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2005年12月29日

自由法曹団、「知っていますか? 労働契約法制-これはひどい!」

自由法曹団
 ∟●「知っていますか?労働契約法制ーこれはひどい!」

知ってますか?  労働契約法制 これはひどい!

はじめに 「労働契約法」づくりの行方は?
労働政策審議会・労働条件分科会での審議はじまる

 厚生労働大臣は,2005年9月28日,労働政策審議会に対して「今後の労働契約法制の在り方」についての検討を諮問し,これを受けて同審議会(労働条件分科会)での検討が進められています。
 今日,判例をも無視した乱暴な解雇や労働条件の一方的切下げが大手を振るってまかり通っていますが,その要因のひとつに,使用者の横暴を規制し労働者の保護に役立つ公正なルールが現行法では体系的に整備されていないことがあります。したがって,こうした目的に沿う体系的な法律として,新たに「労働契約法」をつくるべきことの必要性は否定できないところです。
 しかし,審議会への諮問に先立ち,厚生労働省のもとで進められてきた「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」での検討結果が同年9月15日付で発表されましたが(以下,これを「研究会報告」といいます),その内容には部分的に前進面があるものの,つぎに見るように,見過ごすことのできない重大な問題点があります。
 また,同研究会での問題提起を受けて2005年4月に発足した「今後の労働時間制度に関する研究会」では,一定の範囲のホワイトカラー労働者について現行労働基準法の労働時間規制を適用しないこととするなど,「自律的な働き方」の名の下に労働時間規制の緩和をはかる方向での検討が進められています。この研究会での検討の結果は2006年の早い時期に発表され,「今後の労働契約法制の在り方」についての検討とともに労働政策審議会での検討に付される見込みです。
 以下では,この労働時間制度についての研究会が目指している方向とすでに発表されている労働契約法制についての「研究会報告」の危険な内容が立法化された場合に,どのような事態が予想されるかを,現状を踏まえながら見ていくこととします。


その1 解雇の「金銭解決」制度
~解雇が無効でもカネで片付けられるとは,笑いが止まらん!

 より一層の利益を上げるための「リストラ」解雇や,気に入らない労働者の追い出しをはかった強引な解雇が後を絶ちません。しかし,労働基準法第18条の2は,解雇には「客観的に合理的な理由」が必要で,「社会通念上相当であると認められない」(「社会的相当性」を欠く)解雇は無効としています。
 この「合理的理由」とは,たとえば,注意しても無断欠勤や遅刻を繰り返したり,業務命令違反を繰り返すなど労働者に著しい問題がある場合や,倒産を避けるための人員削減手段として解雇も止むを得ないという経営上の事情がある場合などをいいます。ささいな規律違反やミスを捉えての解雇や,たんに競争力強化をはかるためという理由での解雇は許されません。また,労働者に著しい問題があることを理由とする場合でも弁解の機会も与えずに,あるいは経営上の事情を理由とする場合に労働者側との協議もなしに,いきなり問答無用で解雇することは「社会的相当性」を欠き許されません。解雇が無効であれば,当然,労働者は従来どおり働き続ける権利,賃金の支払を受け続ける権利があります。
 ところが,「研究会報告」は,解雇が裁判で無効とされた場合でも,使用者は一定の解決金支払により雇用を終わらせる申立てができる,という解雇の「金銭解決」制度の導入を提案しています。
 この制度は財界が導入を強く求めているものですが,その狙いは,解雇した労働者が裁判に訴えて最後まで抵抗しても結局は金で職場外に放り出せるようにしよう,同時に,人員整理などの解雇にかかる「経費」の予算化を今よりもはるかに明確化できるようにしよう,というところにあります。
 「研究会報告」は,この制度の濫用防止のためとして,「個別企業の事前の集団的」な労使の合意(労働協約や「労使委員会」の決議)を必要とすることをあげています。しかし,会社いいなりの労使委員会をつくってしまえば,解雇がやりやすくなるばかりか,解雇が無効でも少額の解決金での追い出しもOKと,濫用の「歯止め」にはなりません。
 これでは,裁判で無効とされることを承知のうえで解雇を強行したうえ,少額のお金で好き勝手に労動者を「永久追放」することもできることになります。こんな制度はお断りです。

その2 「新たな労働時間規制の適用除外制度」
~割増なしで「自律的」にいくらでも働いていただきましょう!

 労基法では,労働時間は週40時間・1日8時間以内とし,毎週最低1日の休日を設けるべきことが定められ,これらを超える労働に対しては割増賃金の支払いが定められているなど,労働時間を限定する仕組みが取られています。また,休憩時間を設けるべきことや深夜割増賃金,年次有給休暇制度など,労働者の生命と健康を守り,仕事と生活の調和を実現するうえで重要な規制が設けられています。
 このような労働時間等の規制に対して,アメリカで実施されている「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度をモデルにした「労働時間規制の適用除外制度」を導入することが検討されています。この制度は,一定の範囲のホワイトカラー労働者について,労働時間等に関する法規制を外してしまう制度のことを言います。対象とする労働者の範囲を賃金・職務内容その他どのような基準で定めるかについては,さまざまな意見が出されていますが,いったん定められた範囲がそのまま拡げられらない保障はありません。日本経団連は,年収400万円以上の労働者を対象とすべきことを打ち出すなどして批判を浴びていますが,導入のさいにはもっと高い年収が要件とされた場合でも順次引き下げられない保障はないのです。
 このような制度が導入されれば,いくら長時間労働させても法律違反にはなりませんし,いくら働いても割増賃金はなく,一定額の給与しかもらえないことになります。しかも,休憩・休日・深夜割増賃金・年次有給休暇の権利についても無くすべきことも検討の対象とされています。
 導入論者は,労働時間や仕事の仕方を自ら自由に設定して「自律的」に働くことを望んでいる労働者が増えており,この制度は,そうした労働者の要望にも合致するとしています。しかし実際には,労働者の圧倒的多数は満足に有給休暇を取ることもままならず,不払い残業が蔓延するなかで,過労死がいっこうに減らないというのが現状です。
 「労働時間規制の適用除外制度」の導入は,企業側の長時間労働の押しつけと人件費抑制をいっそう推し進めるものであり,労働者の生命と健康を破壊し,仕事と生活の調和をはかることを不可能にするものです。

その3 「試行雇用契約」
~正社員採用かと思ったらポイ捨てなんて!

 「試行雇用契約」とは,期間を限定して「お試し的」に雇う有期雇用契約のことです。「本採用があり得ます」とうたって労働者を寄せ集めて,期限いっぱいまで使うだけ使ったうえ,気に入らなければ「期間満了」のほかには大した理由もなしにクビにできる制度です。
 この「試行雇用契約」は,いわゆる「試用期間」とは大きく異なります。
 「試用期間」は,労働者を期限の定めのない正社員として雇い入れる際に,適性判定のために設けられる一定期間のことで(一般的に長くても6か月程度),その結果により本採用拒否があり得るものです。しかし,本採用の拒否は,重大な経歴詐称などの客観的に合理的な理由があり,社会的相当性が認められる場合だけ許されます。
 なお,現行法上,「試用期間」には上限がありませんが,「研究会報告」は「上限を定めることが適当」としています。
 これに対して「試行雇用契約」は,有期雇用ですから期限がきたら終わるのが原則。「研究会報告」は,「差別的」理由や「正当な権利行使」を理由とした本採用拒否はできないこととするとしていますが,これは,逆に言えばこれら以外の理由であれば「試用期間」の場合のような制限なしに本採用を拒否できることを意味します。
 しかも,本採用拒否が無効の場合にも,本採用を求めることはできず損害賠償を請求できるにとどめるのが適当だとされているのです。結局,正社員になれるかどうかは使用者の胸先三寸に委ねられるに等しく,これでは正社員としての採用を期待して一生懸命働いても「試供品」のまま。
 研究会報告は,労働者をこのような無権利状態におくことに法律で「お墨付き」を与えようとしているのです。

その4 「雇用継続型契約変更制度」
~従うのが嫌なら,辞めるか裁判でもなんでも起こすがいい!~

 あなたは,使用者から賃金切下げや所定時間の延長などの労働条件切下げに応じるように,さらには,正社員からパート契約その他の非正規雇用への切り替えに応じるように,と言われたらどうしますか?
 誰でもこんなことに応じたくはないはずですが,これらに応じなければ一定期間後には解雇が待ちかまえているとしたらどうでしょう?
 最近,このような解雇の脅しで労働条件の切下げや正規雇用から非正規への切り替えに応じることを強要するやり方が目立つようになっています。
 こうした手法が大手を振ってまかり通らないようにするためには,解雇の脅しによって取り付けた同意は無効であることを法律に明記することです。こうしておけば,労働者が解雇を恐れてやむなく同意してしまった場合でも,賃金切下げや非正規化は無効です。また,もともと,労働条件の切下げや正規雇用から非正規への切り替えに応じなかったことを理由とする解雇は許されないものですが,このような解雇が増える方向にあることを踏まえて,こうした解雇が無効であることを法律に特に明記しておくことも重要でしょう。
 ところが,「研究会報告」は,こうした真に有効な規制を設けるのではなく,このような手法による労働条件変更手法を「雇用継続型契約変更制度」として法律により制度化することが適当だとしました。「研究会報告」は,使用者からの労働条件変更の申し入れに対して労働者が「異議をとどめた承諾」を行った場合にこれを理由とした解雇は無効とする,そうしておけば労働者は解雇されずに済むし,労働条件の変更についても,後日,会社を相手に裁判を起こして争うことができる,だから心配することはないと言わんばかりです。
 しかし,もともと契約内容は当事者双方の合意がなければ変更できないのが大原則ですから,使用者による労働条件の一方的な不利益変更は原則として無効です。にもかかわらず使用者による一方的な変更が横行しているのが現状です。労働者は,こうして一方的に強行された不利益変更を後に自ら裁判を起こして争わなければならないのに,逆に,労働条件を自分たちに有利に一方的に変更する道はありません。「異議をとどめた承諾」を認めることにより裁判で争う道を保証すると言っても,労働者に一方的な負担を強いることに変わりはありません。しかも,素直に承諾せずに「異議を留めた承諾」を行った労働者を解雇する場合に,正面からそのことを解雇理由として挙げるような真正直な使用者は稀で,実際には様々な別の理由を挙げるのがむしろ通常ですから,心配がなくなるどころではありません。
 それだけではありません。これまで,使用者による労働条件の一方的な不利益変更は,就業規則の制定・変更による場合で,しかもその内容や手続等を総合して「合理性」ありと認められるときに限り,例外的に有効だとされてきていました(最高裁判決)。ところが,「研究会報告」は,経営上の合理的事情があれば就業規則変更によらないで一方的な不利益変更を有効に実施する道も,法律制度として用意してやろうとしているのです。
 使用者の一方的な変更を規制する実効性のある立法こそが求められているのに,これでは,「研究会はどちらを向いて検討してきたのか」と批判されてもやむを得ないでしょう。

その5 「労使委員会」
~使用者がさまざまに活用できる新たな機関

労使対等を実現するためには何が必要か?
 日本の労働組合の組織率は,30年ほど前から低下し続けています。厚労省の平成17年労働組合基礎調査結果によれば,同年6月末時点での組織率は全体で19%を割るにいたっており,従業員100人未満の民間職場では労働組合に入っている労働者はわずか1.2%にとどまっています。
 こうした実情を受けて,「研究会報告」は,「労働者代表制度」という項を設け,その中で「労使当事者が実質的に対等な立場で自主的な決定を行うことができるようにする」ことが必要だと指摘しています。
 労使の実質的な対等を実現するためには,第1に,労働組合の力を現状よりも飛躍的に発展・強化することが求められます。そのためには,労働組合自身の努力が求められることは言うまでもありませんが,法律上の方策として,現行労働組合法の不備を是正することも急務です。労組法第7条は,組合活動などを理由とした不利益取扱いや団体交渉拒否・支配介入などの組合弱体化をはかる行為を不当労働行為として禁止していますが,違反に対して労働委員会が発する救済命令には実効性が欠けるために,救済命令をも無視して不当労働行為を繰り返す使用者が後を絶たないからです。
 第2には,こうして労働組合を強化することと並んで,ドイツ・オーストリアなど西欧諸国に見られるような,職場労働者の声を実効的に代表できる「従業員代表」制度が求められます。
 ところが,「研究会報告」は,こうした方策にはまったく触れずに,事業場ごとに常設の「労使委員会」を設置してこの委員会で「使用者が労働条件の決定・変更について協議を行うことが促進されるようにすることが適当」と述べています。
「労働者代表制度」とは似ても似つかない「労使委員会」
 しかし,「研究会報告」が提起している「労使委員会」は,労使双方の委員で構成され,しかも使用者が望む場合にだけ設置されるものです。このような制度は,前述した「従業員代表」制度とはまったくの別物で,これを

「労働者代表制度」などと呼ぶことはとうていできません。
 「研究会報告」は,「労使委員会」の委員はその半数以上が労働者代表であることを要することとすべきだとしていますが,もともと使用者が望んだ場合にはじめて設置される委員会ですから,結局は使用者側委員が半数を占めて労使同数の委員となります。この場合に,睨みをきかせるために使用者が労務・人事担当役員その他どのような委員を配置するかは,容易に想像がつくでしょう。
 なお,「研究会報告」は,「使用者は委員であること等を理由とする不利益取扱いはしてはならない」とすることも「考えられる」と述べています。しかし,現行労組法をも無視して組合役員に対する差別を行ったり,逆に懐柔して組合運営を支配しようとするなどの不当労働行為を繰り返す使用者が,この程度のことで労使委員会の労働者委員に対しては圧力を加えたり懐柔したりはしないなどと期待するのは,甘いというほかありません。 それでも,使用者からの日常的な圧力を跳ね返し委員会の場でも使用者側委員と対等にわたりあえる労働者委員を選出することができれば,「労使委員会」に対しても少しは期待できるのでは,という意見もあるかも知れません
 しかし,「研究会報告」は,「労使委員会」委員の選出の手続は,現行法上の労働者代表(過半数組合がない場合に36協定の締結や就業規則改訂に対する意見聴取の当事者となる)の選出手続よりも明確なものとすべきだと述べるにとどまり,肝心な具体的選出方法については,いくつかの案が「考えられる」と述べるにとどまり明確に打ち出していません。これでは,使用者とまともに渡り合える委員を選出することは困難でしょう。
 こうして,「労使委員会」は,実際上は使用者からの提案をつぎつぎと呑まされる場になりかねません。使用者としては,もしそのように機能することが期待できない労使委員会であれば設置しなければよい訳ですから,設置するからには期待どおりの役割を果たさせることを目指すことは言うまでもないでしょう。
 さまざまなチャンネルで猛威をふるうおそれ 重大なことは,「研究会報告」が,使用者が「労使委員会」を設置してこれを活用することを促進するためとして,「労使委員会」の決議等に一定の効果を与えることが適当だとしていることです。
 その例として,①就業規則の変更による労働条件の切下げついて,現在の判例では圧倒的多数の労働者が同意していてもそのことをもって不同意の労働者に対して有効とすることはできないとされているにもかかわらず,「労使委員会」での5分の4以上の決議があれば変更の「合理性が推定される」(つまり不同意の労働者に対しても有効となる)こととする,②配置転換・出向・解雇などの場合に,「労使委員会」で事前に協議していれば「権利濫用の判断において考慮要素」となり得る(つまり,権利濫用にあたらないと判断され易くなる)ことを指針等で明らかにすること,などが挙げられています。
 もし,このようにされてしまったら,いままでの裁判では労働者側が勝ってきたケースでも使用者側の言い分がはるかに通りやすくなり,労働条件の切下げや配置転換・出向・解雇などを争う裁判で労働者側が勝訴することは困難となるでしょう。

労働組合との団体交渉への影響は?
 また,「研究会報告」は,過半数労働組合が存在する場合であっても「その機能を阻害しない形で労使委員会の設置は認めてよい」,あるいは「労働組合の団体交渉を阻害することや,その決議が労働協約の機能を阻害することがないような仕組みとする必要がある」とも述べていますが,これらの具体的な方策については何も述べていません。
 もともと,労働組合との間での誠実な交渉を踏まえて事を進めようという使用者であれば,「労使委員会」を設置することもない筈です。にもかかわらず,あえて「労使委員会」を設置してこれを活用しようという使用者のもとでは,労働組合の団体交渉が影響を被ることは避けられないと見るべきでしょう。

労働政策審議会での審議が続いています。「今後の労働契約法制の在り方研究会」報告の問題点や「今後の労働時間制度に関する研究会」で取り上げられている問題点が盛り込まれることがないよう,以下のような取組を強めましょう。

1 学習する機会を設けましょう。
「研究会報告」の危険な内容やホワイトカラー・エグゼンプションが立法化されたら職場はどのような事態になるのか,まず学習をして理解することが必要です。 自由法曹団でも,労働契約法制・労働時間法制の学習会への講師を派遣しますので,お問い合わせ下さい。

2 職場の実態を告発する資料をつくりましょう。
現在でも,職場では,「研究会報告」の危険な内容やホワイトカラー・エグゼンプションを先取りするような労働者の使い捨てや労働条件の切り下げ,労働基準法や労働者派遣法などに違反する実態があります。このような中で「研究会報告」の危険な内容などが立法化されたら,労働者が安心して働くことができなくなります。職場の実態を収集して資料などをつくり,「研究会報告」の内容の学習,厚生労働省・労働政策審議会への要請,マスコミへの投書,議員への働きかけなどに利用することは有効です。

3 労働政策審議会(労働条件分科会)の審議を傍聴しましょう。 審議会は誰でも傍聴できます。厚生労働省のホームページ http://www.mhlw.go.jp/new-info/index.htmlに日程が発表されますので,記載された手続きにしたがって申し込んで下さい。

要請先
〒100-8916東京都千代田区霞が関1-2-2
厚生労働省労働基準局監督課 企画係
電 話
03(5253)1111(内線5423)
FAX
03(3502)6485
発行: 自由法曹団労働問題委員会
東京都文京区小石川2-3-28DIKマンション201号
TEL03-3814-3971/FAX03-3814-2623


投稿者 管理者 : 2005年12月29日 00:00

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