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2007年9月27日

歴史学研究会、沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール

歴史学研究会
 ∟●沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール

沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール

賛同者を募っています

第1次賛同者集約:2007年9月15日、第2次集約:10月10日

アピール

 2007年3月30日に2006年度高校教科書検定の結果が公表され、沖縄戦における強制集団死、いわゆる「集団自決」について記述したすべての日本史教科書に対して検定意見が付され、日本軍の強制・誘導・関与を示す記述がすべて削除されたことが判明した。その結果、「集団自決」が日本軍の命令や強制によるものではなく、あたかも住民の自発的な「自決」であるかのように記述されることになった。このような教科書の書き換えを強制した今回の検定は、沖縄戦についての長年の研究の蓄積をまったく無視し、合理的根拠を欠くきわめて恣意的なものであり、事実にもとづく教科書記述と歴史教育を求めつづけてきた私たちとしては到底容認できない。私たちは、文部科学省が今回の検定意見をただちに撤回し、著者・出版社による教科書記述の再修正を認め、2008年度には沖縄戦の事実を歪めることなく伝える日本史教科書が高校生に供給されるよう措置することを求める。そして、その実現のために、多くの方々が声をあげるよう訴えるものである。

アピールの趣旨

 沖縄戦における「集団自決」の悲劇は、沖縄県民にとって忘れることのできないものであり、そのため、この悲劇がなぜ、どのようにしておこったのかについては、体験者の証言をはじめさまざまな角度からの調査研究が進められてきた。その結果、住民が戦闘にまきこまれるなか、日本軍の「軍官民共生共死」という基本方針のもと、敵の捕虜になることの禁止が徹底され、軍が手榴弾を配付し、あるときは役場職員を介して自決指示を出したなどの事実が明らかになった。それにより、軍が直接住民にその場で自決命令を発したか否かにかかわりなく、「集団自決」がまさに日本軍に強制・誘導されたものであったことが明確になったのである。日本軍が存在しなかったところでは「集団自決」がおきていないこともそのことを証明している。第三次家永教科書訴訟の最高裁判決においても「日本軍の存在と誘導」が認定され、「一律に集団自決と表現したり美化したりすることは適切でない」とし、「県民が自発的に自殺したものとの誤解を避けること」が必要としたうえで判決が書かれている。こうして「集団自決」が日本軍の強制によるものとするのが通説となり、従来の多くの教科書はその通説に従って記述し、約20年にわたって検定意見が付されることなく合格してきたところである。

 文部科学省は、今回の検定意見を付すにあたって、2005年に大阪地裁に提訴された元隊長らを原告とする裁判での元隊長の陳述書を事実上もっとも重要な根拠にしているものとみられる。しかしその陳述書は「集団自決」にかかわる一方の当事者の主張に過ぎず、その主張の正否について学問的検証をへたものではなく、また、裁判においてもその正当性が認められたものではない。いずれにしても従来の通説をくつがえすに足る根拠となるものではない。これは文部省・文部科学省が、検定にあたって、係争中の裁判にかかわる事象について一方の側の主張のみをとりあげるべきでないとしてきたことや、通説を書くよう指示してきたこととも矛盾しており、自家撞着も甚だしい。 

 また、文部科学省が今回の検定で、軍の命令・強制はなかったとするのが通説だと主張し、複数意見の併記を求めるのではなく、いきなり文部科学省の主張するところに基づいて書けと指示したことも、これまでにない異常なことといわなければならない。これは、その後最近にいたって文部科学省側が軍の関与は否定しないと弁明していることとも矛盾する。そればかりでなく、文部科学省側の言明によれば、今回の検定にあたって実際は渡嘉敷・座間味の事例だけを念頭においたという。そしてそこでの軍指揮官の住民に対する直接命令の有無に問題を矮小化し、直接命令はなかったという一隊長の陳述のみを根拠に、それを沖縄戦全体のなかで軍の強制・誘導がなかったという結論に結びつけている。このことも、検定意見の根拠の無さを如実に示している。 

 さらに、沖縄県議会が二度にわたって検定撤回を求める意見書を採択し、県内41市町村すべての議会が同様の意見書を採択するなど、沖縄県民がこぞって今回の検定による教科書書き換えに対し怒りを燃やしている事実も、重要な問題を提起している。沖縄戦の体験と、それを継承している地域住民の切実な訴えが示している歴史的事実は、真摯にうけとめられるべきである。体験者でありその継承者である地域住民の証言と訴えが、検定という名の国家の力によって圧殺されることがあってはならない。 

 このような矛盾にみちた今回の検定の撤回を求める沖縄県民をはじめとする全国の市民の声を、文部科学省はかたくなに拒否しつづけている。文部科学大臣がいう唯一の撤回拒否の理由は、検定審議会が学問的立場から決めたことだから政治が介入できないというものである。しかし、この言い分も矛盾にみちている。この間、実は文部科学省の専任職員である教科書調査官が、検定意見の原案にあたる「調査意見書」なるものを作成していたことが明るみに出た。だとすれば検定意見は実は文部科学省自身が作成していたことになるのであり、誤った検定意見を撤回する責任は文部科学省自身にあるのであって、検定審議会を隠れ蓑に使って責任を回避し検定意見の撤回を拒否することは許されない。  

 ではなにゆえに、このような矛盾にみちた異例異常な検定を行うにいたったのか。それは、南京虐殺、「慰安婦」とならんで「集団自決」軍命令説の抹消を日本軍と戦争の美化のための三大目標にかかげる勢力が、2005年には大阪地裁へ提訴するなど周到かつ計画的な活動の上に立って、検定に対する政治的圧力をかけるにいたったことが原因と判断せざるを得ない。そのねらいは、軍隊は住民を守らないという沖縄戦の重要な教訓を抹殺し、戦争と軍隊への協力を国民に強制する体制をつくることにあると思われる。 

 私たちは、このような検定が撤回されることなくそのまま認められるならば、次のような取り返しのつかない結果につながるだろうことを危惧するものである。  

 第一に、私たちは現在の教科書検定制度が国家による教育内容の統制、ひいては国民の思想統制をもたらすものであるとして、これまでも批判しつづけてきた。これまでの運動によって多少なりとも運用の改善がはかられてきた面もあるが、今回のような検定事例が認められるならば、それが一挙に逆転し、恣意的政治的検定がいっそう横行するのを許すことになるのではないか。   

 第二に、教科書検定による教科書書き換えを通じて、事実にもとづく歴史学習が妨げられ、国家と軍隊に奉仕する国民づくりのための教育がいっそう推進されるのではないか。それは戦争への反省に立脚した日本国憲法の理念をないがしろにし、憲法改悪に導こうとするものではないかと懸念される。教育基本法改定と関連法案の成立によって、そのことがいっそう危惧される状況となっている。  

 したがってこの問題は、未来の教育と日本のありかたにかかわる重要な問題だと考える。よって私たちは、冒頭に述べたように、文部科学省ならびに教科用図書検定審議会が、検定意見の撤回とそれに伴う措置をただちにとることを強く求めるものである。  

 2007年  月  日

呼びかけ人
 安仁屋政昭 荒井信一 猪飼隆明 石山久男 伊藤康子 宇佐美ミサ子 大日方純夫 小牧薫 木畑洋一 木村茂光 鈴木良 高嶋伸欣 田港朝昭 中塚明 中野聡 長野ひろ子 永原和子 西川正雄 浜林正夫 広川禎秀 服藤早苗 藤井讓治 峰岸純夫 宮地正人 山口剛史 山田邦明 米田佐代子
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「沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール」賛同のお願い

上記アピールに多くの方々の賛同をいただき、賛同者のお名前、人数を含めて公表し、関係方面に送付したいと思います。賛同していただける方は、メール・FAXをお送りください。
第1次賛同者集約9月15日、第2次集約10月10日。

101-0051 東京都千代田区神田神保町2-2誠華ビル歴史学研究会気付 歴史研究者・教育者アピールの会
FAX: 03-3261-4993
e-mail: okiapi@yahoo.co.jp
FAX・e-mailの場合は、下記の書式をお使いください。

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「沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール」に賛同します。
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