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2006年11月13日

残業代11.6兆円の横取りを法認するホワイトカラー・エグゼンプション

労働総研
 ∟●残業代11.6兆円の横取りを法認するホワイトカラー・エグゼンプション

残業代11.6兆円の横取りを法認するホワイトカラー・エグゼンプション

2006年11月8日
労働運動総合研究所
代表理事 牧野 富夫

 労働政策審議会をめぐる動きが緊迫の度を増している。労働政策審議会の議論は労使の意見対立の溝が埋まらないにもかかわらず、政府・厚生労働省は、本来中立であるべき公益委員を巻き込み、強引な審議運営を進め、11月中旬には「建議案」を、2007年2月には「法案」を提案するといわれている。労働政策審議会での論点は多々あるが、ここでは労働時間法制・「ホワイトカラー・エグゼンプション」問題に絞って検討を加えておきたい。
 日本経済団体連合会など財界は「年収400万円以上のホワイトカラーには、労働基準法の労働時間規制を適用除外せよ」と主張し、政府・厚生労働省は、この財界の要求に応えようとしているが、以下の3つの理由から、我々はこれを容認してはならないと考える。

 第1の理由は賃金横取りの法理だからである。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は、大企業による労働時間と賃金の大幅な横取りを、政府が法制度改悪によって支援するものであり、近代的労働契約を破壊することにつながる。われわれの試算では、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入によって、年収400万円以上のホワイトカラー労働者1,013万人から横取りされる賃金(残業代)総額は11.6兆円に上る。内訳は、7.0兆円が不払い労働(サービス残業)代の横取り額、4.6兆円が所定外労働(支払い残業)代の横取り額である。これはホワイトカラー労働者1人当たり、年114万円になる。
 「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は、ホワイトカラー労働者に無制限な長時間労働と賃金大幅削減を同時に強行する可能性が高く、労働者の生活と権利破壊を放任する法理である。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入によって、「不払い残業」(サービス残業)の現実そのものが不在のものとされ、労働者は請求権を失う。さらに、新制度への移行にともなう賃金体系と水準がどうなるかは不明であるが、現在、支払われている残業代分の賃金も失われる可能性が高いと考える。

 第2の理由は健康破壊・過労死を急増させる法理だからである。過労死の遺族が主張しているように、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の法認化は、過労死、過労自殺、精神破壊、疾病を激増させる危険性がきわめて大きい。現代の労働は、IT・コンピュータを技術的基礎にして遂行されており、ホワイトカラー層の増大は技術的必然性をもっている。IT・コンピュータを技術的基礎におく労働は、短時間労働と休息・休憩が十分に保障されることが絶対的に必要である。こうした前提条件を無視して、成果主義・能率主義労務管理の下で、「自律的労働時間制」という名目で長時間労働が強制されることになれば、超過密・長時間労働に起因する過労死、過労自殺、精神破壊を含む健康破壊を急激に増大させることにならざるを得ない。
 日本経団連も厚生労働省も、「自律的労働」とか「創造的・専門的能力を活かす」など美辞麗句を並べ、仕事の進め方や時間配分について自由に裁量できるかのように述べているが、肝心な仕事の内容、量、期限は使用者が決定する以上、「自律的労働」との表現は、まやかしでしかない。ホワイトカラー・エグゼンプションの対象労働者は、すでに労基法上の労働時間法制を適用除外されている「管理監督者」(労基法41条2号)の下で働くことになるが、裁量権がより大きいはずの「管理監督者」ですら、実質的な裁量権はないのが実態である。
 現在、日本の労働者は平均して、月の所定外労働(支払い残業)時間は13時間、月の不払い残業(サービス労働)は20時間、つまり月に33時間の残業をおこなっている。厚生労働省が年間の残業時間限度基準として規定している360時間を36時間も超過していることになる。大企業の研究・技術開発、営業・販売・サービス部門、中間管理職などは、月間100時間を超える残業を強要され、過労死予備軍は1万人を超えるといわれている。こうした状態は憲法や労働基準法が規定している「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」や「人たるに値する生活」とは全く異質のものである。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は、労働者の生活と権利破壊を進行させることになる危険がある。

 第3の理由は労働法制を掘り崩す法理だからである。「ホワイトカラー・エグゼンプション」を労働法体系に組み込むことは、資本主義社会の下での時間法制を根本的に否定することにつながる。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は、労働者が使用者に労働力を時間決めで売るという、近代的労働法体系の根幹を破壊し、無制限の超過密・長労働時間を野放しにすることになる。
 日本政府は、日本の長時間労働はソシアル・ダンピングであり、Fair Trade(公正貿易)を破壊するという国際的批判に応える形で、年間実労働時間1,800時間(所定内労働1,653時間、所定外労働147時間)を実現すると1986年に国際公約した。日本政府の国際公約は「小泉構造改革」の下で破棄された。欧州に進出した日本企業はEU(欧州連合)と各国の労働時間規制に従い経営をおこなっている。日本政府が「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入することにより、事実上の長時間労働を放置・拡大しながら、統計上の労働時間を「短縮」し、国際的批判を回避しようとするのであれば、グローバリゼーションの下で、企業の社会的責任が強調されていく今日、日本政府は再びより厳しい国際批判を浴びることになることは間違いない。
 このような「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は中止する以外にない。

以上


投稿者 管理者 : 2006年11月13日 00:01

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