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2007年9月25日

北陸大教授2人解雇問題、地方で経営環境悪化

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2007/09/20070924ddlk17100329000c.html

 ◇大学全入時代、私大教職員に警戒感
 定員割れによる学部再編で「担当科目がなくなる」として今年2月、北陸大(金沢市)の教授2人が大学側から06年度末での解雇を通知された。2人の仮処分申請を受けた金沢地裁は8月、大学側に地位保全と1審判決まで月35万円の支払いの命令を出した。大学志願者数が入学定員と同数以下になる「大学全入時代」は、今春から始まり、全国で定員割れが続出している。地方の私立大が抱える経営環境は厳しさを増している。日本私立大学教職員組合連合(東京都新宿区)は「今後、地方の私立大で収入が減るのは間違いない」として、同様の解雇に警戒感を持つ。【栗原伸夫】
 解雇通知を受けたのは田村光彰さん(61)とドイツ人のルート・ライヒェルトさん(51)。2人は担当授業の再開などを求めているが、大学側は解雇の姿勢を崩さず、10月には同大を相手取り本訴訟を起こす方針だ。
 決定書によると、田村さんは法学部で、ライヒェルトさんは外国語学部でドイツ語などを担当していた。大学側は00~03年に両学部の4学科で入学者の定員割れが生じたため、04年度から両学部を再編成。未来創造学部を新設し、ドイツ語科目を廃止した上で「担当科目が存在しない」として2人に解雇を通知した。
 しかし、仮処分決定で中垣内健治裁判官は、大学の経営状況について「教員を削減する経営上の差し迫った必要性はない。ドイツ語科目の履修を希望する学生もいる」と指摘。また「担当科目がないとする点について2人と協議がなく、解雇の手続きも相当ではない」とした。その上で「解雇は合理的な理由を欠く」として2人の主張を認め、大学側に地位保全と賃金支払いを命じた。
 文部科学省調査企画課によると、この10年で18歳人口は約32万人減少し、07年度は約130万人。日本私立学校振興・共済事業団の調査では07年度、全国の私立大559校のうち約4割に当たる221校が定員割れとなった。短大では6割以上で入学者が定員を下回った。北陸3県では私立大10校のうち5校、短大10校のうち4校が定員割れを起こしている。

 また、北陸大が定員割れを起こした00年からは、全国でも100以上の大学が定員割れとなる状況が続いている。定員割れ問題は地方でより深刻な状況。原因は少子化のほか、団塊ジュニア世代が大学生となった90年代の各大学の入学定員増、地方から東京や大阪など大都市圏の大学への進学傾向が強まったことなどが考えられるという。
 大学で定員割れが起きれば、大学財政へも影響が及ぶ。同事業団は「地方の私立大の存続のため、規模の適正化などを支援していく。教員削減の問題も必然的に生じてくるだろう」とする。私立大学教職員組合連合の三宅祥隆書記次長は「まだ深刻な状況ではない」としつつ、「今後の学生数減少で、生き残りに危機感を抱く地方の私立大が乱暴に教員を解雇する可能性はある」と話す。
 同連合の調査によると、学部廃止などを理由とする解雇が訴訟に発展したケースはこの1年で全国で5件。今年5月には、09年度末にも廃校となる見通しの東和大(福岡市)を解雇された教授ら12人が、運営する学校法人を相手に解雇無効を求めて訴訟を起こした。教授らは「財務状況は切迫しておらず、事業縮小には理由がない」と訴えている。
 増加する大学の定員割れ。大学の世界でも勝ち組と負け組みの格差がはっきりと生じてきた。今回の北陸大の解雇問題が、全国の地方の私立大に及ぶ可能性は否定できない。仮処分決定は、大学側が主張した解雇手続きなどを認めず、学校側の説明や手続きの不十分さが感じられた。
 田村さんらの弁護を担当する菅野昭夫弁護士は「本来は当事者間で解決されるべき問題」とする。北陸大教職員組合執行委員長の林敬教授は、「長年頑張ってきた2人を簡単に解雇できるのかというモラルの問題」と憤る。争いは10月にも本訴訟の場に持ち込まれるが、同大の中川幸一専務理事は「争うことはやむをえない」としている。法廷では大学側の解雇に至った経営判断などが再度、争点になりそうだ。


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