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2007年7月26日

国立大学運営費交付金の見直し問題について

■高等教育政策情報、第8号 2007/7/23 【高等教育局 メールマガジン】より

【政策担当者の目 (その5)】(高等教育企画課長 藤原 誠)

~国立大学運営費交付金の見直し問題について~

 今年の前半は、経済財政諮問会議や教育再生会議など政府各種会議で高等教育関係の様々な事項が様々な観点から議論されたことは、皆さんの記憶に新しいことと思います。このような議論が活発になされること自体、高等教育に対する国民の関心を高めるという点において意義があると思います。
 しかしながら、その中で特に大きな話題となった国立大学運営費交付金の問題については、改革(?)を主張する経済財政諮問会議の民間議員や財務省がかなり乱暴で危ない議論をしていると思われるので、今回はその部分に焦点を当てたいと思って、ここで取り上げることとしました。
 議論の発端は、2月27日に開催された経済財政諮問会議で配布された「成長力強化のための大学・大学院改革について」という民間議員ペーパーにおいて「国の支援は大学の努力と成果に応じたものになるよう大胆に転換すべきである。そのため、国立大学運営費交付金について、現行の教職員数等に応じた配分を見直すべく、次期中期計画に向けて早急に具体的な検討に着手すべきである。」と主張したことに始まります。
 これだけでは何を言っているのか不明確ですが、諮問会議との間の公式・非公式の協議の結果、要すれば彼らは「現在の国立大学のうち、旧帝大を中心とした一部の大学は国際的に立派な研究成果をあげて、我が国経済に貢献しているので、そこに財政投資を集中すべきである。しかし、国の財政状況は厳しいので新たに予算を確保することは難しいから、国際的な研究成果をあげておらず、我が国経済に貢献していない地方国立大学とか教員養成系大学などへの予算を大幅に削減して、旧帝大などへの予算増の財源に充てるべきだ。その結果、地方国立大学などがつぶれてもやむを得ず、国立大学は大幅に再編統合すべし。」と考えていることが判明しました。
 このような議論は、大学の役割を研究という一面にだけ限定して見ており、人材養成という教育面を全く無視した極めて問題が多いものです。さらに研究面を見ても、学術研究というのは、人文社会系から自然科学系まで幅広い分野の均衡ある発展こそが重要であり、経済への貢献といった一面的な評価はかえって学問の進歩を妨げます。さらに地方にも優秀な人材は多く存在しているにもかかわらず、それらを安易に切り捨てて旧帝大など一部の大学だけ残すことは、地域間格差を拡大するとともに、真の学問の発展にはつながりません。
 経済財政諮問会議の提案がいかに問題かという点については、5月21日に財務省が財政制度等審議会に示したシミュレーションで明確になりました。すなわち、科学研究費補助金の配分実態を踏まえて運営費交付金配分を配分しなおすと、予算が増える大学は僅か13大学に過ぎず、残りは減額となり、しかも5割以上予算が削減される大学が何と50大学にものぼるという結果です。財務省はこのような大胆な交付金の配分見直しをすべきだと主張しようとしたのでしょうが、この見直しではかえって我が国の地方国立大学などを潰すこととなり、地方の経済力を弱めてしまう結果を招くことが明白になりました。
 そこで文部科学省としては、このように問題がある提案に対して断固、異論がある旨を主張し続けた結果、最終的には6月19日に閣議決定された「骨太の方針2007」において「基盤的経費(筆者注:国立大学運営費交付金を含む)を確実に措置」した上で「運営費交付金の配分については、評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。」という表現になりました。もちろん同じ「骨太の方針」において、「新たな配分のあり方」について「平成19年度内を目途に見直しの方向性を明らかにする。」とされていますから、これから具体的な制度設計を始めることになりますが、少なくとも諮問会議や財務省が主張していた改革(?)案、すなわち一面的な基準による極端な配分見直しの方向性は明確に否定されて、国立大学法人評価という総合的な基準による評価を踏まえて適切な配分見直しを進めるというラインで落ち着いたところです。


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