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2006年02月27日

サマーズの教訓、強力なリーダーとは非凡な聞き上手のことである

埼玉大学ウォッチ
 ∟●サマーズの教訓

サマーズの教訓

ローレンス・サマーズ氏のハーバード大学長退任をめぐる記事を、ハーバードの学部学生が発行する日刊紙Harvard Crimsonや、ボストンの地元紙Boston Globeのオンライン版で読んでいて、気がついたことがある。

グローブ紙によると、教授会から不信任をつきつけられた学長の例はサマーズ氏だけでなく、他にもあるそうだ。ボストン大学では1976年にシルバー学長が教授会から辞任要求を突きつけられたが、それをものともせず、シルバー氏はその後20年間も学長としてとどまった。エマーソン・カレッジのリーバーゴット学長は2004年以降2度にわたって教授会から不信任を突きつけられたが、同大学理事会リーバーゴット氏を擁護している。

サマーズ氏の場合はなぜ、辞任に至ったのか。サマーズ学長の大学運営にあたっての衝突も辞さない戦闘的なリーダーシップと、既得の権限を守ろうとするハーバードの伝統学部Faculty of Arts and Sciences(FAS)が正面衝突したすえ、教授会が勝ち、サマーズ学長が敗北したのだという見方が一般的なようだ。

サマーズ学長は就任後、FASのアフリカン・アメリカン・スタディーズのコーネル・ウェスト教授と対立した。ウェスト教授は「私は自由で自尊心を持つ黒人だ。あのような態度は我慢ならない」と言ってハーバードを去り、プリンストンへ移ったそうである。また、サマーズ学長は、Graduate School of Arts and SciencesのPhDプログラムの権限を、FASから大学本部の教務担当副学長の手に移そうとした。この計画は中止されたが、このことで大学院の研究科長は辞任した。さらには学部の赤字経営と学部カリキュラムの改定作業の遅れを理由に、FASの学部長を辞任に追い込んだ。

FASはハーバードの教授陣の半数が育った学部である。独自にfundraisingする権限を持ち、大学本部の干渉や支配を嫌う誇り高い学部の伝統がある。サマーズ氏の退任後、暫定的に学長を務める予定の元学長のデレク・ボク氏が学長だった1980年代、FASのヘンリー・ロソフスキー学部長が学長室の窓を指さして「うちの間借り人だよ」と言ったというエピソードさえある。学長室はFASの建物であるマサチューセッツ・ホールにあった。

そういうわけで、ワシントン仕込みの辣腕行政家サマーズ学長とFASは、いわゆるcollision courseにのってしまった。FASに有利に作用したのが、サマーズ学長の女性の能力に関する失言であった。FAS以外の学部ではサマーズ学長の大学運営に対して支持者が多かったそうだが、危機にあたって体をはってサマーズ擁護に立ち上がってくれる人は少なかった。最後には、大学理事会もサマーズ退任やむなしとの態度をとったようである。

さて、ハーバード大学はこれから新しい学長探しをはじめる。学長探しにあたって、同大学の認識論・教育学のハワード・ガードナー教授がHarvard Crimsonによせた “Leaders Who Listen” というエッセイがなかなか示唆に富んでいる。そのさわりの一部を紹介すると、

大学の良きリーダーは拳骨や命令や憤怒や恐怖で支配するのではなく、相手の言うことを聞き、コンセンサスをつくり、大学の繁栄に結びつくような環境をつくる。権威主義体制やヒエラルキー構造の組織ではリーダーは他者の信念や感情を無視して迅速にことを処理する。場合によってはそうした高飛車なやり方が不可欠なこともある。しかし、今日の合衆国の大学におけるリーダーシップは、そのようなものとはまったく異なる。リーダーの腕の見せどころは、教員、学生、職員を説得し鼓舞することにある。強力なリーダーとは、非凡な聞き上手のことである。(全文はこちら)……


投稿者 管理者 : 2006年02月27日 00:01

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