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2006年12月28日

労働契約法に関する35人の労働法学者の声明

レイバーネット
 ∟●労働契約法に関する労働法学者の声明

<声明文>

禍根を残す就業規則変更法案の成文化
~契約原理に反する労働条件変更法理の固定化は避けるべきである

 現在、厚生労働省労働政策審議会労働条件部会において労働時間法制および労働契約法の制定についての論議がなされ、まもなくとりまとめがなされると聞いている。今回の審議では、ホワイトカラー・エグゼンプションや解雇の金銭解決等が社会の関心を呼んでいるが、労働契約法を整備するうえでもっとも重要な論点といえる労働契約の変更問題については、就業規則によって労働条件の変更を認める法理が、大きな争点となることもなく条文化されようとしている。

 使用者が一方的に作成する就業規則による労働条件変更の条文化は、使用者による一方的な契約内容の形成を認める法理を法的に肯定しようとするものである。確かに、合理性の要件を前提として就業規則による労働条件変更に法的拘束力を認めるというのが最高裁の判例法理ではある。しかし、この判例法理は、労働契約関係における契約内容調整のツールがなかったために採られた方式であり、その理解の仕方についてもいまだに一致した見解を見出せない状況にある。それゆえ、労働契約法の制定作業において何よりも必要なことは、現時点においてそのような判例法理を立法によって固定化することではなく、理論的・実務的妥当性に耐えられる契約内容の変更法理とその手法について検討を深めることでなければならない。

 たとえ合理性の要件に制約されるといっても、使用者による一方的な労働条件の決定、すなわち、契約の一方当事者による契約内容の変更を認める法理は、契約法としてはきわめて特異であり、契約原理に悖るものといわざるを得ない。就業規則と異なる特約がない限り、変更就業規則の労働者への法的拘束力を法律で定めてしまうのは、契約法理にそぐわないのみならず、報告書に提示されている変更の合理性判断基準も、労働条件の性格の相違にいっさい配慮することがなく、これまでの判例法理による慎重な利益衡量に比較して効率的処理を優先させるだけのものになっている。

 今日までの報告書の内容および労働政策審議会における論議を見る限り、個別契約当事者間における契約変更方法の検討のための努力や提言は期待できないだけでなく、就業規則を用いた使用者の一方的変更方法だけが(しかも判例法理とも異なるかたちで)成文化されようとしている。これでは今後の労働法のひとつとなるべき労働契約法の発展を歪め、契約原理に死を宣告する契約法になりかねないとの危惧を抱かざるを得ない。将来に禍根を残さぬよう熟慮、再考を促したい。

2006年12月21日


投稿者 管理者 : 2006年12月28日 00:00

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