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2006年01月24日

自民党の新憲法草案の内容と問題点

法学館憲法研究所
 ∟●自民党の新憲法草案の内容と問題点

自民党の新憲法草案の内容と問題点

2006年1月23日
森英樹さん(名古屋大学副総長・教授)


<これは森英樹さんが昨年12月に福祉関係者の集会で行った講演からの抜粋を文章化したものです。見出しは法学館憲法研究所事務局がつけました。>

昨年11月、自民党が新憲法草案を公表しました。そのポイントとなるところをお話したいと思います。
日本国憲法の非戦の誓いを否定した自民党改憲案

自民党の新憲法草案は現在の憲法のほとんどの条文にわたって書き換える内容になっています。書き換えたといいましても、圧倒的な部分は送り仮名を現代風に改めるような技術的なものですが、ポイントはやはり9条でした。意外だったとしてメディアが騒ぎましたのは前文です。この前文のところが全文書き換えられました(笑い)。
前文を見直すために自民党「新憲法起草委員会」が設置した小委員会の委員長は中曽根康弘氏でした。中曽根さんといえば、昔から、天皇を愛し、日本の伝統を愛し、悠久の日本の…といった、三島由紀夫的な世界を愛し、そのようなすぐれた伝統や文化の薫る日本を讃え上げる、そういう前文にしなければいけないとずっと思ってきた人でした。中曽根さんが自ら筆をとったといわれている当初の前文案は「日本国民は、アジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島国に、天皇を国民統合の象徴にいただき、和を尊び、争いを好まず…」という、美文調で情緒的な文章でした。そのようなものが最終案でも出てくると私どもはある程度覚悟しておりました。ところが、最終案の前文はこういったエモーショナルな言い回しをそぎ落とし、まったく行政文書のようなものにすりかわっていました。
それは「日本国民は、自らの意思と決意に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する」から始まります。自民党は、現憲法はアメリカから押し付けられた、だから自分たちの手で憲法をつくりたいという思いで結成された政党ですので、その自民党の宿願=DNAを冒頭から書き込んでいます。そして、その次に復古的な中曽根流の文章を切って捨て、ある種の苦渋の選択をし、「象徴天皇制は、これを維持する」と、一言ですませました。そのうえで、普通に国民主権だ、民主主義だと、文言だけを謳います。
問題の愛国心の部分は、「日本国民は、帰属する国や社会を、愛情と責任感と気概をもって自ら支える責務を共有し…」となっています。愛国心という文言こそ使いませんでしたし、国も社会も、となって「愛社心」までつぎ足しましたが、得体の知れない「国」を「愛情」で支える、というソフトな言い回しで、従来からの自民党の考え方はけっして捨てることなく、埋め込んだのです。
平和主義に関わる部分は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い…」という現在の憲法第9条に書いてあることをなぞった上で「他国とともにその実現のため協力し合う」としました。いまの憲法は、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願う」がゆえに戦争をしないことを誓い、戦争に役立つ軍備である戦力を持たないと決め、交戦権を否認したのです。ところが自民党草案は、現憲法が謳い込んだ、あの悲惨な戦争を猛省して国民がこの憲法を選び取ったのだという反戦・非戦の誓いと、これからは「平和のうちに生きる権利」を全世界の人びととともに保持するのだと高らかに謳いあげた部分、日本国憲法の顔であり魂といわれている部分は全部捨てました。そして、じゃあどういう協力をし合うのかというと、「国際社会において価値観の多様性を認めつつ、圧政や人権侵害を根絶させるため、不断の努力を行う」としたのです。自民党は「平和主義を維持している」と言い張りますが、これでは憲法を根底から変えたに等しく、だからこそ「改正草案」ではなく「新憲法草案」としたのです。これはもはや、憲法「改正」手続に乗せる案ではありません。……


投稿者 管理者 : 2006年01月24日 00:12

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