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2007年5月22日

日本私大教連、改憲手続法案の採決強行に強く抗議する声明

改憲手続法案の採決強行に強く抗議する声明

2007年5月21日
日本私大教連中央執行委員会

1.自公与党は、5月11日に参議院憲法調査特別委員会で、ついで14日には本会議で改憲手続法案(国民投票法案)の採決を強行した。憲法改正に関わる重大な事案であるにもかかわらず、各界各層からの批判・疑問の声、慎重審議を求める圧倒的な国民の声に一切耳を貸さず、重要法案について慣行となっている中央公聴会すら開かず、法案のもつ重大な問題を何ら解決しないまま、数の力で採決を強行したことは議会制民主主義を蹂躙する暴挙というほかない。私たちはこの暴挙に対し厳しく抗議するものである。

2.法案の審議経過もきわめて異常・異例なものであった。与党は4月12日、衆議院憲法調査特別委における審議を一方的に打ち切り、議事が混乱するうちに採決を強行した。与党は参議院においても、4月16日から連休を除くわずか3週間あまりの間、夕刻に翌日の審議日程を決めることを繰り返して連日審議を行なう、参考人質疑や地方公聴会も直前に日程を設定する、といった異常な詰め込み審議を強引に進めてきた。挙句、採決時には、これも異例の18項目にもわたる附帯決議を採択し、未解明の重要課題・問題点を数多く残したままの欠陥法案であることを白日にさらして、強引に審議の幕を閉じたのである。
与党のこうした所作は、審議内容を重視するのではなく、安倍首相の改憲スケジュールにあわせて採決日程を最優先し、審議時間をアリバイ的に消化することに傾倒したものであり、法案採決を強行した与党の責任は極めて重大である。議会制民主主義を蹂躙し、主権者国民を蔑ろにするものに他ならない。私たちは強い怒りをもってこれを断固糾弾する。

3.私たちは2月27日に声明を発表し、改憲手続法案が与党が主張するような中立・公正な単なる手続を定める法案などではなく、9条改憲を中心とする憲法改悪を容易に行なえるように都合のよい仕組みをつくるための法案であり、自民・民主の修正協議を経てなお、法案のもつ重大な問題点・瑕疵が解消されていないことを具体的に指摘し、その徹底審議と廃案を求めてきた。
 この間の国会審議を通じ、私たちが指摘した重大問題は何一つ解決されず、さらに新たな重要問題も浮かび上がった。あらためて以下に主要な問題を示す。
(1)最低投票率の設定を拒否したこと
   少数の賛成で憲法を変えてしまえる仕組みにすべきでないことは、憲法の要請であり、当然の国民的要求である。与党はボイコット運動を誘発するなどの理由を挙げるも、国会審議での反論によってそれらが理由にならないことが明白になった。にもかかわらず、与党は最低投票率や絶対賛成率を設定しないことに固執し、少数により改憲できる仕組みを温存している。
(2)曖昧なままの発議方法
 法案は「憲法改正原案」の発議について、「内容において関連する事項ごとに区分して行う」としているが、「関連」の基準はまったく定められていない。「改正原案」にもとづき改憲案が発議され、投票に付される以上、このままでは、改憲を容易くするような恣意的な区分がなされたり、大量の白票を誘発する区分がなされる危険性が高く、国民の意思が正確に反映される投票方法となる保障はまったくない。
(3)公務員の政治活動規制を適用除外としなかったこと
   公務員の政治的行為規制の対象となる「政治活動」と国民投票運動は、まったく性質を異にするものであることから、与党側も一旦は政治活動規制の適用除外とすることを合意した。しかし、国会審議において規制を設けるべきでないことが明らかになったにもかかわらず、与党執行部の巻き返しにより規制を復活させ、公務員の国民投票運動を制限する仕組みを設けたことは重大である。
(4)公務員、教育者の「地位利用」禁止規定を残したこと
   この問題に関して参議院では、大学の講義についての議論がされた。その中で法案発議者は、教員が講義や試験を通して特定の改憲案に対して意見表明することを排除すべき事例として答弁したが、これは極めて重大である。教員がある事象について自分の見解をもち、それを講義等で表明することは、大学教育において当然の基本的かつ中核的な作業である。それを禁ずることは学問の自由の封殺であり、重大な憲法違反である。この発言からも明確なように、「地位利用」禁止規定の企図するところは、国民投票運動を制限・萎縮させることに他ならない。
(5)組織的多数人買収及び利害誘導罪を設けたこと
   改憲手続法は、公職選挙法の多数人買収及び利害誘導罪を移植して、買収罪、利害誘導罪一般ではなく、「組織」に的を絞った新たな処罰規定を設けている。これは、改憲に反対する労働組合や市民団体、政党などの組織に丸ごと網をかぶせ、その活動を規制し萎縮させることを企図するものである。この問題は参議院で始めて審議に付されたが、きわめて不十分なまま終わっており、重大である。
(6)有料意見広告の野放しと放送規制
   有料意見広告についても「カネで改憲を買う」との強い批判にさらされながら、与党は「投票日前14日の禁止」以外の規制を設けないまま法案を成立させた。改憲を推進する日本経団連など資金力のある団体の広告が氾濫する可能性が高く、改悪に向けた世論誘導が一方的に行われる危険性がそのまま残されている。
   一方、民間放送事業者に対しては、「政治的公平性」を定めた放送法の規定に留意せよといった趣旨の条文を、与党は修正案段階で急遽盛り込んだ。放送法があるにもかかわらず、わざわざ法案に書き込む合理的理由はない。放送事業者に圧力をかけ、国民投票と改憲をめぐる活発な論議が巻き起こることを抑えようという意図が働いている疑いが極めて高い。
(7)国民への広報と国民投票運動期間の問題
   国民投票運動期間中の広報を管理する「広報協議会」をめぐっても、重大な問題が残されたままである。「協議会」は憲法改正に関する「公報」の発行、政党等による広報放送・新聞広告を管轄するもので、当然高い中立性が求められる。しかしその構成は、会派所属議員数の比率によって定められるので改憲派が多数を占めることになり、中立性はまったく担保されない。与党発議者は審議の中で、改憲派と護憲派を半々で構成すると改憲派に不利などと答弁しているが、ここにも改憲をしやすくするための仕組みづくりという意図が漏れ出ている。
   また同法の定めるところによれば、国民投票運動期間が最短の60日だった場合、「公報」が配布されるのは投票日10日前となる。これでは、国民が憲法改正の是非を判断することなど到底不可能である。これひとつとってみても、与党が憲法改正をめぐる十分な情報提供と国民的な議論を保障しようという姿勢にないことは明らかである。
(8)国会法改正による改憲案取りまとめ機関の設置
   同法はその中に国会法改正をもぐりこませ、憲法改正原案の審査・発議権をもつ憲法審査会を両院に常設した。審査会は国会会期に関わらず開催することができ、その構成はこれも会派所属議員数により比例配分されるため改憲派が多数を占めることになる。国民世論を正確に反映しないまま憲法改悪準備が進められる危険性が極めて高い。審査会は同法施行までの3年間、憲法改正原案の審査・提出を「凍結」されている。しかし国会審議において自民党は「骨子案や要綱案作成は法的に可能」とし、秋の臨時国会から具体的作業を開始させる方針を表明している。同法施行後、直ちに改憲原案の審査・発議を行おうという危険な企てを示すものであり、重大である。

4.これら問題点は、附帯決議に何らかの形で今後の検討課題として盛り込まれている。しかし、これらはいずれも、憲法に違反する疑義が極めて濃厚な重大な問題であり、同法の根幹、根本に関わるものである。私たちは国会に対し、決定的な欠陥法である改憲手続法を直ちに廃止とするか、さもなくば抜本的・全面的な修正を施すことを強く要請する。

5.改憲手続法案は可決成立し5月18日に公布された。3年後の2010年5月には施行となる。しかし、これによって憲法改悪が自動的に決定したわけではない。この悪法も、憲法改悪反対の圧倒的世論の力には及ばない。5月3日付日本経済新聞は、憲法を改正すべきだとする意見が2000年4月には61%であったものが2007年4月は51%に減じ、改憲支持派でも05年5月の前回調査と比較して、「期限は設けずじっくり議論すべき」が13ポイント上昇し42%、「できるだけ早く改正すべきだ」は6ポイント減少して30%と、順位が逆転したと報じた。憲法改悪反対の世論をいっそう広げていかなければならない。
 憲法改悪阻止のたたかいは、いよいよこれから本番を迎えることになる。私たち日本私大教連は憲法改悪を阻止するために、全力を尽くす決意をあらためて表明する。同時に、「戦後レジームからの脱却」を掲げ、「白紙から」の改憲を平然と公言する安倍首相の改憲スケジュールを、断固阻止するために全力を尽くす決意を表明するものである。
そして、日本私大教連に加盟する単組・組合員のみなさんが、引き続き護憲のたたかいに力強く参加されんことを心から訴えるものである。


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