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2007年01月15日

自由法曹団、日本版エグゼンプションの導入に断固として反対し、雇用の安定及び労働条件の適正化に資する労働法制の実現を求める声明

自由法曹団
 ∟●日本版エグゼンプションの導入に断固として反対し、雇用の安定及び労働条件の適正化に資する労働法制の実現を求める声明

日本版エグゼンプションの導入に断固として反対し、雇用の安定及び労働条件の適正化に資する労働法制の実現を求める声明

1 厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は、2006年12月、「今後のパートタイム労働対策について」と題する建議と、労働契約法制及び労働時間法制に関する答申を、相次いで厚生労働大臣におこなった。厚生労働省は、これら建議及び答申に沿って法案を作成し、今度の通常国会に提出する予定と報道されている。

2 1990年代以降、財界の求めに応じて政府が進めてきた労働法制の「規制緩和」策により、非正規労働者が1700万人をこえるまでに増え、労働人口の3分の1以上を占めるに至っている。これら非正規労働者が低劣な労働条件のもとに置かれ続けることにより、民間労働者の4割近くが年収300万円以下(国税庁「平成17年度民間給与実態統計調査結果」)となり、「格差社会」「ワーキングプア」が大きな社会問題となっている。そして、「ワーキングプア」と呼ばれる貧困状態は、少子化の大きな原因ともなっていることが政府の報告書でも指摘されており、日本社会の将来に暗い影を落としている。
 こうした現実をみるとき、いま、必要なのは、非正規労働者の雇用の安定化と待遇の改善をはじめとして、労働条件が適正なものとなるように規律する立法である。

3 ところが、労働契約法に盛り込まれるべきものとして答申された内容は、若干の判例法理らしきものを明文化する程度で、ほとんど中身のないものとなっている。有期労働契約については、わずかに「労働契約締結の目的に照らして不必要に反復更新することのないよう配慮する」ことと、雇い止め予告の対象を若干広げるのみで、期間の定めのない労働契約への転換や安易な雇い止めの規制、非正規労働者と正規労働者との均等処遇については何ら触れておらず先送りにしている。
 また、パート労働に関する建議も、正社員への転換の措置や正社員との均衡処遇の確保を明文で要求するようにしているものの、正社員と就業実態が同じであるパート労働者について差別的取り扱いを禁止するという当たり前のことをいうにすぎない。正社員と就業実態が異なるパート労働者については、「職務、意欲、能力、経験、成果等」を勘案して均衡処遇を図るというにとどまり、しかも、強制力のないものになっている。
 こうした労働契約法およびパート労働法に関する答申および建議は、労働条件を適正なものとするための法的措置としては甚だ不十分なものといわざるを得ない。

4 労働時間法制について
(1) 長時間労働により労働者が心身の健康を害し、過労死やメンタルヘルスなどが社会問題となっている。また、企業が違法に長時間の時間外・休日労働をさせながら、割増賃金を支払わなかったり、形ばかりの「管理職手当」を支払って割増賃金の支払を免れる「偽装管理監督者」ともいうべき違法な取扱いをするなど、労働時間規制に関する企業の無法ぶりは目を覆うばかりである。このような状況で求められるのは、労働者が長時間労働によって心身の健康を損うことがないよう、企業に労働時間規制を遵守させることであり、そのための規制と監督の徹底である。
 ところが、本答申は、このような要請に真っ向から反し、労働時間規制を緩和・撤廃する改悪を提唱している。

(2) 日本版ホワイトカラー・エグゼンプションともいうべき「自由度の高い働き方にふさわしい制度」は、その最たるものである。同制度は、一定の対象労働者について、所定の手続を経れば、一日8時間労働制や時間外割増賃金などの法規制の適用をすべて除外し、際限なくただ働きをさせることができるようにするというものである。
 この制度の対象となる労働者の年収要件については、「管理監督者の一般の平均的な年収水準を勘案しつつ、かつ、社会的に見て当該労働者の保護に欠けるものとならないよう」な基準を命令で定めるとされているが、2005年の厚労省統計をもとにした産労総合研究所の試算では、100人以上500人未満の企業における「課長」職の年収平均は683万円とのことであり、相当低額なものにされるおそれがある。
 また、健康確保措置も、「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた」場合に、当該労働者の申し出があって、初めて医師の面接指導を行うことが盛り込まれているにすぎず、本人の申し出がないかぎり何もしないというものであって、ほとんど実効性がない。
 この制度は、長時間労働をさせつつ割増賃金を支払いたくない使用者側が強くその立法化を求めていたものであり、およそ労働者の声に基づくものではない。厚生労働省は、日米財界の圧力に屈し、「過労死促進法だ」との過労死遺族の声を踏みにじって、同制度を強引に導入しようとしており、到底許されない。

(3) 管理監督者についても、スタッフ職の範囲の明確化といいつつ、「ラインの管理監督者と企業内で同格以上に位置付けられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するもの」と抽象的な要件を掲げており、企業側の勝手な拡大解釈を許容しかねない。
 また、スタッフ職といっても、指揮命令系統は存在するのであるから、ライン職と別の要件を制定する必然性はなく、むしろ前記のような拡大解釈につながるおそれを考えれば、答申のような「明確化」は不要である。
 管理監督者に対する労働時間規制の適用除外はあくまで例外的なのであるから、その要件は限定的にすべきであって、「労務管理について経営者と一体的な立場に在る者」(昭和22年9月13日発基17号)との原則を明文化したうえで、不合理な「管理監督者扱い」を許さない運用を徹底すべきである。

(4) 企画業務型裁量労働制の見直しについては、中小企業における対象業務を拡大しようとしているが、大企業と異なる制度を採用すべき合理性はなく、導入すべきではない。

(5) 時間外労働削減のための法制度の整備として、答申は、一定時間を超える時間外労働についてのみ、割増賃金の法定割増率を引き上げることを提案し、時間数と割増率については命令で定めるとする。しかし、時間外労働を抑制するためには、企業が割増賃金を支払うより、新たな労働者を採用して業務を分担させることを選択するだけの重みをもった割増率でなければならず、諸外国に比較して現行の25%という割増率が低いことを考えれば、少なくとも、すべての時間外労働に対し、50%を超える割増率を設定すべきである。そして、いわゆる三六協定締結にあたっても、そのような内容を定めなければならないとすべきである。
 また、現在、三六協定において、いわゆる限度基準(1ヶ月45時間)を超える時間外労働時間を定めるケースもみられるが、個々の労働者の心身の健康を損なう内容を労使協定によって決定してよい道理はないから、少なくとも、限度基準を超える協定の効力を否定する制度を導入すべきである。

5 自由法曹団は、「際限なきただ働き」をもたらす日本版エグゼンプションの立法化に断固として反対するとともに、異常な長時間労働を根絶し、雇用の安定と労働条件の適正化に資する労働法制の実現を強く求めるものである。

2007年1月11日
自由法曹団団長 松 井 繁 明


投稿者 管理者 : 2007年01月15日 00:00

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