものと思われる)。窓口業務をどんどん減らし、もともと銀行が行っていたことにも手数料を取るようになった。中小業者で相手にするのは優良企業だけである。

 銀行法では、銀行の目的に公共性を謳っており、銀行の役割は中小業者にも資金を回すことで経済発展を促すこととされてきた。しかし、現在銀行は公共性を放棄し、合併で人減らしをし、手数料を増額し、庶民に対しては消費者ローンでの儲けを追及するようになっている。

二 では、消費者金融についてはどうか

 金融庁は現在、「貸金業制度等に関する懇談会」を設置し、上限金利や見なし弁済期邸を含めた貸金業を取り巻く現行法の見直し作業を進めている。そこには、消費者金融の代表者も参加している。本年六月二九日には、アコム、オリックス、三井住友カード、GEコンシューマー・ファイナンスの各社長がプレゼンテーションを行い、それぞれ貸金業法四三条の見なし弁済規定が貸金業者に不当に厳しく、一七条書面、一八条書面などのコストがかかるのこと不当性を訴えた。とりわけ、GEコンシューマー・ファイナンス社長は、在日米国商工会議所意見書「貸金業法の改正を」を資料として提出して説明した。その中には、一七条、一八条の要件を満たさない場合、過払い金返還請求をされることについて、「このような不公平な責任を貸金業者に課すことによって、消費者金融業における貸付供与が制限され、消費者需要が縮小され(同時にデフレ効果がもたらされ)ることになり、又この消費者需要の大きな部分が、免許を有する合法的な貸金業者から違法な貸金業者へと転換し、様々な社会問題を併発する可能性がある。さらには、消費者金融債権の法的な有効性に関する不透明感から、債権の証券化に不必要な弊害が発生し、よって秩序ある不良債権の整理および当該貸付金の資金調達が阻止されることになる。」

 私は依頼者には、借金などせずに済むよう自分の稼ぎの範囲で慎ましく生活するようにお話ししているのだが、アメリカではそうは考えられていないようである」具体的には、破産の要件がある場合以外は見なし弁済を有効とするべきと提案しているようである。

 この他、貸金業者は利息制限法の上限金利の撤廃を求めていることは周知の通りである。

三 そこで、郵政民営化である。

 政府の方針は、今の郵政公社の行っている事業を(1)四つの会社(窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社)に分割して行わせる、(2)これらの会社の株式を保有する持ち株会社を作る、(3)持ち株会社の株式は、当初は国が一〇〇%保有するが、ゆくゆくは民間会社に売却していく(三分の一強は政府が保有する)、(4)持ち株会社の保有する郵便貯金会社、郵便保険会社の株式は民間に売却し、二〇一七年には、この二社は完全な民間会社とする、(5)現時の郵政公社が預かっている貯金、生命保険については公社承継法人を設立してそこに引き継がせる、と言うものである。

 政府は、郵政民営化最大の利益は「経営自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能となり、国民の利便性を最大限に向上させる」点にあるとしている(〇四年九月閣議決定)。

 しかし、外国の事例にも顕著に表れているが、郵政事業の民営化によって国民へのサービスは確実に低下する。〇一年に郵便事業を民営化したイギリスでは、多くの郵便局が廃止され、配達サービスが低下するなどの問題が生じている。九〇年に公社化、九五年には株式会社化したドイツでは、郵便局数は九〇年から一〇年も経たない間に半減したという。

 日本でも過疎地域住民への郵便サービスは低下が予想される。国鉄から民営化されたJRの地方路線の廃止の例がある。

 いま全国の郵便局の数は二万四七〇〇局で、全国に二万五〇〇〇校ある小学校のほぼ一学区ごとに一局の郵便局が置かれており、歩いて郵便局に行けるが、民営化されると政府の基準では、維持される郵便局が七~八〇〇〇にしかならない。小泉純一郎首相自身、「いまの郵便局が全部なくならないとはいわない。統廃合もある。全部維持しろということではない」と答弁している。

 少額なたくわえしか持たない人々への貯金サービスも低下が予想される。前述の通り、近年の銀行の小口預金社への手数料の引き上げなどの対応の例がある。分社化によって、郵貯銀行や郵便保険会社は窓口会社に対して業務の委託費を手数料で七〇〇億円も支払うことになり、この手数料発生に対して消費者が負担すべき税金である消費税が発生する。民営化で郵便貯金には預金保険料が四〇〇億円発生し、郵便保険会社には負担金が一〇億円発生する。これらのコストは郵便貯金の手数料値上げに転化されるだろう。

 こうした新コストの結果、政府が民営化後の会社の経営見通しとして出した「骨格経営試算」によれば、完全民営化される二〇一六年度の利益が、民営化会社では六百億円の赤字となる一方、公社のままなら一三八三億円の黒字になる見込みである。

 赤字になれば法人税も国に入らないが、公社のままなら利益の半分を国庫納付金として納めた後でも六九二億円の利益が残るのである。

 さらに郵政民営化関連法案では職員が新会社に引き継がれることは示されているが、各社は何人の職員で発足するのか明示されていない。四〇万人にのぼる郵政労働者の配置基準も示さずに、各社の経営基盤を判断することはできないはずだし、労働者の配置時にJR同様の配属差別の不当労働行為もなされるだろう。現在も過労死者が出る職場なのに、一層の合理化によりさらに労働者に犠牲が押しつけられることは明らかである。

 そもそも、郵政公社化の方針を決めた九八年の中央省庁等基本法の中で、郵政公社については「民営化等の見直しは行わない」と明記している。郵政民営化はその法的義務に反する。

四 では、何のための郵政民営化か。

 「簡保は、競争をゆがめ、市場機能に打撃を与え、民間企業から仕事を奪っている」。アメリカのキーティング生命保険協会会長は昨年三月にこう発言した。このとき同協会は「拡大する日本の簡易保険事業」と題する報告書を公表し「(アメリカの保険会社も)民営化に関する議論に意義ある参加を認められるべきである」と述べた。

 この圧力の下、米国政府の日本への規制緩和要求である「日本政府への米国政府の年次改革要望書」は〇三年一〇月、「郵便金融機関と民間競合会社間の公正な競争確保」を名目に、郵政事業と民間への「同一ルール適用」=民営化を提言し、〇四年一〇月に出された「要望書」でも、「民営化が日本経済に最大限に経済的利益をもたらすためには、意欲的かつ市場原理に基づいて行われるべきである」「日本郵政公社の民営化という小泉首相の意欲的な取り組みに特に関心をもっている」と郵政民営化を督促した。なお、アメリカでは〇三年に「ユニバーサルサービス維持は国営でしかできない」と言う報告書が出され、郵便事業は国営で維持されているにもかかわらず、日本には民営化を押しつけているのである。

 全国銀行協会は、〇四年七月に出した「郵政民営化に関する私どもの考え方」という冊子で、郵便貯金事業について、もはや国営で維持する理由はないとして廃止を求めている。

 全国銀行協会の前田晃伸会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は四月一九日の就任会見で、「現在、郵貯が行っている業務については、かなりの部分を民間金融機関で代替することが可能」と述べて、民間銀行に「郵貯を渡せ」と要求した。

 郵政公社が郵便貯金・簡易保険などで集め、現在財務省資金運用部への預託金や国債で安全運用している四〇四兆円の資金について、米日の銀行や保険会社が運用を請け負い、自らの資金にしたり、手数料で儲けようというのがこれらの要求のねらいである。

 小泉首相の所属する三塚・森派は、銀行族として知られ、まさに小泉首相は米日金融資本の意を受け、その利益のために郵政を民営化しようとしているのである。

五 こうした郵政民営化がもたらすものは何か。 

 現在、郵政民営化を巡って行われている自民党の内紛について茶番劇などと醒めた見方があるが、そうではない。自民党を米日金融資本の代弁者に純化しようとする小泉首相ら主流派と、旧来の業界・地域利権自民党を守る側との熾烈な抗争である。それが「自民党をぶっ壊す」との小泉のスローガンの内実である。それは「古い自民党政治の危機の現れ」などではない。だからこそ小泉は、党内の反対を押し切ってまで郵政民営化を強行するのである。郵政民営化の実現は、米日金融資本による政治の完全掌握・財閥解体以来復活の道をたどってきた金融寡頭制の完全復活を意味する。それは日本国家の重大な変容である。しかも現在の金融独占資本の姿は、冒頭に述べたように公共性を投げ捨て日本経済を後退させる腐敗したものである。まさに、レーニンが「帝国主義論」で指摘した「停滞し腐朽する資本主義」そのものである。

 他の帝国主義の指標=資本輸出と海外市場獲得は進行している。七月二二日には、日米共同運用となり違憲性が指摘されるミサイル防衛システムを盛り込んだ自衛隊法改悪も成立した。憲法九条が改悪され、日本の軍隊が海外で戦争ができるようになれば、日本はますます対米従属を深めながら帝国主義として完全復活を遂げることができるようになる。

 この金融独占資本の支配は、重大な弊害をもたらす。郵政民営化で反対派を切り捨て、前述のように消費者金融と一体化した銀行資本の意志が政治の世界で貫徹されるようになれば、貸金業法は改悪され、利息制限法の金利制限が撤廃される危険すらある。それは、多くの消費者をサラ金地獄に陥らせ、利息制限法による引き直し・過払い金返還請求でそれらの人々を救済してきた多くの弁護士の業務に甚大な打撃を与えることになるだろう。

 そのような事態が実現する前に、私たち弁護士から「郵政民営化反対!」の声をあげていこう。


投稿者 管理者 : 2005年08月24日 00:00

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