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2005年11月17日

「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」に対する全労働の考え方

全労働
 ∟●「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」に対する全労働の考え方

「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書」に対する全労働の考え方

全労働省労働組合

 厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長/菅野和夫明治大学法科大学院教授)は、この間の労働契約をめぐる状況の変化を受けて、「労働契約に関する包括的なルールの整備・整理を行い、その明確化を図ることを目的に今後の労働法制の在り方」についての検討を進め、2005年9月15日、標記の報告書(以下、「報告」)をとりまとめた。
 今後、労働政策審議会労働条件分科会で、あらためて労働契約法制の在り方をめぐる議論が予定されているが、幅広い労働者・労働組合の積極的な議論と運動が期待されていることから、全労働の考え方を明らかにする。

A 今日の労働者の実態をどう見るか

1 労働行政の第一線から見た労働者の実情
 労働基準監督署や公共職業安定所など労働行政の第一線には、日々、多くの労働者・求職者が、相談・申告・求職等に訪れている。
 そこで明らかにされる今日の労働者の実態を端的に表すならば、
   必要なとき、必要なだけ・・・
    こうした「使い捨て」感覚の雇用が広がっている
   過労死、過労自殺・・・
    こうした非人間的な労働が広がっている
と言えるだろう。
 以下、今日の特徴的な状況を列挙する。

(1)広範な業務・業態での請負形態の広がり
 使用者責任を負わず、必要に応じて安価な労働力を確保できる「業務請負」が広範な業種・業態で広がっている。具体的には、製造現場はもとより、サービス業(ヘルプデスク等)、運送業(私鉄の車掌等)、医療機関(病院内の検査等)などまで幅広く、加えて「派遣」から「請負」への切り替え(システムエンジニア等)も進行している。また、若年労働者の就職難を象徴するように、業務請負業者への「集団就職」(同一校から同一請負業者への就職)の形態も見受けられる。
 「業務請負」の広がりは、すでに「100万人規模」とも言われているが、正確な政府統計すら存在しないことから「闇夜のカラス」とも称されている。 (2)非労働者化の急速な進行
労働保険・社会保険料負担等の「使用者責任」を嫌って、労働者を「非労働者化」する動きが広がっている。具体的には、車両リース型のタクシー・トラック運転手の増加、軽トラック・バイク便運転手の「個人事業主化」、営業・販売職の「個人事業主化」などが目立ち、中には製造現場での労働者全員の「個人事業主化」を図った例もある。労働法・社会保障法の一切の保護のない、きわめて不利な立場の「労働者」が増えている。
(3)「間接雇用」労働者の労働条件の低下
 派遣や業務請負の形態で労働者を受け入れる「間接雇用」が急増しているが、派遣業者や業務請負業者間の苛烈な低価格(=低賃金)競争によって、これらの労働者の賃金をはじめとする労働条件の低下が著しい(製造業を中心とした「業務請負」では外国人労働者の急増も影響大)。しかも、「間接雇用」の多くは有期雇用を反復する労働者であり、顧客(派遣・受入先)の都合によって、いつでも「雇止め」される立場にある。
 また、今日の「間接雇用」をはじめとする不安定雇用は、かつてのように常用雇用までの一時的就労を意味せず、長期化・固定化・階層化の様相を示している。事実、中高年フリーターは、いわゆるニートとともに急増している。 (4)規制から除外され長時間労働を強いられる労働者
 この間の人員削減等が影響し、所定外労働の増加や年休取得率の低下によって、わが国の実労働時間は確実に伸びている。実労働時間は「横ばい」との統計資料もあるが、短時間労働者の増加が、増えた労働時間を相殺しているのである。事実、過労死・過労自殺といった悲惨な実態は広がっている。
 特に近年、労働時間規制が緩和された業務、すなわち裁量労働制の対象業務(編集、デザイナー、研究・開発等)や限度基準(労基法36条2項関係)の適用除外業務(自動車運転手等)に就く労働者に過労死、過労自殺が続発している。

2 雇用と労働条件の著しい劣化の原因
 こうした過酷な雇用と就労を出現させる至った原因は複合的であるが、以下、特徴的な要因を列挙する。

(1)有期雇用契約の広がり
有期雇用契約という仕組みが、使用者に都合よくかつ幅広く利用されている。すなわち、有期雇用契約は、使用者にとって、1)雇止めあるいは契約更新を通じて、判例上確立した解雇権濫用法理、不利益変更法理等を免れることができること、2)低い賃金水準を設定し人件費を大幅に抑制することができること、3)契約更新の自由を持つことで「もの言えぬ労働者」として従属させることができること、4)派遣業や業務請負業では、派遣・請負期間に応じて労働者を拘束することができることなどの大きな「メリット」を持ち、労働者に対する広範かつ甚大な権利侵害の温床となっているのである。

(2)成果主義賃金の広がり
 成果主義の賃金制度は、専ら人件費削減のために導入されてきたことから、労働者はその賃金を維持するため、いきおい長時間・過重な労働にならざるを得ない。しかも、目標管理制度等に組み込まれた労働条件決定の仕組み=個別査定(多くは面談方式)は、対等に交渉する術のない個々の労働者に対して、労働条件の引き下げを「納得させる」仕組みとして機能している。

(3)労働時間規制の緩和
 「自律的な働き方」を求める労働者像を描きながら労働時間の規制緩和(具体的には、専門業務型裁量労働制の拡大や企画業務型裁量労働制の導入など)が進められてきた。実際、これらの対象業務は「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し当該業務に従事する労働者に対し具体的な指示をしないこととする」(労基法38条の3、38条の4)ものとされているが、こうした建前とは裏腹に、事態は野放しの長時間労働の横行を許すことになっている。

(4)労働者派遣の原則自由化
 この間、「間接雇用」の一形態である労働者派遣の対象業務が原則自由化され、その手続的規制も緩和を重ねてきた。これによって、「雇用責任」と「指揮命令権」の分離が一気に進められ、これに連動するかのように、「業務請負」というビジネスモデルが出現し、諸規制のない労働者の「派遣」(一部で「裏派遣」とも呼ばれる)として広がってきた。
 こうした状況は、多くの経営者に、使用者責任の「丸投げ」が時代のトレンドと言わんばかりの対応を促している。

(5)労働組合の組織率の低下
 「報告」も指摘するように、労働組合の組織率が20%を割り込んでいる。本来、労働者の諸権利を擁護し、使用者と対等に交渉すべき労働組合が、多くの職場に存在していないことが、労働者の権利・利益の侵害を許している。
 これらの要因等が相俟って、今日、本来対等であるべき労使の「力関係」が大きく変化し、著しい「労使非対等」の状況が生じている。このことが、先に見た過酷な労働者の実態を生じさせているのである。

3 「報告」が指摘する現状認識
「報告」は、労働者が直面する現状に関する認識を明らかにしている。具体的には、1)雇用システム・人事管理制度の変化(長期雇用慣行及び年功的処遇体系の見直しが進み、人事管理の個別化・多様化・複雑化が進んでいる等)、2)就業形態の多様化(労使当事者の都合による非正規労働者の増大、自律的な働き方をする労働者の増大等)、3)集団的労働条件決定システムの機能低下(労働組合の組織率の低下等)、4)個別労働関係紛争の増加などを指摘するが、そのことが如何に重大な権利侵害を引き起こしているかを調査、分析する姿勢は認められない。
 逆に、経営者の事情を大いに慮って、「事業環境や経営環境の急激な変化に対して、従前にもまして速やかに適応しなければ企業の存続自体が危ぶまれる事態も生じてきている」「株主の構成や意識が変化し株主利益がより重視されるようになる」と指摘する。
 こうした認識は、あまりにも表面的・観念的で、新たな労働契約法制の立法事実と位置づけるには、きわめて不十分である。

4 労働契約法制の必要性
日本国憲法は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条1項)の実現をはかるため、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」(27条2項)こととしているが、新たな労働契約法制もその趣旨をふまえたものでなければならない。
 すなわち、先に見た今日の労働者の過酷な現状を改善することを急務と位置づけ、労働者の権利・利益を相応しく保障する立場から労働契約法制は構想されるべきである。その際、如何なる法形式によるかが問題となるが、「報告」も指摘するように「実質的な対等性の確保」を真に追求するのあれば、著しい「労使非対等」の現状にてらして、任意規定(当該法令の内容と異なる意思を表示しない場合のみ適用される規定)に実効性がないことを認め、強行規定を原則とすべきである。
 また、「報告」は「労使当事者の参考となるガイドラインとして指針を定める」ことが意義があるとしているが、指針等を監督指導の基準としないというのであれば、実効性を欠き、「労使当事者の自主的決定」の名の下に使用者の意向が貫徹されることになろう。

……


投稿者 管理者 : 2005年11月17日 00:28

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