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2008年2月18日

新副学長は「天下り」か否かで論議、一橋大で増設ポストに文科省OB

■「意見広告の会」ニュース440より

新副学長は「天下り」か否かで論議、一橋大で増設ポストに文科省OB

法人化 従属進む大学  天下り先? 批判の声
 国立大学法人・一橋大学(杉山武彦学長、東京都国立市)で昨秋、副学長ポストが増設され、後日、文部科学省OBが就任した。大学側は基金への募金活動と事務局改革に不可欠な人事と説明したが、一部の教職員や学生新聞は「天下りポストの増設」と反発した。旧国立大学の法人化から間もなく4年。全国で「天下り」や「(文科省への)従属強化」との批判がくすぶり続けている。 (田原牧)
 一橋大学は昨年十月、従来三人だった副学長を四人に増やすことを決定。十二月一日付で金田正男・前事務局長が新副学長に就任した。金田氏は文科省から派遣され、十一月末に定年を迎えた。後任の事務局長には従来通り、文科省から職員が派遣されてきた。
 金田氏の担当は募金・事務局改革。同大学では現在、二〇一〇年度までに目標額百億円の基金事業を進めている。ほかの副学長は理事兼務だが理事の数は法で定められており、同氏は兼務しない。任期は一応、現学長が退任する今年十一月までだが、その後は次期学長の判断いかんという。
 金田氏はいわゆる「キャリア」ではない文科省職員で、一橋大の事務局長には〇五年二月、就任。それまでに筑波大総務部長や教育大事務局長などを歴任してきた。 事務局長当時、成績の優秀な学生に奨学金制度を設けるといった同氏の手腕を大学側は評価、副学長への抜てきを決めた。が、この検討過程で「文科省からの新事務局長人事の打診が近づいている」といった学長の説明もあり、一部教職員の間では「天下りポスト新設で文科省にすり寄った」という声が飛び交った。

交付金削減で厳しい財政
 学生新聞の「一橋新聞」も昨年十一月、「大学の自主性を失わせ得る決定を、大学が自主的に下したということだ」と批判した。
 旧国立大学の財政は、法人化後も国からの運営費交付金に支えられている。しかし、「年間1%削減」の指針により、その台所事情は厳しさを増している。
 一橋大も〇五年度に六十二億円だった交付金が〇七年度には五十八億円に。このため、今回の人事について「非常勤講師の削減など現場は大変。募金目的なら同窓会の社団法人如水会に頼ればよい。なぜ、新たにカネのかかる副学長ポストを増やすのか」(ある教授)という不満が漏れた。
 ほかにも「実質の任期が明らかでないのは新副学長ポストを将来的に文科官僚の『天下り』先にするためでは」「(役員や旧学部長の研究科長らで構成する)教育研究評議会では副学長を五人にする構想が示された。もう一つの副学長ポストは研究科長らに今回の人事を承認させるアメではなかったのか」といった憶測も漏れ聞こえている。
 何より副学長人事は法人化後、学長に決定権が与えられ、教授会は反対する権限を失った。そうした「教授会自治の骨抜き」が教職員の不満を増幅させた。

山形大学長は前事務次官
 折しも昨年九月、山形大学では学長選の結果を学外委員も含めた選考委員会が覆し、新学長に文科省の前事務次官が就任。法人化後も国が交付金の配分や業績評価を握る中、その獲得に天下り構造が温存されているとの批判が渦巻いた。

「募金集め」と大学側は強調
 こうした学内の批判を一橋大当局はどううけとめているのだろうか。
 「事実は逆。断じて今回の人事は『天下り』ではない」と研究・総務担当の西村可明副学長は話す。
 「金田氏の副学長就任は大学側主導で、文科省は打診すらしてきていない。定年後、民間からも誘いのあった金田氏にお願いして引き受けてもらった」 西村氏は国の交付金が減額される中で、募金は教育の発展に不可欠であり、金田氏がその準備段階から携わってきた経緯を説明。「外部に募金をお願いする際、事務局長より副学長の肩書きの方が有利」と述べた。
 副学長ポスト増設の経費も「従来の役員経費の枠内でやりくりする。彼の力で募金が集まれば、副学長ポストに一定額を費やしても余りある」と強調する。
 「彼のポストは募金と事務局改革のためで、その仕事が終われば必要ない。天下りの受け皿になることはない。他大学でも事務系副学長はもう珍しくない。もう一つの新副学長ポストは次の中期計画策定のためで教員系から人をあてる」教授会の意向が反映されない不満については「気持ちは分からないではない」としながらも「トップダウン方式は国の方針。その考えは古い」と反論した。
 ただ、今回の金田氏の人事への反発を促す状況もあった。〇六年三月の衆院文部科学委員会で文科省職員の大学への「天下り」問題が取りざたされた際、前任の奈良教育大理事から十カ月で一橋大に転任した金田氏のケースが実名で取り上げられたからだ。
 また、OBで如水会会員の一人は「校歌に『自治の鐘、自由の殿堂」とうたわれた一橋の在野精神はどこに行ってしまったのか。かつては学生や教職員に学長候補の除斥投票権すら与えられていた。リベラルな校風はもはや失われてしまったのか」と憤慨した。
 一方、杉山学長は学生新聞の編集部員らに「教授たちの反発はあまりない」と説いたという。このため、部員らは大学に教授会議事録の開示を請求したが、大学側は昨年暮れ、「率直な意見交換ができなくなる」と、この請求を却下した。 別の教授は今回の人事をこうみる。「金田氏はキャリア官僚ではなく、文科省から予算を導くための単純な『天下り』ではないかもしれない。とはいえ、このポストを簡単に一代限りで廃止できるだろうか。今後、天下りポストに転じる懸念はやはり尽きない」

87校中60校役員にOB
 一橋のケースはともあれ、法人化後に文かょうの〃介入〃が逆に強まっているという根拠はある。文科省によると、役員に絞っても全国八十七校の国立大学法人のうち、六十校に文科省出身者が在籍している。
 衆院調査局の調べでは〇六年四月一日現在、中央省庁が所管する四千五百以上の公益法人に国家公務員約二万八千人が天下り、国の補助金や業務契約の総額の六割にあたる六兆円がこれらの法人に流れていた。省庁別では、文科省所管法人がそのトップだった。
 国立大学の法人化では当初、文科省による統制が解け、自由度がアップするという建前が語られた。しかし、現実には予算に直結する業績評価は「文科省が思っている方向でやらないと評価されないむ「授業や研究より評価の書類を作る業務に追われている」(別の教授)現実がある。

「多幸の追随ないか心配む
 この間、大学の法人化問題を追い続けてきた東京外国語大学の岩崎稔教授(哲学)は次のように語る。
 「法人化の際、独立より従属強化になると危惧する指摘があったが、現実になっている。いまや大学が自主的に文科省の意図を推し量り〃貢ぎ物〃を用意している。当人の能力を評価したにせよ、一事務官のために副学長ポストを準備した一橋大の判断はいかがなものか。他大学が追随しないか、それが心配だ。


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