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2005年11月07日

鹿児島国際大不当解雇事件、学園側「控訴理由書」を提出

 採用人事審査を発端として5人もの教授を懲戒処分し,うち3人を不当に解雇した事件で,先の本訴裁判で完全敗訴した鹿児島国際大学理事会(菱山泉理事長)は,9月5日,福岡高等裁判所宮崎支部に控訴していたが,10月28日,以下のような「控訴理由書」を提出した。
 この裁判において,理事会側はこれまで本訴を含めて三度,鹿児島地裁から不当な解雇であったと断定された。にもかかわらず,新たな主張も,新たな証拠もないまま,今回もまた同じように,裁判所に書面を提出した。以下,控訴理由のうち,採用予定者の研究業績と科目適合性の関係の部分のみを指摘し,その点に関わり鹿児島地裁判決(2005年8月30日)が判断した部分を掲載する。

 この問題について,理事会当局は被控訴人馬頭忠治教授に対して教員選考委員会報告書に「虚偽記載した」と述べている。この「虚偽記載」論は,不当解雇の初めから「処分通知書」にも書かれ,当該大学の全教職員にも大学文書等を通じて流布された。こうした行為は,同教授に対する著しい名誉毀損であり,極めて悪質な人権侵害である。かかる「虚偽記載」という断定は,もとをただせば,同学校法人理事である伊東光晴氏の言によるものであった。

 名の知れた経済学者で,一見世間的にはリベラルな「岩波文化人」とも目される伊東光晴氏は,2001年4月に,同学校法人の理事に就任した(現在も理事)。それは本件事件が同大学内において「大学問題調査委員会」の設置を通じて進められつつあった時期である。伊東氏は理事会が設置した3教授に対する「懲罰委員会」に委員として入り,当時の学長菱山泉とともに一貫して本件不当解雇事件を主導した人物であった。馬頭教授に対し「虚偽記載」論(「公文書偽造」という表現も使った)を最初に展開したのも,伊東光晴氏である。以下,その証拠となる裁判資料「馬頭忠治教授弁明聴聞録」(全文)をリンク掲載する。

 なお,鹿児島国際大学(津曲学園理事会)は,この人事の審査に絡む不当解雇事件を契機として,人事制度を抜本的に改変し,学長を委員長とする人事委員会を新たに設置するなどして,実質上教授会から人事権を剥奪した(業績審査委員は教授会が決定した委員ではなく学長直轄の人事委員会が決定。教授会への提案も人事委員会)。本件不当解雇事件の本質もかかる問題と無関係ではない。

鹿国大懲罰委員会「馬頭忠治教授弁明聴聞録」乙25-3号証 (全文)

平成17年(ネ)第165号 解雇無効・地位確認等控訴事件
控 訴 人 学校法人津曲学園
被控訴人 田尻 利 外2名
控訴理由書

2005年(平成17年)10月28日

福岡高等裁判所 宮崎支部
民事イ係 御中
控訴人代理人
弁護士 金 井 塚  修
弁護士 金 井 塚  康 弘
弁護士 畠  田  健  治

第1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1 事案の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2 原判決の要旨等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第2 控訴理由の骨子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1 争点(1)に対する判旨とその問題点・・・・・・・・・・・ 4
2 争点(2)に対する判旨とその問題点・・・・・・・・・・・ 5
3 争点(3)に対する判旨とその問題点・・・・・・・・・・・ 6
4 争点(6)に対する判旨とその問題点・・・・・・・・・・・ 7
5 小 括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

(別紙)馬頭作成の業績評価書(乙20の1)における虚偽記載一覧表

第1 はじめに
1 事案の概要
…(略)…
2 原判決の要旨等
…(略)…
 これらの争点(1)ないし(3)について、いずれも懲戒事由がないと判断した上、争点(6)も解雇権の濫用にあたるとし、争点(4)、(5)を判断するまでもないとして被控訴人の請求を認容したのである。
 しかし、いずれも種々の事実誤認があり、控訴人の学内諸規定や慣例の解釈や評価の誤り、証拠評価あるいは判断の遺漏ないし誤りがあって、到底破棄を免れないものである。

第2 控訴理由の骨子
1 争点(1)に対する判旨とその問題点
…(略)…
2 争点(2)に対する判旨とその問題点
 また、争点(2)について、原判決は、科目適合性や被控訴人馬頭の報告書虚偽記載の有無を具体的に何らの判断をしないまま、「本件採用人事における公募科目が経営学科経営コースの専門科目としての人事管理論、労使関係論であることを考慮しても、本件選考委員会が○○候補の業績が公募科目と合致すると判断したことをもって、その委員が職務上の権限を逸脱し、または権利を濫用して専断的行為を行った(本件就業規則38条2号)とすることはできないというべきであるから、原告馬頭が本件業績評価書に○○候補が本件大学の『労使関係論』の適任である旨記載し、それに沿う内容の各評価をしたことをもって」懲戒事由としての権限濫用行為、専断的行為にあたらず、職務上の地位を利用して自己の利益を図ったともいえないとの誤った判断をした。

 被控訴人馬頭が、繰り返し大声で主査を威嚇等した行為も「議論の域、社会的に許容される範囲を超えたと」認められないとし、主査の業績評価を無視したり否定したり、主査の辞任を迫ったりした副査の行為も、控訴人の学内規程に反し慣例にも反する行為であるにもかかわらず、懲戒事由に該当しないと誤った判断をした。
 原判決が判断を誤った原因としては、①争点(1)に指摘した誤りをそのまま争点(2)でも援用できるが、選考委員会に学内諸規程、慣例等に基づかない広範な「裁量」を与え、主査による業績評価を否定する権限や教授会に諮らず 委員会で何でもなし得るかのような権限を与え、②それを前提に控訴人が大学およびアカデミズムの生命として最も重視していた科目適合性の判断を回避した上で、被控訴人馬頭の明らかな虚偽記載を控訴人が逐一具体的に主張したにもかかわらず(本書末尾添付の被控訴人馬頭の業績評価書[乙20の1]の虚偽記載についての一覧表参照。原判決は1審審理中からこの控訴人からの主張を受領していながら主張整理にも取り込まない誤りを犯している)、検討も認定もしていないこと、③学内規程や慣例上、主査と副査は厳然と相違があり、現実の主査と被控訴人馬頭との人事管理論、労使関係論に関連する経営学の業績にも格段の差があるにもかかわらず、それらを評価認定しないで、被控訴人馬頭の権限濫用行為等の不正行為を正しく認定していないことを主なものとして指摘できる。

以下は,上記争点(2)に関わった鹿児島地裁判決(2005年8月30日)の判断箇所

2 原告馬頭に対する本件懲戒解雇の有効性(争点(2))について
(1) 本件業績評価書の記載
 原告馬頭による本件業績評価書の記載につき,被告は,○○候補の業績が本件採用人事における公募科目(人事管理論及び労使関係論)に適合しないとして,当該記載が虚偽である旨主張する。
しかしながら,前記1(4)イのとおり,一般論としては,○○候補の業績が経済学のものであることを理由に直ちに人事管理論,労使関係論の業績でないと結論づけることには疑問が存する上,本件採用人事における公募科目が経営学科経営コースの専門科目としての人事管理論,労使関係論であることを考慮しても,本件選考委員会が○○候補の業績が公募科目に合致すると判断したことをもって,その委員が職務上の権限を逸脱し,または権利を濫用して専断的行為を行った(本件就業規則38条2号)とすることはできないというべきであるから,原告馬頭が本件業績評価書(乙20(2))に,○○候補が本件大学の「労使関係論」の担当教授に適任である旨記載し,それに沿う内容の各評価を記載したことをもって,権限逸脱又は権利濫用(本件就業規則38条2号)とすることはできず,また,職務上の地位を利用して自己の利益を図った(同条1号)と認めることもできない。

イ 科目適合性
(ア)かかる原告田尻の行為に関連し,被告は,○○候補の業績につき,人事管理論及び労使関係論双方について科目不適合であると主張しているところ,証拠(乙7(1)),123)によれば,本件採用人事における公募科目である人事管理論及び労使関係論は,いずれも本件大学経済学部経営学科経営学コースの専門科目に位置づけられている(本件旧学則6条,同別表第4参照。経済学科ではいずれも関連科目に位置づけられている。)と認められるから,これらの科目を経営学的見地,管理論(マネジメント)的見地,企業レベルの見地から研究している者でなければ科目適合性は認められないのであって,経済学の分野である労働経済論,社会政策論に属する○○候補の業績(この点については争いがない。)はこれに適合しないとの被告主張も,理解し得ないではない。
(イ) しかし,人事管理論,労使関係論の概念・定義が固定されたものでないことは否定できないのであって(例えば,大学問題調査委員会の委員であった赤岡功教授は,労務管理論の中に人事管理論と労使関係論が包摂されるとし(乙30(2),32),韓羲泳教授は,経営管理論の一部に人事管理論が含まれ,さらにその人事管理論の一部に労使関係〔管理〕論が含まれるとし(乙83),本件採用人事における前任者である片山一義助教授は,人事管理論と労務管理論は同じ内容のものであり,労使関係論は労務管理論の―領域としての労使関係管理論に限定されるものではないとし(甲46),下山房雄教授は,人事管理論と労使関係論は学問的には全く別系譜のものであるとする(甲45)。),人事管理論や労使関係論を研究するには,経済学的な分析と把握が不可欠であるとの見解(甲44),人事管理・労務管理・労使関係についての研究は,経済学を含む様々な分野で行われており,経営学的研究がその唯一の研究ではないとの見解(甲47),労使関係論の研究について,労働経済学,社会政策学を含む広範な学際的研究であることが望ましいとの見解(甲61(4)。なお,当該見解は,上記赤岡教授が依拠されている森五郎教授のものである。)なども存するため,本件採用人事において,経済学,社会学,心理学等,幅広い分野の研究者からの応募が存したこと(甲23)をも併せ考慮すると,一般論としては,経済学の業績であることを理由に直ちに人事管理論,労使関係論の業績でないと結論づけることには疑問が存する。
これに加え,本件採用人事における前任者である片山一義助教授や平成14年度に本件大学において人事管理論,労使関係論を担当した佐護譽教授も,本件大学の科目である労使関係論について,経営学的見地に限った理解をしていないと認められること(甲25,76,乙137),前認定のとおり,○○候補の面接前の時点では,本件選考委員会において原口教授を含めた各委員が,○○候補の業績が労使関係論に適合することを肯定していたこと,たとえ業績が公募科目に完全には合致していなくとも,選考委員会としては,相応に合致していると認められる候補者の中から最も適任と判断される者を選択して推薦し,採否についてはその後の教授会審議及び理事長の判断に委ねるとの方法を採ることも,その裁量の範囲内の行為として許されると解されることからすれば,○○候補の業績が本件大学における経営学科経営コースの専門科目としての人事管理論,労使関係論に合致するか否かは一応おくとしても,少なくとも,本件選考委員会が○○候補の業績が公募科目に合致すると判断したことをもって,その委員(委員長である原告田尻を含む。)が職務上の権限を逸脱し,または権利を濫用して専断的行為を行った(本件就業規則38条2号)とすることはできないというべきである。

投稿者 管理者 : 2005年11月07日 00:00

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