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2007年7月30日

琉球大学工学部永井獏教授停職処分に関する訴状

■「意見広告の会」ニュース425より

訴  状

〒901-2412
沖縄県中城村奥間65-2
原告 永井獏 こと 永井實

〒102-0094
東京都千代田区紀尾井町4-13
マードレ松田ビル2階
リオ法律会計事務所(送達場所)
電話03-5226-6077
FAX03-5226-6078
原告訴訟代理人弁護士 佐 藤 文 昭(主任)
(東京弁護士会所属)
原告訴訟代理人弁護士 亀 川 栄 一
(沖縄弁護士会所属)
〒903-0213
沖縄県中頭郡西原町字千原1番地
被告 国立大学法人琉球大学
被告代表者学長 岩政輝男

那覇地方裁判所 御中

平成19年7月20日
原告訴訟代理人 弁護士 佐藤文昭
同       亀川栄一

訴訟物の価額  1000万円
貼用印紙額      5万円

第1 請求の趣旨
 1 被告が原告に対してした、平成18年12月12日付け停職1月の懲戒処分が無効であることを確認する。
 2 被告は原告に対し、1065万6400円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 第2項につき仮執行宣言

第2 請求の原因
 1 被告は高等教育を目的として大学を運営する国立大学法人であり、原告は被告が運営する琉球大学において教授職として雇用されている労働者である。
 2 原告に対し平成18年12月12日当時適用されていた俸給月額は、教育職俸給表(一)5級81号基本給64万3400円であり、これに扶養手当、通勤手当を加え、被告は原告に対し、1月あたり65万8400円を支払う雇用契約上の義務がある。
 3 被告は原告に対し、平成18年12月及び平成19年1月の2ヶ月にかけて、前記の65万8400円のうち、通勤手当を除く65万6400円を支払わなかった。
 4 被告は原告に対し、平成18年12月12日、下記の事実が琉球大学の名誉若しくは信用を著しく傷つけた、素行不良で琉球大学の秩序又は風紀を乱した、人権侵害に該当する行為があった、と判断し、原告に対し停職1月の懲戒処分をした。

 原告が担当する流体力学Ⅰ及びⅡの受講生から、遅刻を減らす目的で、遅刻者から遅刻1回につき遅刻反省金100円を徴収した。この結果学生の困惑・苦情・混乱を招いた。遅刻反省金徴収を拒否した学生は欠席扱いとしたが、原告は遅刻・欠席は成績評価に反映させなかった。学科長及び学部長は原告に対し、遅刻反省金の徴収の中止勧告を行ったが、原告は勧告に従わなかった。
 5 この懲戒処分の過程で、原告は被告に対し、弁明の機会も与えず、事実調査の過程も公開しなかった。
 そのため、原告は学生の困惑・苦情・混乱があったかどうかについて有効な攻撃防御の機会を奪われた。
 6 原告は、上記懲戒処分の事実のうち、遅刻反省金の徴収の結果学生の困惑・苦情・混乱を招いたと言う事実は否認するが、その余はおおむね認める。
 しかしながら、これらの事実は、なんら琉球大学の名誉・信用を著しく傷つけるものではなく、また、素行不良ということもできない。ましてや、学生に遅刻反省金の支払は任意であると告げていることや遅刻・欠席が成績評価に反映されていなかった事実に照らせば、学生の人権を侵害したということもできない。
 7 そもそも、大学においては、1時間の講義受講及び2時間の予習復習を15週続けることで1単位与えるのが基本である。
 これだけの学習をしていない学生に対しては、本来単位を与えるべきではない。
 8 本件に関して言えば、一コマ90分の講義を1分でも欠けば、「出席ではない」すなわち欠席と評価されるべきものである。
 しかしながら、出席を促し、学生の学習・研究意欲を喚起するために、原告は、原告の担当する講義に関して、遅刻反省金という仕組みを学生に提案し、反対者がいなかったという意味で消極的賛同が得られたことから、これを平成17年夏ころから実施した。
 9 このように、本件遅刻反省金の制度は、レジャーランドと揶揄される大学において、高等教育機関としての役割を取り戻し、学生の学習・研究意欲を喚起するという正当な目的のもとに始められたものである。
 そして、手段に関しても、現代の学生にとっては安くもなく高くもない金額を設定しており、社会的に相当な範囲に収まっているものである。
 目的において正当で、手段において相当な本件遅刻反省金の徴収が素行不良ということはできない。
 10なお、徴収した反省金は、原告の指導する大学院生または卒業研究生が、実験の為に必要とする消耗品の購入や写真のプリント代支払いなどに使用しており、原告が私的に利用した金額は1円もない。
 11この制度は、平成18年夏、全国報道で取り上げられ、社会的に賛否両論があったが、大学における教育のあり方について問題提起した点では社会的に意義のあるものであり、決して琉球大学の名誉・信用が傷ついた事実はない。
 12大学基準においては、
 大学は、大学の組織・運営と諸活動の状況について情報公開し、社会に対する説明責任を果たさなければならないと定められている。
被告が、原告の要求に反して、事実調査・評議を公開せず、上記事実が懲戒事由にあたると考えた理由を明らかにせず密室で原告を処分し、遅刻反省金という制度を封じることは、この大学基準に明らかに反するものである。
 13大学においては学問の自由が保障されなければならず、講義の内容及び講義の進め方については、学校教育法上、教授は「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」権能を有しており(同法58条6項)、教育行政事務の干渉を受けない自由がある。
 14しかるに、本件処分は結局のところ、原告が学科長及び学部長の勧告に従わなかったということが理由の本旨であり、教授を教育行政事務部門の支配下に置くことを意図するものと言わざるを得ない。
 15なお、原告は上記事実は就業規則の定める懲戒処分事由にあたらない、少なくとも、懲戒処分事由にあたると考える合理的根拠の証明がないと考えるが、仮に懲戒処分事由に当たるとしても、停職期間中の給与の全額を支払わないことは労働基準法第91条に定める制裁規定の制限を潜脱するものであり、かかる就業規則は労働基準法に違反し無効である。
 16原告は、本件懲戒処分がされたことにより、名誉が毀損されるとともに、給与が支払われず、賞与が減額され、講義の担当を外され、学生とのコミュニケーションを通じて流体力学の本質を教授する自由を奪われるとともに学生から啓発され研究を促進する機会を奪われるという精神的苦痛を受けた。
 この精神的苦痛は決して金銭では慰謝できないものであるが、あえて金銭的に評価すると、1000万円を下回ることはない。
 17よって原告は被告に対し、以下の請求をする。
 (1)懲戒処分の無効確認
(2)不法行為に基づき、金1000万円及びこれに対する不法行為の日の後である本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払
 (3)労働契約に基づき、金65万6400円及びこれに対する支払期の後である本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払

証拠方法

甲1号証  懲戒処分書 1通

添付書類  訴訟委任状 2通
      訴状副本  1通
      甲号証写し 1通
      資格証明書 1通

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