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2007年8月27日

国立大 学長選考様変わり

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20070824ur03.htm

 7月まで文部科学省の事務次官だった結城章夫氏(58)が来月、山形大学の学長に就任する。法人化された国立大の学長選びは様変わりしている。

法人化で経営力重視 選考会議が決定 学内投票覆り訴訟も

 「地方の国立大は厳しい状況にあるが、文科次官として得た教育行政の知識や経験、郷里の発展にかける思いを生かしたい」

 7月26日、次期学長に選ばれた直後の記者会見で、結城氏は意気込みを語った。文科官僚のトップが、退任直後に国立大学法人の学長に就任するのは極めて異例だ。

 結城氏は山形県村山市出身で、東大工学部から旧科学技術庁に入庁。2005年1月から旧科技庁出身者で初の文科次官を2年半にわたって務めた。学長就任は、仙道富士郎現学長が今月末に任期満了となるのに伴い、医学部など複数学部の教授会に推されて招かれた格好だ。

 教職員809人による「学内意向聴取」と呼ばれる投票では結城氏は355票で、378票を集めた工学部長の小山清人氏に次ぐ得票だった。しかし、決定権を持つ学長選考会議では10票を得て、4票の小山氏を退けた。

 次点候補が選考会議で学長に選ばれても、手続き上問題はないが、投票結果を覆した選考会議の結論に、学内からは反発の声が上がった。小山氏らは声明文で「学長選考は伝統的に教育研究に携わる有権者による投票結果が尊重されてきた。選考会議の決定は伝統を否定し、将来に大きな禍根を残す」と抗議し、選考の無効を求めて訴訟も辞さないとした。

 学長選考は04年の国立大学法人化で様変わりした。従来は教員による「学長選」が事実上、学長を決めていたが、学内と学外の委員が同数の学長選考会議が、学長選びの最終権限を持つと法律で規定されたためだ。山形大の選考会議メンバーは14人。各学部長6人と医学部付属病院長の学内関係者7人に加え、同大出身の企業家や地元銀行、地元新聞社の役員など7人の学外有識者で構成され、学外有識者は学長が任命する。

 これらの規定で、大学での教育・研究経験が少なくても、強い指導力を持ち、大学経営に精通していると判断されれば、外部から学長をスカウトすることもしやすくなった。結果的に、「投票は学内の支持がほとんど得られない場合、その候補を避けるためのネガティブ・チェックの意味合いが強くなった」と文科省幹部は見る。

 ただ、法人化後も、学内合意を尊重すべきだと主張する大学関係者は少なくない。文科省によると、87国立大学の約半数が、新たな制度下での学長を選んでいるが、中には、選考の取り消しを求める訴訟が起きた大学もある。

 滋賀医科大では04年12月の学長選考を巡り、選考会議が次点の候補を学長に決めたことに関し、落選した候補者が国や同医大に対し、学長任命の取り消しなどを求めて大津地裁に提訴。今月中にも判決が出る見込みだ。

 新潟大でも05年12月の学長選考で、選考会議が次点候補を次期学長に決めたことに関し、教員らが選考の無効を求めて提訴した。新潟地裁は今年3月、選考会議に広範な裁量があることを認め、候補者でも選考会議メンバーでもない原告は「原告適格を有しない」として訴えを却下しているが、原告側は控訴している。東京高裁で9月中にも判決が出る見通しだ。

 こうした問題が起きる背景には、大学経営への「トップダウン手法」や「民間企業の経営感覚」の導入など、法人化が目指した大学像が、学内合意を重視する大学関係者に、十分な支持を得られていない現実がある。

 国立大を取り巻く状況は厳しさを増している。政府の歳出削減路線で、教職員の人件費や光熱費など大学の基盤的経費として、国から国立大に配分される運営費交付金は年1%削減され続けている。政府の経済財政諮問会議や教育再生会議が「再編統合」を求めるなど、特に地方の国立大には一層厳しい状況だ。

 いまや、大学トップは経営責任を厳しく問われる。その反面、トップダウンによる劇的な変化を求めれば、学内の不協和音が一気に噴出しかねない、という危険もはらむ。学内の合意形成をはかりつつ、指導力を発揮して大学を切り盛りするという困難な課題に、大学トップは直面している。


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