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2006年01月17日

札幌弁護士会の変節?

自由法曹団
 ∟●団通信第1187号(2006/1/1)

弁護士・弁護士会の行方

北海道支部  市 川 守 弘

一 お礼

 多くの団員の方に代理人になっていただいた道警の代理人からの札幌弁護士会への懲戒請求は、「懲戒しない」旨の決定が一二月一四日出されました。応援していただいた皆様に厚くお礼を申し上げます。ただ、この弁護士会の決定は看過できない重大な問題を抱えており、私は、これは弁護士会が権力に屈服したのか、と思うほどです。

二 懲戒請求の内容

 簡単に懲戒請求の内容に触れておきます。私たちは北海道警察の裏金疑惑を巡って、住民訴訟、氏名冒用による慰謝料請求、情報公開訴訟等を提起しました。私と渡辺団員は、原告本人、代理人という立場でした。この訴訟で、被告は道と警察本部長で、その代理人が、懲戒請求をしてきたのです。私たちは、相手方の準備書面について期日前にマスコミに配布しました。また警察本部長の議会での発言と訴訟での答弁が食い違っていると思われることに対し、私は「二枚舌である」とマスコミにコメントしました。この配布と発言が私に対する懲戒理由です。渡辺団員は住民訴訟判決を「だまし討ちとしか思えない」と発言しました。渡辺団員へは前記配布行為とこの発言が懲戒理由でした。

三 弁護士の守秘義務違反

 相手方は、懲戒理由の大きな柱として、準備書面配布行為は、「相手方に対する守秘義務違反」であると主張しました。これに対し、弁護士会は、「守秘義務の対象が依頼者の秘密に限定されるか否かの問題はさておき」と、この論点の判断をせず、ただ準備書面記載内容は秘密と言えないという判断にとどまったのです。

四 信義誠実義務違反

 決定の問題点はこの「信義誠実義務違反」を認めたところに顕著に現れています。「期日前に受領した準備書面等の写しを新聞記者に交付し、その内容が記事となって広く報道されることは、そもそも相手方作成の準備書面等を本来の目的外に使用することであり、相手方もかかる事態を予定していない」から「無断で新聞記者に交付することは差し控えることが、特段の事情のない限り、弁護士として相手方に対する信義に適う」とし、この理は相手が行政であっても変わらない、としました。

 決定では、「信義上問題がなくはない」が、懲戒をもって臨むべき非行とまではいえない、としました。

五 「二枚舌発言」は、「品位に欠けるものであることは否定し難い」が、懲戒処分をもって臨むほど品位を損なうものではなく、「だまし討ち発言」は、「いささか穏当を欠く」ものの、「懲戒処分をもって臨むべき発言とはいえない」としました。

六 問題点

 大きく三つに集約されます。第一に、相手方に対する守秘義務はあるのか?、第二に、準備書面等のマスコミへの配布は「信義誠実義務」に違反するのか?、第三に、「二枚舌」「だまし討ち」という発言は、弁護士としての品位に欠けるのか?、がそれです。本稿では、第二と第三について述べたいと思います。なぜなら第一について札幌弁護士会は回答を避けているからです。

1 準備書面等のマスコミへの配布は「信義誠実義務」に違反するのか?

 理由としている「相手方が予定している」かどうかを基準とすれば期日の前後は問わないことになるので、ここでは一般的に論じます。まず、誰に対する、どのような義務なのでしょうか?。相手は行政(警察)です。だからこそ我々は配布をしたのです。準備書面は、すでに知事(警察本部長)までの決裁をとった、行政文書でもあります。そもそも行政が国民の知る権利に応えることを拒否してマスコミの取材に応じていないのですが、このような場合まで、我々は「公開を拒否」しようとする「行政のため」に、行政の見解、情報の「非公開」の義務を弁護士として負わなければならないのか?という問題です。弁護士は国民のために、知る権利に奉仕すべき義務を負っていても、決して行政の情報を隠すべき義務はないはずである。北海道は、前記の慰謝料請求事件について、事件終結後記者がした情報公開請求に対し、準備書面すべてを黒塗りで開示しました。これは事件終結後であっても「相手方は公開を予定していない」ことの現れですから、札幌弁護士会の見解に従えば、我々は事件確定後も、弁護士として準備書面をマスコミに配布することは信義誠実義務違反となります。これは、国民のための弁護士ではなく、行政(警察)の「しもべ」になることを意味します。

2 「二枚舌」「だまし討ち」という発言は、弁護士としての品位に欠けるのか?

 両者の言葉は広辞苑にも出ている日本語です。差別語でもありません。相手を侮辱した言葉でもありません。日常用語として使われている言葉です。いったい、なぜこのような言葉が「弁護士の品位」に欠けるのでしょうか?。弁護士の品位とは一般社会とかけ離れた「ハイソサエティー」なところにあって、「平民が使う言葉」を使ってはいけないのでしょうか?札幌弁護士会が考える「弁護士の品位」とはなにか、については広く社会の中で批判されなければならないと考えます。少なくとも「二枚舌」「だまし討ち」なる言葉は自由な評論ですから、言論の自由によって保障されなければなりません。

3 弁護士会の変節?

 私は憂えずにはいられません。そもそも弁護士が国民の利益に反してでも行政の利益を守るために義務を負う、という事態は、弁護士会や弁護士が権力に支配されることを意味します。また弁護士が自由な言論を自ら「品位に欠ける」として自制する事態も、同じく権力への服従以外の何物でもないと考えます。在野として国民の権利を守るべき弁護士と弁護士会がこのような事態を招いて良いのでしょうか?。私は当事者ですが、多くの団員の議論を呼び掛けたいと思います。


投稿者 管理者 : 2006年01月17日 00:15

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