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2006年02月25日

特集「国立大学法人の役員出向 第2回」、「役員出向」制度による国立大学法人理事の使い回し

■「意見広告の会」ニュース326より

*** 特集 国立大学法人の役員出向 第2回 ***

** 目次 **
1 「役員出向」制度による国立大学法人理事の使い回し その1
「役員出向」はどのような経緯で導入されたか。
 1-1 「役員出向」の出発
 1-2 改革大綱に関する当時のマスコミ論調
2 前回分類改訂
ニュース325号の分類を多少改訂します。
3 国家公務員への復帰を予定した理事就任は国立大学法人の独立性を脅かす
      東北大学 川端望 「ニュース198」再掲
4 大学法人化の思想
     『福島民報』日曜論壇 2006年2月19日付

1 「役員出向」制度による国立大学法人理事の使い回し その1
「役員出向」はどのような経緯で導入されたか。

 「役員出向」制度は、本来「キャリア官僚の天下りへの批判」に応えるために作られたルールであった。
 [上記については、資料1~資料4をご覧いただきたいが、特に重要と思われる「特殊法人等への再就職に係るルール」設定の根拠が次のような認識に基づいていることに、注意されたい。
 「現在の特殊法人等(認可法人を含む。)への公務員の再就職に関しては、例えば退職金が高すぎるのではないか、各府省OB人事の一環として取り扱われているのではないか、処遇に業績が反映されていないのではないか等の国民の厳しい批判があるところである。」(資料1より)]

 この「役員出向」制度によって、これまで強い批判があった「退職金の二重取り」は(部分的には)解消したが、天下りそのもの、中央省庁による各種法人支配の構造は全く改善されていない。
 それどころではない。「国立大学法人」における「役員出向」は、この制度の本来の目的に外れた拡大運用である。国立大学法人発足以来の文科省人事は、文科省がこの制度を幹部公務員のポスト確保に利用していることを示している。
 本ニュースは、以下その点を「その2」「その3」として、更に明らかにしてゆきたいと考える。

 「役員出向」を定めた「公務員制度改革大綱」「役員退職手当規程の変更」のポイントを次に示す。具体的内容以外に次の3点に留意されたい。
① 「公務員制度改革大綱」では、「退職公務員の再就職」(いわゆる「天下り」)が「各府省OB人事の一環として取り扱われているのではないか」という「国民の厳しい批判」がある、という認識が示されている。
② にも関わらず、役員給与・退職金以外の改革案が示されていない。「退職公務員の再就職」は、「各府省OB人事の一環」(「官」による支配)であるからこそ批判を受けていたのであり、「給与」「退職金」だけの問題ではない。
③ 以上のような理由のためか、「資料2」では、「各府省OB人事の一環」という批判点すら抜け落ちている。

 つまり、「公務員制度の改革」は、「退職公務員の再就職」が「各府省OB人事の一環」まのではないかという批判に応えたものであるはずが、肝心のその批判点についてはキャリア官僚のために「役員出向の道を開く」ことになってしまっている。このことによって、「公務員の再就職」の「各府省OB人事の一環」としての性格が強化され、それが国立大学法人の人事へも影響を及ぼしていると考えられるのである。

1-1 「役員出向」の出発

資料1

「公務員制度改革大綱」 01年12月25日閣議決定
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gyokaku/kettei/1225koumuin.html

3 適正な再就職ルールの確立
(1)営利企業への再就職に係る承認制度及び行為規制
    略
(2)特殊法人等への再就職に係るルール
 現在の特殊法人等(認可法人を含む。)への公務員の再就職に関しては、例えば退職金が高すぎるのではないか、各府省OB人事の一環として取り扱われているのではないか、処遇に業績が反映されていないのではないか等の国民の厳しい批判があるところである。これら国民の厳しい批判を真摯に受け止め、次の対応を行うこととする。
1. 内閣の役割の強化
    略
2. 特殊法人等
ア 役員退職金について、平成13年(01年)度中に大幅削減を決定する。
イ 役員給与について、公務員及び特殊法人等の職員並びに民間企業の役員給与の水準を勘案しつつ、適切な水準となるよう、平成13年度中に削減を決定する。
ウ 上記ア及びイの対応を行った上、役員給与・退職金の支給基準を公表する。

3. 独立行政法人
ア 今回の特殊法人等改革で独立行政法人に移行することが決定した法人についても、平成13年度中に上記②の対応を行う。
イ 役員給与等の支給基準、及び評価委員会によるその評価 詳細略
ウ 高齢役員の就任規制  略
エ 役員報酬・退職手当の支給基準については、独立行政法人通則法に従い、すべて公表する。

 上記2及び3の法人への公務員出身者の就任については、役員出向の道を開く。その実際の運用に当たっては、短期在職について厳しく対応する。なお、役員出向によらない場合と均衡を失しないよう制度を構築する。

*資料2

役員出向制度創設に伴う役員報酬規定及び役員退職手当規程の変更について

平成15年6月12日  政策評価広報課

1 役員出向制度創設の背景
 現在の特殊法人等への公務員の再就職に関しては、公務員制度改革大綱において、退職金が高すぎるのではないか、処遇に業績が反映されていないのではないか等の国民の厳しい批判があると指摘され、再就職に係るルールの整備等の措置が盛り込まれている。
 この一環として、同大綱に、独立行政法人等への公務員出身者の就任について、役員出向の道を開くことが盛り込まれており、これを受けて今年6月、人事院規則改正及び退職手当法改正により、所用の改正が行われたところ。

2 役員出向制度導入にあたっての問題点
 役員出向制度導入にあたって、原稿の役員報酬規程及び役員退職手当規程には例えば、以下の点が問題となりうる。
(1)国→独立行政法人の役員への出向の場合
①国へ復帰するときに、法人から役員退職金が支払われてしまう。
②法人における勤勉手当、期末手当の額の計算に際して、国での勤続期間が法人においてカウントされない。
③法人に在籍中に死亡退職した場合の退職金が、国に復帰した後に退職する場合よりも有利になる。
(2)独立行政法人の役員→国への出向の場合
    略
3 改正のポイント
    略

1-2 改革大綱に関する当時のマスコミ論調
 資料3・4ともに、公務員改革の主眼が「天下り」問題にあったことを示している。


資料3 「毎日新聞」

[解説]公務員改革大綱 天下り規制骨抜きに 霞が関の人事慣行を維持
  2001.12.25 大阪夕刊 7頁 国際 (全851字) 

 公務員制度改革の狙いは、相次ぐ不祥事によって失墜した官僚への信頼をいかに回復するかにあり、腐敗の温床となっている天下り問題は改革の重要な柱になるはずだった。この点で大綱は、民間に再就職した場合の「行為規制」を打ち出したものの、特殊法人などへの天下りは制限しなかった。特殊法人の多くは独立行政法人などの形で事実上存続することが決まっており、霞が関の人事ピラミッドを維持する前提での「改革案」になった。

 石原伸晃行革担当相は今月13日、政府の行革推進事務局から公務員制度改革大綱の原案について説明を受け、「行為規制を詰めろ」と指示した。6月に基本設計を公表した際、「天下り緩和だ」との批判が予想以上に強かったためだ。

 霞が関が天下りを必要としているのは、一人の事務次官を生み出すために同期入省者が役所を去らなければならない早期退職勧奨にある。しかし、大綱はこの慣行の維持を前提としているため、「自らの能力を社会で生かす道」を理由に「公務員の再就職の適正化」を盛り込まざるを得なかった。

 民間への天下りに対しては、刑事罰も導入して役所への働き掛けを事後的に抑える方策を盛り込んだ。行革事務局は「刑事罰の導入は大きなプレッシャーになる」と歯止め効果に自信を見せる。だが、退職公務員の意を受けた別の人間が働き掛けるなどの抜け道は容易に考えられる。実際の運用を見なければ、効果への疑問は消えない。

 特殊法人の多くは独立行政法人などに衣替えすることになった。独立行政法人は3~5年ごとに、経営責任が問われる仕組みになっている。役員人事の決定権は理事長にあるが、「業績が悪ければ理事長自身の責任が問われる」(行革事務局関係者)ため、独立行政法人への安易な天下りは抑制されるとの見方はある。

 ただし、それは独立行政法人の評価・監視システムが十分に機能することが前提だ。評価委員会は各省庁に設置されており、評価がお手盛りになる可能性もある。公務員改革の成否は、特殊法人改革と表裏一体の関係にある。 【鈴木直】


資料4
朝日新聞
天下り批判受け、「役員出向」制度など検討 政府が具体策
2001.11.28 東京朝刊 3頁 3総 (全276字) 

 政府・自民党は27日、公務員の身分のまま特殊法人役員に出向する「役員出向」制度導入など、特殊法人への天下り批判を解消するための具体策の検討に入った。複数の特殊法人などを渡り歩いてその度に退職金を受け取る「わたり」の弊害をなくすためで、天下りした役員の給与引き下げも検討する。来月まとめる公務員制度改革大綱に盛り込む考えだ。

現在、キャリア官僚は定年を待たずに順次退職し、特殊法人や民間企業に再就職している。役員出向制度は、公務員の身分のまま特殊法人に役員として出向。法人からは退職金を受け取らず、定年時に省庁からの退職金を受け取るだけにするというものだ。

3 国家公務員への復帰を予定した理事就任は国立大学法人の独立性を脅かす

東北大学 川端望

 
 この間、「国立大学法人法案に反対する意見広告の会」のニュースにおいて、国立大学法人の理事に当該大学の元事務局長が就任していることが問題視されています。
 このことについて、私は論文「国立大学法人の管理運営制度と教員の地位」(『全大教時報』第27巻第6号、2004年2月)で次のように述べています。「従来の国立大学の制度では、副学長をおくとしても教授でなければならなかった(国立学校設置法施行規則第2条第2項)。そして従来の教授会・評議会自治の発想からすれば、この法的制約が外れても、また役員は教員を兼ねることができないとしても、やはり主として教員から登用すべきということになる。しかし、研究・教育と経営の分離を正面から受け止めるならば、役員会はいまや教員の代表ではなく、法人の経営者である。人事・労務担当理事は人事・労務に精通し、これを大学経営の立場から合理的に遂行できる者が就任すべきであり、それが教員でなければならない理由はないことになる。外部から適切な専門家を招聘するか、それができないのであれば、学内の幹部事務職員を人事・労務担当理事とすることも十分に考えられる。学内の事務職員から選任することは、実際にその適性がある人物である限りにおいて、いわゆる「天下り」とは異なるとみなすべきである。教員の側は、教員から理事を登用することに固執するのではなく、人磨E労務の専門家たる理事に経営責任を負わせ、自らは労働組合を通してこの理事と交渉すればよいのである」
 この論文では、法人制度化での労使関係の重要性を述べるために役員人事の問題を事例に用いています。つまり、評議会が最高意志決定機関でなくなり、役員会が経営責任を負う制度になってしまった以上、役員会を教員代表とみなして、教員から選任することに固執するのは適当ではない、ということが言いたかったのです。この見解はいまも変わっていません。そして、元事務局長が国立大学法人の理事になること自体は否定されるべきではないと、現在も考えています。
 しかし、「意見広告の会」事務局との情報交換を繰り返すうちに、理事への就任の仕方によっては、重大な問題が生じることがわかってきました。それは、元事務局長などが、「役員出向制度」を利用して、理事に就任している場合です。もっとわかりやすく言うと、元事務局長などが、国家公務員への復帰を予定して、理事に就任している場合です。
 国立大学法人の理事は公務員ではありません。ですから、国家公務員たる文部官僚などが理事に就任しようとすれば、国家公務員を退職しなければなりません。そして、繰り返しますが、退職した上で国立大学法人の理事に就任して、その職務に専念してくれるならば、そのこと自体は問題ないと私は思います。しかし、一時の職として理事となり、その後再び国家公務員となるならば、おおいに問題です。国立大学法人の、国から独立した法人としての立場、大学の自主性が守れなくなるおそれが出てくるからです。
 復帰を予定した退職など、常識的には考えられません。しかし、「意見広告の会」との情報交換により、「役員出向制度」がこれを可能にしていることを知りました。
 「役員出向制度」は、2001年12月25日に閣議決定された「公務員制度改革大綱」に盛り込まれたものです。そして、2003年の国家公務員退職手当法改正によって、制度化されました。「国家公務員が国等への復帰を前提として退職をし、独立行政法人等の役員に就任した場合には、退職手当を国等への復帰後の退職時にのみ支給することとするため、所要の規定を整備」(2003年6月総務省「国家公務員の退職手当制度の一部改正(概要)」)したものであり、条文では同法の第7条の3がこれに該当します。改正以前は、国家公務員が退職して独立行政法人等の役員に就任すると、まず国家公務員退職時点で退職金が支給され、さらに独立行政法人等の役員を退職した時点でまた退職金が支給されていました。これは、「天下りして退職金を二重取りしている」という批判を受けていました。そこで、この改正では、国家公務員への復帰を前提に独立行政法人等の役員に就任することができる制度をつくり、最初に国家公務員を退職した時点や、次に独立行政法人等の役員を降りた時点では退職員を支給せずに、復帰後、国家公務員を最終的に退職した時点でのみ退職金を支給することにしたのです。その際、国家公務員、独立行政法人等役員、国家公務員の前在職期間を通算して退職金の金額を計算するのです。もちろん、このためには独立行政法人等の就業規則が、これに整合する期間通算の規定を持っていることが条件です。
 なお、ここでは「出向」の意味が通常とは大きく異なっており、このことがこの制度のわかりにくさの一つの原因となっています。私もはじめは理解できませんでした。通常の用語では、「出向」とは、出向元の企業の従業員としての身分を保持しながら、他企業(出向先)の指揮監督下で就業することです。そうでなく元の企業を退職して別の企業に移るのは「退職・採用」であり、親会社から子会社への移動などの場合には「転籍」とも言われます。「役員出向制度」の場合は、役員就任時に国家公務員を退職するのですから、通常の用語では「出向」ではないのです。趣旨としては、復帰を予定しているから「出向」だということなのかもしれませんが、民間企業では復帰を予定しない「出向」もありますから、やはりおかしな言い方です。
 ともあれ、これで確かに退職金の二重取りはなくなるのでしょうが、別の問題が生じます。独立行政法人等役員を、公然と、国家公務員のローテーションに組み込むことが可能になってしまうということです。これでは、独立行政法人等の役員職にふさわしくない人物が、省庁のローテーションの都合で送り込まれるのではないか、政府からの独立性が保てないのではないか、といった「天下り」批判で言われる別の問題が、そのまま残るか、かえって悪化しかねません。まして、制度の趣旨からいっても政府からの独立性が強く求められる国立大学法人に「役員出向」するというのはとんでもないことです。文部官僚への復帰を予定した役員は、どうしても文科省の意向に反する行動を取りにくくなります。従来の事務局長がそのような立場にあったことと同じ問題が、法人化後も継続します。しかも、法人化以前は事務局長は評議会に参加してはいなかったのに対して、法人化後は、理事が経営の責任と権限を持っていますから、そうした従属的立場にあることはいっそう問題です。
 したがって、私は拙稿で述べた立場を次のように補充したいと思います。
 「国立大学法人の理事をすべて教員から選出すべきだという立場には合理性がない。人事・労務担当理事などは、実際にそれを担う経営能力がある人物が就任すべきであり、それは外部から来ても元事務局長であっても、それ自体は問題ではない。しかし、元事務局長などの官僚が、国家公務員への復帰を予定して『役員出向』してくることは、国立大学法人の政府からの独立性を損なう危険があるので、行うべきではない」。
 現在、国立大学法人の理事に元事務局長が就任している大学については、それが「役員出向」なのか、そうでないのかをはっきりさせる必要があります。そして、「役員出向」中の理事については、「役員出向」を中止して国家公務員を完全に退職し、国立大学法人の経営に専念することを要求すべきでしょう。それに応じない理事は、経営者としての資格が問われます。また、「役員出向」は今後実施しないことを各大学の方針として明確にさせるとともに、文部科学省には「役員出向」の押しつけを決して行わないことを求めるべきでしょう。

※「役員出向制度」の理解については、「意見広告の会」事務局との情報交換がたいへん役に立ちました。お礼を申し上げます。ただし、この文章に表現されている意見は私個人のものです。

※引用文献
川端望「国立大学法人の管理運営制度と教員の地位」
http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/ronbun.htm
公務員制度改革大綱
http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koumuin/taikou/index.html
国家公務員の退職手当制度の一部改正(概要)
http://www.soumu.go.jp/jinji/pdf/teate_t15a.pdf


投稿者 管理者 : 2006年02月25日 01:37

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