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2005年08月08日

おかしな「交換関係」

 下記の囲みは,7月20日,「滋賀の公立高、立命館に移管」の見出しで掲載された日経記事の一部である。いつもの通り,平安女学院大学守山キャンパスをめぐった,守山市と立命館の関係を説明している。

 この説明によれば,「補助金返還を求め訴訟になりかねない情勢だったとき」,守山市が立命館に相談した主目的は「ポスト女子大対策」(守山キャンパスの跡地対策のことを指すのであろう)であって,その「打開策」は,市立守山女子高校の移管と(守山キャンパスの跡地対策)をセットにして,「相手側」すなわち立命館側から提案されたと説明されている。
 そして,交渉の結果,守山市は立命館に市立守山女子高校およびその建物・土地を無償譲渡する。そして,守山市は平安女学院大学から返還される守山キャンパスを,1年後,立命に無償譲渡した「女子校跡地」と「再度交換する」。

 まず,この最後にある「再度交換」は一体どういう性格の「交換」なのか。これは,経済学の原理からいえば,「等価交換」ではない。もともと両者は市の所有物であるから「等価交換ではない」と言っているのではない。立命館に譲渡され立命館の所有物となる現行守山女子高校の建物・土地の価値と,「再度交換」する守山キャンパスの価値が違うと言っているのである。もとより前者より後者の方がはるかに価値は高い。これは公的機関として一つの資産を別の物と交換する手続きから言えば極めて不当な交換である。通常であれば,市民から損害賠償請求の訴訟が起きても不思議ではない。しかし,このおかしな交換関係がなぜ発生したか。それは他でもない。守山女子高校の移管と守山キャンパスの返還というもともと次元も趣旨も違う本来「セット」にできないものを「セット」にして処理しようとしたところに原因がある。

 おかしな交換関係はまだある。守山キャンパスの建設費は50億とも60億とも言われている。他方,守山市が出した補助金は県の補助金肩代わり分も含めて総額約34億円である。この34億円分の補助金を返還するのに,なぜ50億or60億円もの価値資産を返還するのかという問題である。これは不等価返還である。ではなぜ不等価返還を行うのか。その理由を説明するのはある意味非常に難しい(土地や建物の部分返還は不可能ということかもしれない。しかし,本来は金銭で補助を受けたのだから金銭で返還すべきである。しかし,そうはしなかった)。ただし,はっきりしていることがある。すなわち,50億とも60億とも言われる資産価値をもつキャンパスは,立命館にそのまま無償で渡るということである。守山市による所有はただ一つの通過点にすぎない。もし同キャンパスが補助金34億円を超える価値を持っているとすれば,その超過分の原資は大半が平安女学院大学の学生父母の授業料である。したがって,この不等価返還において,その授業料も一部立命館に移転する可能性は否定できない。

 下記の新聞記事では,「立命館が平安女学院(学校法人)を支援する見返りの形で市は大学の土地、建物の返還を受け……」と書いてある。つまり,守山キャンパスの返還は,立命館が平安に対して支援する「見返り」という説明である。この意味するところについて,読者は理解できるだろうか。立命館の平安への支援がなければ,守山キャンパスの返還はないと記事は言っているのに等しい。では,立命館は平安女学院に対して,なぜ支援する必要があるか。この問いは,上記の守山キャンパスに関わる不等価返還にあると思っている。この推論は間違いであろうか。もし間違いであるならば,なぜ立命館は平安を支援する必要があるだろうか。逆に言えば,なぜ平安は立命館からの支援がなければ,キャンパスの返還はあり得ないのであろうか。そして,もう一つわからない点として,立命館から平安への「支援」の具体的中身は何なのか。

 いずれにしても,非常に不明朗である。だれも説明責任を果たしていない。私立学校法人は国家から補助を受け,無税で事業活動を展開する,いわば「公共的性格」をもった組織である。そうした大学の位置づけからして,今回のような自治体をも巻き込んだ不明朗な交換関係を展開することが許されていいのか。

……立命館に相談を持ち掛けた一年前の市は三十三億円(うち県費八億円)を投じ誘致した平安女学院大の撤退問題に追われ、女子校対策が進んでいたわけではない。
 誘致四年の同女子大から学生確保難などを理由に県外への集約移転を通告され、補助金返還を求め訴訟になりかねない情勢だった。立命館への相談はポスト女子大対策が主目的で打開策は移管とセットで相手側から提案されたという。
 交渉の結果、立命館は市から無償譲渡された女子校の建物、土地で男女共学の普通科高校を立ち上げ、一年後に中・高の一貫校として女子大跡に移転。立命館が平安女学院(学校法人)を支援する見返りの形で市は大学の土地、建物の返還を受け、女子校跡地(更地)と再度交換する話を成立させた。一挙に問題解決したわけだが、立命館が滋賀県で来春全県一学区となる県立高校の入試に照準をあて中・高の立地を模索中でなかったら、「突破口は開けなかった」(県幹部)。……

投稿者 管理者 : 2005年08月08日 00:46

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