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2006年06月01日

思考の現場から 経営主体性失った国立大 法人化で文科省従属に

■山形新聞(2006/05/26)

 二年前の国立大学法人化直後にも本欄で書いたが、国立大学の存在を法的に規定している国立大学法人法はその根幹部分において独立行政法人通則法(以下「通則法」)の規定を準用している。要するに国立大学は独立行政法人化されたのだが、この法律用語としての「独立行政法人」ほど「独立」という言葉が空虚な響きをもって使われている実例を私はほかに知らない。とりわけ国立大学は、その主務官庁である文部科学省に、今も完全に「従属」した組織になっているとしか見えないのである。
 その典型が、本年度山形大学をはじめとする多くの国立大学で全教職員を対象に一斉に導入された人事院勧告(以下「人勧」)準拠の給与体系であろう。全国大学高専教職員組合の推計によると、今回の給与体系の変更で四十代の教職員の生涯賃金が一千万円以上も減ることから、各大学で労働組合などから猛烈な反発を招いている。この給与体系の変更が「就業規則の一方的不利益改定であり、過去の最高裁判例に照らして明白に違法」だというのが労働組合などの主張だが、ここで述べたいのはその是非についてではない。問題は、本来各国立大学において発揮されるはずの経営の「主体性」が、この閣議決定を受けた全国一斉の給与体系の改定においてはほとんど見られなかったということなのだ。
 大抵の国立大学法人では、独立行政法人などの人件費削減を求めた昨年十二月二十四日の閣議決定と通則法六三条第三項を理由に「人勧に準拠した給与体系に変更せざるを得ない」と説明しているようだ。しかしそれらは、非公務員型の独立行政法人である国立大学が人勧準拠の給与体系を採用すべき法的根拠などには到底なり得ない。確かに、公務員型である特定独立行政法人職員の給与は、国家公務員の給与などを考慮して定めることになっているが(通則法五七条)、通則法六三条第三項は、非公務員型独立行政法人職員の「給与及び退職手当の支給の基準は、当該独立行政法人の業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければならない」と規定しているだけだからだ。いわんや閣議決定に法律の規定を覆す効力などあるはずもない。
 そもそも国立大学法人の給与体系が人勧に縛られる必要がないことは、国立北陸先端科学技術大学院大学が任期を定めない年俸制の「特別招聘(しょうへい)教授」などという職を創設したことからも分かる。この職の年俸には上限がなく、学長による業績評価によっては役員の最低報酬である一千百万円を超える年俸の支給すら可能になっている。
 それにもかかわらずある国立大学では、文科省官僚だったいわゆる「天下り」の総務担当理事が、「(大学職員の給与が)国家公務員の給与水準より高くなれば、世論の批判を浴びる」などという「理由」をあげて、人勧準拠の給与体系を採用することに固執している。だが実際には、この大学の事務・技術職員の給与水準は国家公務員の平均給与より15%以上も低く、人勧準拠の給与体系の採用は、それをさらに引き下げることにしかならない。その一方で同じ理事は、教授など一部の教員を「特定幹部職員」(本来は公務員一般職の部・課長などを指す言葉)とすることでその昇給を抑制しようとしているが、もちろん人勧にそのような規定があるわけではない。
 前年度決算が黒字であったこの大学では、三月にその国立大学法人としての中期計画を「自主的に」変更してまで、人件費の総額を4%削減することをそこに盛り込んだ。そこまでは理解できるとしても、単に人件費を削減するだけならば、人勧準拠の給与体系によらずともそれは十分可能なはずである。だが、くだんの理事以外のこの大学の学長や理事は、非常勤(!)の財務担当理事を除けばつい最近までそこの教員だった者だけであり、彼らに経営者としての当事者能力など望むべくもなく、「天下り」官僚の理事に具体的な対案を提示するだけの力量はない。結局、この大学に限らず、多くの国立大学ではその主体的な経営判断もできないまま、「天下り」官僚の言いなりに文科省の意向に沿った給与体系を採用しようとしているのが実情だ。
 国立大学法人は、その経営努力によって生じた剰余金すら、文科省の承認なしには自由に使うことができない(国立大学法人法三二条)。以前に危惧(きぐ)したとおり、国立大学の法人化とは、揚言されたところの「個性ある大学を創(つく)る」どころか、文科省官僚の「天下り」の場をつくるだけの、羊頭を掲げて狗肉(くにく)を売るたぐいのものにしかなっていない。

投稿者 管理者 : 2006年06月01日 00:00

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