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2006年09月13日

立命館、人件費比率35.9%の意味

 学校法人立命館の2005年度決算報告(2005年度事業報告書)がHPに掲載されている。これをみて立命館の今日的な体質が数字上で如実に表れていると思った。決算報告の財務数値には,基本金組入の大きさ等様々な特徴が見受けられるのであろうが,一つ,単純な指標に驚かされた。それは人件費比率(帰属収入に対する人件費の比率)が2005年度に35.9%となっている事実である。前年度は43.8%であるのに対して7.9%の減少である。

 この人件費比率35.9%という数値は,言うまでもなく,べらぼうに低い。今,最新版「今日の私学財政」を手元に持っていないので,最新数値はわからないが,2002年度でみると,大学法人という区分(大学ばかりでなく,短大や高校,中学等々をもつ法人)で人件費比率39.9%以下の大学法人数は,全国469大学中,38大学に過ぎない。また34.9%以下に至ってはわずか14大学である。こうした分布は年度が変わってもそれほど大きな変動がないと推定されることから,立命の35.9%という数値は,全国ランキングでほぼ下位20位以内に入るであろうことは間違いない。経営者の感覚からすれば「超。超。健全経営」である。

 では,立命館において,何故人件費比率が35.9%になったのか。それは「消費収支計算書」を見る限り,2つの要因が考えられる。それは,一つに帰属収入が対前年度比で約65億円増となったこと。もう一つは,人件費が対前年度から約26億円減になったことがあげられる。

 まず前者の帰属収入約65億円増について言うと,その内訳をみるに,学生納付金が前年比で20億円増加している要因もあるが,なんと言っても寄付金の40億円増の影響が大である。この理由について,上記「事業報告書 2005年度決算の特徴」は「2005年度の帰属収入は当初予算を大幅に上回り,687億3200万円となった」と前置きしつつも,その増加の大半の要因となった「寄付金」問題については一切語ろうとはしない。金額の指摘も何もない。消費収入の具体的説明箇所で述べていることはどうでもよい問題ばかりである。

 立命館の「寄付金」は過去の年度推移を見ても,ほぼ10億円台である。2005年度だけが突出して50億円を超えている。その理由は,単純明快,平安女学院大学の守山キャンパスを守山市から「無償譲渡」させた部分があり,それを現物寄付として算入したからである。この点は「消費収支計算書」の「寄付金」額と「資金収支計算書」の「寄付金」額との差から明らかである。すなわち,2005年度の前者は54億5800万円,後者は11億3500万円,この差43億円2300万円は当該年度の現物寄付の総額である。

 教職員組合の財政分析に関するニュースによれば,当該キャンパスの「現物寄付」は金額にして40.9億円とされる(ようである)。しかし,実際に同キャンパスの土地と建物の価値が40.9億円であるかどうかは,よくわからない。因みに,昨年守山市が同キャンパスの土地・建物を鑑定に出したところ,「本市が平安女学院に対し支出した補助金(25億6千5百万円余)と今回の県への納付金(6億1千7百万円余)を合算した額に匹敵する価値がある」と,守山市自ら「広報もりやま」で述べていた。この鑑定結果の金額は約32億円である。その差は,約9億円と大きな違いをみせている。上記「現物寄付」の数値と鑑定結果の数値が何故違うのかその理由はわからない。もし,この40.9億円の数値が本当であれば,(1)守山市が無償譲渡する際,市民に金額を低く見せようとして虚偽の広報をしたのか,(2)あるいは立命がサバをよんで膨らませているのか,そのどちらかであろう。いずれにしても,人件費比率35.9%という「異常」な財務構造の一端はここに原因があることは確かである。

 他方,35.9%を生み出したもう一つの要因,すなわち人件費の絶対額の問題がある。上記「事業報告書」では,教職員数について,2005年度は「現員ベース」で「前年度と比較して159名の増」とある。しかし,人件費支出の絶対額は対前年度と比較して,2005年度は25億8000万円の減。159人もの現員教職員を増加させておいて,どうやったら絶対額が対前年度26億円ものマイナスに押さえられるのであろうか。この問題は,消費収支計算書の大項目だけでは決してわからない。その構造を是非知りたいものである(人件費の推移を見ると2004年度においてやや特殊事情があったことは推測されるが…)。

 ただ,一つだけはっきりしていることがある。立命館は,同報告書からもわかるが,人件費比率は1996年以降,ほぼ40%で推移していることである(2005年度は,現物寄付の収入増によって,それが一時的に35%台まで低下した)。しかし,この人件費比率40%といえども,非常に低いものである。上記「今日の私学財政」からこの比率は,全国大学のランキングで下位10%以内に入るものである。帰属収入に対する学生納付金の比率が約74~75%内外で推移しているところから,他の収入項目が帰属収入額を相対的に引き上げ,その結果として人件費比率を押し下げているというわけではない。したがって,人件費比率40%の常態は,他私大学に比較して,人件費の絶対額のかなりの低さに起因することは間違いない。

 ただし,この人件費の絶対額の低さは,1人の正規教職員給与の絶対額が相当に低いことをそのまま意味するものではない。これは私大教連の春闘賃金調査を見てもわかるが,立命館大学は全国ランキング下位10%以内に入るような低賃金大学では決してない。要するに,非正規教員と非正規職員の大規模な存在それ自体によって必然化された要因であることは明らかである。ゼネラルユニオン立命館支部のHPによれば,立命に雇われている全労働者の約半数は非正規労働者という。正確な実数はわからないがおそらくその程度のものなのであろう。

 非正規雇用者の待遇条件・労働条件については,その種類とともに,上記ゼネラルユニオン立命館支部のHPに詳しく展開されている。こうした有期雇用の大規模採用が,立命館をして人件費比率40%を維持させていることは確実である。そして,いま雇い止め裁判に至っているように,立命館はこうした専任と同じ(あるいはそれ以上の)働きを有する大量の有期契約教員および職員をある一定の期間ののち,確実に雇い止めという形態をもって事実上「解雇」するのである。人件費が低くならないハズはない。

 こうしてみると,最初の問いに戻って,立命館の人件費比率35.9%という「異常」な財務構造の出現は,つまるところ平安女学院大キャンパスという極めて「不正常」な形で取得した問題(この問題は立命のいまの体質をよく表しており,このサイトでも昨年来かなり触れたので説明は割愛する)と,差別雇用を基盤にしていることは誰がみても明らかではないだろうか。人件費比率という単純な数値が,立命館の今日的な体質を如実に示されていると考えた所以がここにある。

 ところで,上記「寄付金」の問題に関わるが,立命館は守山市から平安女学院のキャンパスを「無償譲渡」させる一連の経緯にあたって,平安女学院大学に対し7億円の寄付と3億円の貸付をする旨,「密室」の取引を交わした。すでに,平安女学院は京都キャンパスに新しい「国際観光学部」の建物を建設したが,その費用はこの寄付をもって賄われたと考えられる。なぜなら,平安女学院の貸借対照表では,就学権訴訟の際に調べた限りで2号基本金は2003年度末において0円であり,消費収支差額も大きくマイナスであるからである。また,山岡理事長自身も2005年11月22日付京都新聞に「寄付は本学の新学部設立など教育改革のためで、立命館の好意は大変ありがたい。これを問題にすることは私学振興に対する妨害行為だ」と述べていた。したがって,新しい建物は全て借入金で賄われたという推測はほとんど成り立たない。

 この立命館から平安女学院へ「寄付」されたであろう7億円分の支出は,立命館の学校会計処理では,消費収支計算書の「管理経費支出」項目に計上しなければならない。では,2005年度立命館の財務報告ではどうなっているか。2004年度の「管理経費支出」は30億3000万円,2005年度は42億0900万円。約12億円の増加である。この12億円の増加部分の中に,平女への「寄付」7億円が算入されている可能性が高い。この点で,報告書はどのように説明しているかと言えば,「管理経費では,立命館小学校,立命館守山高等学校の開校に伴う生徒募集および入学試験執行経費,経済学部国際経済学科および経営学部国際経営学科の志願者確保経費などにより予算を上回る執行となった」と。つまり,学生募集ために約12億円もの支出が余計にかかったと説明している。この説明を額面通り受け取ってよいだろうか。もし,額面通りであるとすれば,すなわち,未だ平安への「寄付」は執行されていないと仮定すれば,この7億円の支出増は2006年度の「管理経費支出」項目に必ずや算入されるハズである。はてした来年の決算はどうであろうか。(立命から平安への3億円の貸付問題に関する会計処理の問題はここでは割愛する)

 いずれにしても,消費収支計算書における「収入の部」における「寄付金」問題,一方で「支出の部」における「寄付金」問題については,学校法人立命館は具体的数値を使って何ら一言も説明するところがない。特に,守山キャンパスの譲渡による「寄付金」については,消費収入を大幅増に導いたにも拘わらず,本来であれば,何もやましいところがなければ(公明正大であると考えているならば),守山市民に深い感謝の念を表明してしかるべき問題である。しかし,上記「事業報告書」では,「事業の概要」において無償譲渡を受けたと一語のみ指摘されるだけであって,具体的な現物寄付額を明記することさえしていない。「Ⅳ 補助金・寄付金等の受け入れ状況」にある「4 寄付金受け入れ状況の推移」の内訳表においても,現物寄付を除外した数値のみを掲載している。

 他方,後者の問題(「支出の部」における「寄付金」問題)については,立命館の学生父母のなけなしの大切な学費が,ものの見事に平安女学院の校舎建設のためにくれてしまうことを意味する。この問題をよく立命館の学生(学友会)も教職員(教職員組合)も黙って見ている思う。私はこの感覚,大げさに言えば,立命館の理性というものを大いに疑う。もし,7億円の「寄付」は40億円というキャンパス「寄付」の回り回った見返りとして何ら問題ない行為であり,守山市民がなけなしの税金を立命に現物寄付したのは立命館守山高校を設立して守山女子高校を「救済」したこと,その見返りとして守山市民が気前よく寄付したと認識しているとすれば,もうこれ以上付言する言葉を探すことはできない。

 最後に,大学が他の大学へ寄付することの是非について,因みに学校会計事務マニュアルでは,以下のように説明している。

Q 海外の提携校から,外国人学生のための寄宿舎建設を募金趣旨とした寄付依頼があった。この寄付に応じたいが,認められるか?」

A 一般に学校法人が外部に寄付を行うことは慎重さが求められる。…… 寄付を行うにあたっては,その目的,金額,寄付と当該学校法人の関連性,学校法人の財務状況を考慮し,適切であるかどうか十分検討された上で実行されたい。
 ただし,一方で経常費補助を受けている学校法人が,他方で多額の寄付を行うことは,容易に国民の納得を得られないであろう。それゆえ,500万円以上の寄付をおこなった学校法人は,私立大学等経常費補助金取扱要領12により,あらかじめ日本私立学校振興・共済事業団に寄付金支出届出書を提出することとなっている。なお,会計処理は「(大項目)管理経費(支出)」,「(小科目)寄付金(支出)」で処理されたい。(昭61年改)」

 立命館の平安女学院への7億円寄付は,「容易に国民の納得を得られる」のだろうか。決算報告書で何ら説明するところがないから,誰にも知らされないまま,また認識されないまま事は通り過ぎるのであろうか。

投稿者 管理者 : 2006年09月13日 00:00

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