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2005年12月19日

日本科学者会議、声明「環境権改憲論は戦争への甘い罠-環境権の具体化は法律で」

日本科学者会議
 ∟●環境権改憲論は戦争への甘い罠---環境権の具体化は法律で(2005.12.8)

環境権改憲論は戦争への甘い罠---環境権の具体化は法律で

2005年12月8日
日本科学者会議公害環境問題研究委員会

 昨今、日本国憲法を改正せよとの議論がさかんに行われ、その理由の一つに環境権(良き環境を享受する権利)がないからとの主張がなされています。環境権の議論に注目すると、2005 年10 月28 日に自民党草案が提案され、また、他の政党や団体から、環境権を日本国憲法改正により盛り込むべきであるという主張がなされ、改正案も提案されています。しかし、われわれは、科学者の立場から、このような主張や提案は、実効的な環境権の議論とは無縁のものだと思います。以下、その理由を述べたいと思います。

 第一に、環境権を実現する課題は緊急かつ絶対必要ですが、日本国憲法改正など必要ありません。学界通説においても判例においても、環境権が日本国憲法と矛盾するなどという主張は存在しません。環境権の実現には、改憲ではなく、今何よりも法律が必要なのです。逆に、与党が改正困難な憲法を変えても環境権を実現する気があるなら法律など容易に定めることができるはずです。したがって、環境権の実現のために、まずは環境基本法を補強して、環境権を明記することから実行すべきです。
 第二に、そもそも、日本国憲法25 条には、生存権が規定され、日本国憲法13 条の幸福追求権規定とから、憲法解釈により環境権を導き出すことができるというのが学界通説です。しかし、判例上、環境権が確立していないのは、環境権の三文字がいくら憲法から引き出されようとたとえ憲法に明記されようと法律がなければ具体的な権利の内容が定まらず、環境権は単なるお題目に過ぎなくなるからです。実際、憲法に明記された生存権でも法律がなければ単なる努力目標だというのが最高裁判所ですから、判例において環境権が確立できなかったのは、与党にやる気がなかったからであって、憲法に環境権がなかったからではありません。実際、05 年10 月の自民党の改憲草案25 条の2 に、「国の環境保全の責務」という規定がありますが、これは国民が「良好な環境の恵沢を享受する」権利を有する、ではなく、国は環境の保全に「努力しなければならない」、としているに過ぎません。単なる努力義務でこれでは与党のやる気次第なのですから、現状をなんら変えるものではありません。(注)

 第三に、確かに憲法に環境権が明記されていたほうが見栄えがするでしょう。しかし、現在の改憲論者の目的は、日本国憲法9 条の改正に絞られており、環境権導入論は9 条改正の餌でしかありません。さらに、9 条の改正は国民の反発が強く困難なので、改憲論者は、財界などの改憲論の主張を見ても、日本国憲法96 条の憲法改正手続きから国民投票の義務付けをはずし、国会だけで改正ができるシステムを導入したいと考えているようですが、環境権導入論への同調は結局こうした狙いに利用されかねません。現に、05 年10 月の自民党の改憲草案では、9 条2 項を削除し、新たに9 条の2 で自衛軍を創設する内容となっています。したがって、環境権を日本国憲法に規定すべきだ、と今主張することは、つまり、環境権と引き換えに、憲法9 条を改正し正式に自衛隊を軍隊として認知し、結果的に、イラク戦争を始め、侵略戦争へのフリーハンドを政府に与えたり、徴兵制をもたらしたりする主張に乗ってしまうことになるといってよいと思います。それは、結局、ベトナム戦争や湾岸戦争のように戦争が最大の環境破壊であることを忘れた主張といわざるをえないでしょう。環境権の効力は法律明記で十分あるのに、あくまで憲法明記にこだわることに9 条改憲論逆巻く今の時点で、イラク派兵と侵略戦争を正当化する甘い罠以外のどんな意味があるというのでしょうか。

 第四に、先に触れた通り環境権を保障し発展させるためには、まず環境基本法に環境権を明記させることが必要です。住民が、環境裁判をより有効に闘うためには、環境権の法律への明記が必要なのです。その下で初めて、良好な環境を国・自治体に守らせる権利や、そのための政策をとらせる権利、環境破壊行為への差し止め請求権などの具体的な権利が、より速やかに司法、立法、行政などにおいて具体化されうることになるでしょう。

(注)自民党新憲法草案 2005 年10 月28 日
前文 日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。
(国の環境保全の責務) 第二十五条の二 国は、国民が良好な環境の恵沢を享受することができるようにその保全に努めなければならない。


投稿者 管理者 : 2005年12月19日 00:00

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