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2005年07月05日

私立大学における学生募集活動の現状と課題

日本私立学校振興・共済事業団
 ∟●「私学月報」第91号平成17年7月1日

私立大学における学生募集活動の現状と課題
―志願者に親切な学生募集へ―

 私学事業団の平成十六年度の入学志願動向調査によると、私立大学の約三割、私立短期大学の約四割が定員割れの状況にある。更に、個別の大学を見ると、ほんの数年で志願者数が二分の一、さらに五分の一に減少してしまう私立大学が見られるほど厳しい時代となっていることがわかる。
 「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」(平成十五年七月私学事業団調査)によると、私立大学一校あたり約一億円の広報・広告費が支出されているが、募集活動で効果があったという大学は、平成九年度には六三.六%であったものが、平成十四年度には五一.八%に減少している(図2)。実際、新設大学等では、「広報費はほとんど使っていない。口コミが大切である」との指摘があり、既存の大学でも「広告は効果がわからないが、やめるにも勇気がいる」という意見もある。全般的に、学生募集活動の中心は、不特定多数を相手にした広報・広告から、オープンキャンパスや高校訪問を中心とした志願者への個別対応の時代へと変わりつつあるようである。

  オープンキャンパスについて

 私学事業団のアンケートによると、オープンキャンパスを実施している私立大学は、平成十四年度九五.七%と最も高く(図1)、募集活動に特に効果があったと考えている大学が、平成九年度に四〇%であったものが、平成十四年度には七〇%と大幅に伸びている(図2)。
 以前のオープンキャンパスは、せいぜい受験生を一堂に集めて説明する方式が多く、パンフレットを置いておくだけの私立大学もあったが、現在では各大学において様々な工夫がなされている。
 この二、三年、オープンキャンパス時の学校見学に学生をアルバイトとして利用している大学が増えている。これは、受験生、大学、学生の三者にとって非常に有意義なことである。まず、受験生は、大学を誰よりも良く知っている若い学生とともに過ごすことができるので、大学の実態をつぶさに知ることができる。次に、大学にとっても、誘導スタッフが充分にいることは良いことであり、訪問者一人ひとりに対して大学の特色の説明、アンケート記入やトイレの案内など職員スタッフだけでは手が回らないきめ細かい対応をすることができる。手当を支給することにより、学納金をアルバイト料という形で学生に還元することもできる。更に、学生にとっても募集イベント等を通じて、受験生をどうもてなし、顧客満足度をどうやって上げるかを学習する過程で、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力、企画力、交渉力など学生個々の様々な意欲や能力をアップすることができる。
 学生スタッフとして一五〇人ほど依頼しているA大学の入試担当者は次のように語っている。
 学生スタッフの利用を始めたきっかけは、学生の有志からオープンキャンパスに参加したいという申し出があり、受験生により良く大学を知ってもらうために、四年ほど前から実施に踏み切った。毎年五月頃に、前年度に経験した学生達と職員が検討チームを立ち上げ、どのくらい人数が必要かを決めたのち、準備段階から参加するスタッフと当日のスタッフの二通りを募集している。学生たちには強い母校愛があり、オープンキャンパスをどうするか、どうすれば志願者に気持ちよく過ごしてもらえるか等、真剣に話し合っている。一週間前には研修会を開いて、入試の変更点を周知するとともに、受験生に対する対応についての注意事項を再確認している。当日は、統一されたユニフォームを着た学生が、一般入試や推薦入試等の受験方式に合わせた受験生に貼り付き、それぞれの体験談を話すことにしている。本校の特徴は、学生たちがアルバイトでなく、ボランティアでやっている点であり、それが学生の高い意欲につながっている。
 このほか、オープンキャンパスの際に個人面談を特に重視している大学も見られる。B大学の事務局長は、「足を運んでくれる人を大事にしたい。オープンキャンパスは、年に五、六回開催しているが、特に、訪問者は逃してはならないとの意識で対応している」と述べ、キャンパス見学の後、受験生全員を事務局長室に呼び、約二〇分間、他大学との比較(特にカリキュラム等の相違)について事務局長自ら説明しているそうである。
 その他の例として、オープンキャンパスの訪問者、進学説明会の参加者、資料請求者に対して一言メッセージを添えて暑中見舞いを送付する大学もある。高校生の反応も良く、礼状をくれた学生もいたという。また、遠隔地からオープンキャンパスに参加する人に対しては、交通費や宿泊にかかる経費を学園の負担としているところもある。更に、じっくり大学見学をすることを希望する受験生のためには、寮に宿泊し、先輩とともに授業に参加する一泊二日体験入学を実施している大学もある。このように、総じて受験生に対して親切で優しい対応をしている大学が増えている。
 アンケート調査によると、各大学がオープンキャンパスをきわめて重視している理由は、見学者の六.七割が受験しているためである。

  高校訪問について

 アンケート調査によると、大学の教職員等の高校への訪問は、平成十四年度九三.一%である(図1)。一校あたりの延べ訪問学校数についても、五〇〇校以上の高校を訪問している大学が、平成九年度の一〇二校から、平成十四年度には二〇二校と約二倍になっている。入試担当の職員だけでなく、ほぼすべての教員と職員がセットで高校の進学指導の先生に面会している大学もある。更に、同窓生と契約を結び、教職員のカバーしきれない高校訪問を実施している大学もある。効果としては、未開拓の高校から指定校にして欲しいという依頼があったそうである。
 A大学の入試担当職員は、「最近、高校からの依頼による訪問が増えており、二年生の受験意識を高めるために総合科目の授業時間を利用して、高校に来て説明して欲しいという依頼が、毎月相当数ある。依頼のあった高校から一人でも受験してくれればペイできるので、どんなに遠くても出かけることにしている。学生募集は、〝待ち.から〝攻め.の時代に入った。」と述べている。オープンキャンパスに参加した学生たちが、母校で進学説明会を開催するように出身高校にアドバイスをして実現するケースも増えているそうである。

  まとめ

 最後に、今後の学生募集に大切だと思われる点を簡単にまとめてみた。
 第一に、学生に対して優しい大学にならなければならない。先に紹介したB大学の事務局長は、当大学を受験して落ちた学生に対して、入試担当者と協力してその原因を細かく分析し、来年頑張るよう激励した自筆の手紙を書いているそうである。今後の学生募集には、このような強い熱意と様々な知恵が必要とされているのではないだろうか。
 第二に、現在、入試担当の委員会が教員だけで組織されている大学があるが、今後は、理事、教職員、学生だけでなく、同窓会や学生の父母等も含めた全学的な学生募集体制を作る必要があるのではないだろうか。
 第三に、オープンキャンパスでも、高校訪問でも、自校の明確な「売り」がなければ志願者に強いインパクトを与えることができない。今後は、社会のニーズに適応した改組・転換、カリキュラム改革や授業方法の改善などを恒常的に実施し、「元気のある大学」というイメージを与えることが大切なのであろう。


投稿者 管理者 : 2005年07月05日 00:20

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