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2006年02月15日

横浜市立大学労基法第14条に基づく全員任期制、国会の付帯決議にも違反するのではないか

衆議院厚生労働委員会「労働基準法の一部を改正する法律案に対する付帯決議」(平成15年6月4日)
参議院厚生労働委員会「労働基準法の一部を改正する法律案に対する付帯決議」(平成15年6月26日)

 2003年7月4日公布の改正労基法(2004年1月1日施行)は,解雇規定の新設および裁量労働制の規制緩和とともに有期労働契約の期間の上限に関する定めを変更した。その内容は有期契約の期間の上限を原則1年から3年に引き延ばし,特例の3年を5年に延長・緩和するものであった。
 
 労基法第14条は,これまで,その本来の立法趣旨と異なり,解雇権濫用の法理に対する回避策として利用されてきた。すなわち,期間の定めのない正規雇用者の場合,判例上「正当な理由」(整理解雇の4要件など)のない解雇は明確に違法とされており,この規制を免れるために,使用者は恒常的に必要とされる業務についても「期間満了」という形態で解雇が可能な有期労働契約を締結しようとしてきた(ただし,有期契約を何回も反復更新するなど,期間の定めのない雇用と変わらない労働実態が認められる場合,有期労働契約と言えども雇止めに対して解雇権濫用の法理が適用される。そこで,この問題をクリアすることが,上記労基法第14条改正の真の狙いでもあった。)したがって,労働契約期間の上限規制の緩和は,新たな不安定雇用者の拡大をもたらすものである。

 この点に関わり,労基法改正審議過程において,労働政策審議会労働条件分科会では,「有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い,企業において,期間の定めのない労働者の雇用に代えて有期契約労働者を雇用するケースが増大するのではないかとの強い懸念があり,常用代替が進まぬよう一定の期間を超えて雇用した場合の常用化や期間の定めのない労働者のとの機会均等を要件にすべきだ」との意見が労働者側委員から強く出された。他方,使用者側委員からは,「企業においては,基幹労働者は基本的に期間の定めのない雇用としており,今回の見直しに伴って基幹労働者を有期労働契約にすることは考えにくい」との反論意見が出された(下記を参照のこと)。

労働政策審議会労働条件部会「今後の労働条件に係る制度の在り方に関する議論の整理について」 (平成14年7月23日)

……

(2) 労働契約の期間

ア 雇用形態の多様化が進む中で、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくためには、有期労働契約の更新、雇止め等に係る実態等にかんがみ、良好な雇用の選択肢、雇用機会となるようにするための措置を講じていく必要があるとの共通の認識の下に、次のような議論が行われた。
 使用者側委員からは、①労働基準法制定当初にみられた人身拘束等の弊害がなくなってきていることから、民法の原則に立ち返り、労働契約期間の上限を五年とすることで選択肢を広げるべきであり、このことは労働者にとっても一定期間の雇用が保障されることから意義を有する、②企業の意識としても、今後とも期間の定めのない労働者が企業の基幹従業員であることに変わりはなく、従って労働契約期間の上限を五年にしたとしても、危倶されているような大幅な常用代替は起こらないのではないか、③有期労働契約の締結、更新等に係るルールについては、「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」(平成一二年一二月二八日 基発第七七九号)による運用で十分に対応可能であり、法制化の必要はないとの意見が出された。

 これに対し、労働者側委員からは、①労働基準法第一四条において労働契約期間が一年と定められている中で、労働契約期間の上限を延長すべきという労使双方のニーズが少ないこと、採用後意欲があれば継続して働き続けることのできる社会こそが目指すべき社会であること等から、労働契約期間の上限を延長する必要はない、②EU指令にみられるように、労働契約の基本は期間の定めのない契約であって、有期労働契約ば「臨時的・一時的」な業務に限定し、また、有期労働契約の反復更新にも制限を加えるべきである、③「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」(平成一二年一二月二八日 基発第七七九号)の内容は十分なものとはいえず、また、実効性に欠けるため法制化を求める、④有期労働契約が良好な雇用機会となるためには、有期労働者と無期労働者の「均等待遇」が不可欠であり、今のような雇用形態による待遇格差が維持されたままでは、今後、安価な労働力である有期契約労働その他の労働形態が拡大し、いわゆる正社員との代替が起こる可能性がある、⑤労働契約期間の上限を延長すれば、事業自体が継続する場合には、常用労働者の有期契約労働者への代替のみが行われることとなり不安定雇用の拡大につながるものであることから認められず、むしろ雇用の安定の確保の観点から、有期労働契約の雇止め等に係る点的ルールを構築する必要があるとの意見が出された。……

労働政策審議会労働条件部会「今後の労働条件に係る制度の在り方について」(建議) (平成14年12月26日)全会一致

今後の労働条件に係る制度の在り方について(建議)

Ⅰ 労働契約に係る制度の在り方

 2 労働契約の期間
 (1)有期労働契約の期間の上限について

……
 有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、合理的理由なく、企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすることが望まれる。
 本項目については、労働者側委員から、有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、企業において、期間の定めのない労働者の雇用に代えて有期契約労働者の雇用にするケースや、新規学卒者の採用に当たって三年の有期労働契約とすることにより事実上の若年定年制となるケースが増大するのではないか、との強い懸念があり、常用代替が進まぬよう、一定の期間を超えて雇用された場合の常用化や期間の定めのない労働者との均等待遇等を要件とすべきであるとの意見があった。一方、使用者側委員から、企業においては、基幹労働者は基本的に期間の定めのない雇用としており、今回の見直しに伴って基幹労働者を有期労働契約とすることは考えにくいとの意見があった。。……

 この懸念については,国会においても同様に問題にされ,最終的に改正法案を通過させるにあたって,衆参両厚生労働委員会は以下のような付帯決議をつけた。すなわち「労働契約期間の上限の延長に当たっては,常用雇用の代替を加速化させないように配慮するとともに,有期雇用の無限定な拡大につながらないよう十分な配慮を行うこと」である。こうして,改正労基法第14条は,適用にあたっては常用雇用の有期雇用への代替,有期雇用の無限定な拡大が戒められている。

 因みに,労基法の改正は,第14条第3項として以下の文言が新たに加えられることになった。

2  厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

3  行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

 横浜市立大学の労基法第14条による任期制は,期間の定めのない雇用者たる教員を全員3~5年の有期雇用に置き換えようとするものであり,まさに下記の付帯決議の趣旨に違反する(基幹労働者の丸ごと代替有期雇用化などあり得ないと発言した労働政策審議会使用者側委員の想定をも超えたといえよう)。また,期間の定めのない労働契約を有期労働契約の変更するためには,労働者の合意が必要にもかかわらず,昇任手続きと引き替えに無理矢理に不利益変更への合意を強要することも違法であろう。理性と良識の府たる大学において,かの厚生労働大臣でさえ,契約期間上限の延長のデメリットとして認識し防止しなければならないと公式国会答弁した有期雇用への置き換えについて,横浜市立大学はこれを意図的に強引かつドラスチックに進めようとしているのである。
 このように雇用面での安定秩序を破壊し,大学教員への権利侵害・反労働者的行為を平気で行う大学において,西の横綱を立命館大学とするならば,横浜市立大学はまさに東の横綱として堂々「昇格」した。

労働基準法の一部を改正する法律案に対する付帯決議

平成15年6月4日
衆議院厚生労働委員会

一 労働契約の終了が雇用者の生活に著しい影響を与えること等を踏まえ,政府は,本法の施行に当たり,次の事項について適切な措置及び特段の配慮を行うべきである。

1 (略)
2 労働契約期間の上限の延長に当たっては,常用雇用の代替を加速化させないように配慮するとともに,有期雇用の無限定な拡大につながらないよう十分な配慮を行うこと。

3 以下、略。

労働基準法の一部を改正する法律案に対する付帯決議

平成15年6月26日
参議院厚生労働委員会

一 政府は,次の事項において適切な措置を講ずるべきである。

1 (略)
2 労働契約期間の上限の延長に当たっては,常用雇用の代替化を加速させないように配慮するとともに,有期雇用の無限定な拡大につながらないよう十分な配慮を行うこと。

3 以下、略。

衆議院厚生労働委員会 第18号 平成15年5月28日(水曜日)

……

○坂口国務大臣 おはようございます。
 有期労働契約期間の上限延長に伴うデメリットについてお話がございましたが、現在いろいろ懸念をされておりますことは、一つは、期間の定めのない労働者にかえて有期契約労働者を雇用したり、有期労働契約が事実上の若年定年として利用される可能性があるのではないかというのが一つ。それからもう一つは、一年を超えるようなより長期の有期労働契約を締結した場合には、契約期間の途中でさまざまな事情の変化が起こる可能性が高いにもかかわらず、そのような場合にも中途解約ができずに、不当に労働者が拘束されるおそれがあるのではないか。この二つのことが懸念として示されているというふうに思っております。
 過去のいろいろの裁判例等を見ましても、この辺につきましてはさまざまな角度からの最高裁あるいは高等裁判所等からの判決も出ておるところでございまして、かなりこの辺も整理をされてきているというふうに思っている次第でございます。
○水島委員 判例においてはかなり整理されてきているという御認識であるわけですが、今大臣が懸念される点として挙げられた点については、まさに私も同感でございます。本日、ぜひこの質疑の中で、その点について、大臣がその懸念をどのような形できちんと措置されているかということを明らかにしていっていただきたいと思っております。
 そもそも、大臣はこの有期雇用というものに関しては望ましい雇用形態と考えていらっしゃるでしょうか、それとも、あくまでも例外的な雇用形態というふうに考えておられるでしょうか。
○坂口国務大臣 どのような雇用形態によって労働契約を締結するかということは、これは労使双方が労働条件などのさまざまな要件を考えて選択をし、締結をするものでありますから、雇用形態がどれがいいということを一概に言うことはなかなか難しいというふうに思います。
 しかし、最近の状況を見ますと、みずからの専門的能力を生かして働きたいという労働者の意識の高まりというのも、今までに比較をいたしますと大きくなってきているというふうに思います。また、労働者の転職希望率というのも、これもまた高まっておりまして、終身雇用や年功賃金に関する意識変化というものがあることも御承知のとおりでございます。
 このような状況の中で、転職を繰り返す中でキャリアアップを図りたい、そういう方もございますし、あるいはまた、自分の専門的知識を生かして働きたい労働者にとって、有期労働契約がメリットの人もおみえになる。
 ただし、そうはいいますものの、そういう労働者ばかりではありませんから、有期労働ということによってマイナスになる可能性の方も私は率直に言ってあるというふうに思いますから、そういう皆さん方に対してマイナス面をより少なくしていくという努力が必要ではないかというふうに思っております。
○水島委員 確認をいたしますけれども、つまり、有期雇用という形で働きたいということを進んで希望する方には、当然、有期雇用という制度があるべきであるけれども、有期雇用という形を望まない人にとっては、やはりこの有期雇用が実質的に働き続ける唯一の手段となることはできるだけ防いでいかなければいけないというような御認識ということでよろしいでしょうか。
○坂口国務大臣 常用雇用というのが決してなくなるわけではございません、これからも続くものというふうに思っておりますし、経済の動向によりましては、企業の側も常用雇用というものをもっと重視する可能性もございます。したがいまして、常用雇用を希望される方はやはりその道をできるだけ選ばれる、そういう選択が十分にできるような体制というのをつくっていかなければいけないというふうに思っている次第でございます。……


投稿者 管理者 : 2006年02月15日 00:58

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