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2007年6月 5日

横浜市立大、昇任人事問題 大学のシステムとその運用は憲法違反

大学改革日誌
 ∟●最新日誌(6月4日)

6月4日 教員評価制度問題で多忙を極めたため、先延ばしになっていた重大問題、すなわち、昇任人事に関する対当局交渉を開始した。人事は、給与や評価と並んで、大学自治にとって決定的に重要な問題である。

本学(本法人)においては、昇任規程なども、教授会や評議会で審議決定するのではなく、「上から」任命された管理職ばかりで決めている(したがって、そこには、行政優位の規定がいくつもあり、全国的に比較してみれば、その行政優位の規程は一目瞭然となろう)。本学のシステムとその運用は、徹頭徹尾、大学自治の憲法原則とは相容れないというべきだろう。

------(芦部『憲法』第3版より)------

「大学の自治の内容としてとくに重要なものは、学長・教授その他の研究者の人事の自治と、施設・学生の管理の自治の二つである。ほかに、近時、予算管理の自治(財政自治権)をも自治の内容として重視する説が有力である。
 (1)人事の自治  学長・教授その他の研究者の人事は、大学の自主的判断に基づいてなされなければならない。

以下略・・・・・・・・・・・・・・・」

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 この憲法学の標準テキスト(最近4版が出た)が示す基準に照らすとき、本学が、憲法違反状態にあることは、誰が見ても明らかであろう。
 法令順守と法人・大学当局は看板を掲げる。法令の精神を倫理的にも追求するという。
 わが国の最高法規である憲法に違反するような人事制度を採用していて、はたして、法令順守といえるのか?
 どこに自治があるか?
 理事長、副理事長(最高経営責任者)、学長のすべてが「上から」「外から」の任命であることは明確である。どこに、大学の自主的判断があるか?
 「学生管理の自治」が、憲法的要請であるが、学長以下の管理職がすべて任命制の教育研究審議会で、TOEFL500点基準を設定し、教授会審議を経ていないで、仮進級などの措置をとっている。このどこに大学の自治があるか? 
 まさに、そのこと(自治の欠如、そこから来る不透明性)を明らかにするのが、この間の人事問題、とくに、今回の昇任人事をめぐる不透明さである。
 任期制評価問題WGの議論、組合執行部での議論を重ね、下記のような質問状・要求書を本日、当局に提出した。この問題は、つぎの団体交渉マターとなるべきものであり、その準備書面、とでも言うべきものである。
 昇任に当たって、任期制同意を条件とするなどというのは、すくなくとも、公務員時代からの身分継承の法理からしても、不当労働行為である。
 新任人事のように、さしあたり、外部からの採用時においては、法人が掲げている任期制に同意せざるを得ないとしても、その間にしかるべき業績を上げて、安定したテニュアの地位を得るのが、全教員の希望であろう。またそれが、大学の安定的発展の基盤となろう。
 任期制同意への事実上の強制に苦しめられている教員、任期制に同意して新規採用されたが将来の安定が見えてこない教員、公務員身分の継承にもかかわらず「任期制」に同意して不安・不安定な状態におかれている教員、これらすべての人のために、下記のような当局への質問状は意味があるであろうし、透明性のある制度、安心して働ける制度を構築することが、今後の団体交渉の課題であろう。

昇任人事に関する質問書
2007年6月4日

公立大学法人横浜市立大学
理事長 宝田 良一 殿

副理事長 松浦 敬紀 殿
学長 ブルース・ストロナク 殿

横浜市立大学教員組合
執行委員長 永岑 三千輝

2007年4月の昇任人事に関する質問書

 前年度、各コースの審議を経て2007年4月に昇任させるにふさわしいと判断された教員を、各コース長を通じ、昇任適格者として人事委員会に対して発議したが、4月以降に教員組合が調査したところ、各コース・人事委員会の発議の対象となった教員のうち数名が、「経営上の判断」から4月には昇任できないとされたことが明らかになった。

 教員の昇任は、対象となる教員の研究・教育業績の内容を理解し、それを公正に判断できる教員組織がこれまでおこなってきたが、このたび数名の昇任が発令されなかったことは、教員が営々と積み重ねてきた研究教育業績に対して、それを否定するばかりでなく、「経営上の」理由を大義名分のごとく掲げ、研究教育業績審査をも意味のないものに貶める、忌々しき出来事であると考える。

 この件ついて当局に対して以下の質問を提出する。各事項について、昇任の判定・判断に関与した当局側のそれぞれ該当する各責任者に対して、誠意ある文書での回答を、下記6月12日の期日までに求める。

― 記 ―

1.サイボウズに掲載された「第11回人事委員会議事録」(2007年2月9日開催)には、国際総合科学系部会から国際総合科学系の「昇任候補者の部会審査結果」が審議事項として発議され、「藤野国際総合科学部長より[国際総合科学部昇任]推薦者の内容が説明され、質疑の後、昇任候補者について承認した。なお、任期制に同意していない教員が昇任することは適当でないという意見が出された。」とある。「昇任候補者について」の何を「承認」したのか。「承認」された内容を詳らかにせよ。

2.さらに、この「任期制に同意していない教員が昇任することは適当でないという意見」は、近視眼的な経営的視点による、学問業績への冒?的かつ不当な介入である。このことにより被評価者の評価が低く位置づけられ昇任自体がおこなわれないようなことがあれば、それは学問・教育・研究を真摯におこなう者への侮蔑的発言である。議事録に記載された経緯を問うとともに、この発言者および座長・議事録作成責任者にその謝罪を要求する。

3.同じくサイボウズに掲載された「第12回経営会議報告」(2007年3月8日開催)には、上記の第11回人事委員会での決定事項は、その後、この第12回経営会議の議事として取り上げられ、この事項について「2月9日(金)、2月23日(金)に行われた第11回及び第12回人事委員会結果について、報告」されたと記されている。第12回経営会議では、第11回人事委員会の決定事項について報告のみがおこなわれたのか、あるいは審議もされたのか、明らかにせよ。

4.さらに、「第11回人事委員会議事録」に記された「任期制に同意していない教員が昇任することは適当でないという意見」は、この第12回経営会議ではどのように取り扱われたのか、明らかにせよ。また任期制に合意することが、経営会議において昇任の条件とされたのか否か、回答せよ。

5.昨年7月の昇任人事においては、昇任対象者に事前に労働契約書(含任期制合意確認)を提出させ、提出した者のみを昇任させ、非提出者には今年3月に至るまで昇任発令が出されないという忌々しいことがおこなわれた経緯があるが、今回は、事前に労働契約書の提出を求めることがなかったのはなぜか、説明せよ。

6.昨年7月人事における昇任対象者と異なり、今回の候補者に対しては、任期制への同意確認がおこなわれないまま、昇任に関しての順位付けがなされたのか否か、回答せよ。また前回とは異なり、同意確認もすることなく、昇任候補者間で差別的扱いをした明確な理由を示せ。

7.教員組合の調査により、数名の教員の昇任を発令しない根拠は「経営上の判断」であることが明らかになった。この「経営上の判断」はいかなる会議でなされたものか、明らかにせよ。

8.数名の教員の昇任を発令しない根拠とされている「経営上の判断」とはいかなることか。その裏付けとなる論拠を示した上で、「経営上の判断」に含まれる事項を列挙し、具体的かつ明確に説明せよ。

9.この「経営上の判断」が、研究・教育業績によって判断されるべき教員の昇任の事柄と具体的にどのように結びつくのか、説明せよ。

10.人事委員会が発議した際に、各コースが昇任適格者と判断して発議された教員は、文系・理系の別にその研究・教育業績が点数化され、順位付けがおこなわれたとされるが、教員の研究・教育業績を点数化するにあたり、それを学術的・教育的に客観的に判断できる資格・能力を持つどのような審査者が参加し、その点数化がどのようなプロセスに従ってなされたのか、また具体的な配点項目と配点基準は何か、明らかにせよ。

11.人事の透明性を謳う新法人当局からすれば、審査基準・配点基準の公開のみならず審査結果の公開は当然のことであり、もし仮にそれを公開しないのであれば、透明な人事という原則を踏みにじるものである。従来法人化以前の教授会においては候補者の専門を判断できる教員によって構成される人事選考委員会が作成した詳細な報告書が教授会構成員全員に配布され、昇任についての判断理由の詳細な説明がなされていた。本年度4月昇任の人事に関しても同様に、最終決定の段階において、候補者が教授等に昇任するのに適任あるいは不適任であるとする人事委員会あるいは経営会議の正式かつ詳細な文書が存在しなければならないはずである。その文書の有無を問う。

ここでいう文書とはサイボウズ上に出された簡単な報告・文書を意味しない。最終決定の根拠となる、法人化以前に教授会報告で作成されていた審査報告書と同等ないしはそれ以上の、詳細な審査報告書の存在の有無を問うているのであり、もし存在するのであれば、その詳細な審査報告書を全教員・教授会全構成員に公開せよ。

上述したようにサイボウズ上に、きわめて簡単な審査報告はあり、各候補者と昇任者・非昇任者との同定は可能であることからしても、個人情報保護等による文書開示拒絶はできない。法人化前の教授会における人事選考以上の透明性・公平性を謳う新法人であるなら、少なくとも全教員・教授会全構成員に詳細な審査報告書を示すことがなくてはならない。それなくしては、公平・透明・厳密な審査がおこなわれなかったことの証左に他ならない、ということを申し添えておく。

12.様々な学問分野・教育科目が存在する各系において、その個別性・多様性を否定することにも繋がる恐れが明らかに存在する点数化・順位付けのシステムが、教員の昇任の審査において適切であると判断した論拠は何か、明らかにせよ。

13.文系・理系別に順位付けされた昇任適格者を、さらにどのように順位付けして昇任人事がおこなわれたのか。その際、きわめて多様な専門分野にわたる候補者を、客観的に序列化できる能力を持つ審査者が最終段階で選考をおこなったというなら、そのことは審査者の業績・能力から客観的に判断できねばならないはずである。それを明確に示せ。

14.教授等の条件を、文部科学省は大学設置基準第14条等で明確に規定している。それ以外の基準を設け昇任人事をおこなうことは、法令遵守の精神に反する行為をあえておこなうことになる。人事の透明性・公平性を踏みにじり、人事に恣意性・非公平性を持ち込むことに他ならない。そのようなことが起こらぬように、大学設置基準は厳格に規定している。「任期制に同意していない教員が昇任することは適当でない」という意見は、まさしく法令遵守の精神に悖る。いやしくも公立大学法人に身を置くものであれば、まず、日本国の法令を遵守せねばならない。それが一大学の一時期の「経営上の判断」などより上位に位置するのは当然のことである。発言者に法令遵守の精神が欠如していることをいかに考えるか、また、法令を遵守せずに人事がおこなわれたことをいかに考えるか、回答せよ。

以上すべての質問事項は、いずれも昇任審査をおこなうにあたり、審査権限をもつ部局において明確に確認されているべき事柄である。これらの事柄が明確かつ迅速に明らかにできないというのであれば、本年度4月昇任の昇任審査が必要な手続きに従っておこなわれたものでもなく、また客観的かつ公正におこなわれたものでもないと疑わざるを得ない。

6月12日を期限として遅滞なく、各項目(計14項目)について、該当する各責任者からの文書による回答を求める。

以 上

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