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2008年3月12日

横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明

横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明

横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明

1 横浜事件第3次再審請求は、再審公判第一審の免訴判決(横浜地方裁判所2006年2月9日判決。公刊物未登載)及びそれを支持した控訴審判決(東京高裁2007年1月19日判決。判例タイムズ1239号349頁)に対する上告審が、現在、最高裁判所第2小法廷に係属している。

 私たちの有志は、戦時下最大の言論弾圧事件、あるいは戦前の司法の諸悪を凝集した事件といわれる横浜事件の持つ歴史的、社会的意味にかんがみ、また、法的にも救済の必要が痛感される事件であることにかんがみ、司法自らがこの事件と誠実に向き合うことの必要性を痛感し、これまでも「横浜事件の再審開始を求める研究者声明」(2002年12月18日)、「横浜事件再審控訴審判決に対する法学者有志の緊急声明」(2007年1月19日)を公表してきた。

 前者においては、共産主義運動という事件自体の不存在、拷間・強制による事件の捏造、治安維持法自体の悪法性に加えポツダム宣言受諾後に同法を適用することの不当性、請求人らの名誉回復の不完全性を、後者においては、このような事件の性格を省みることなく、有罪判決確定後に治安維持法の廃止と当該事件に対する大赦の措置があった事実のみを根拠とし、請求人側の主張を聞く姿勢を欠いたまま、再審裁判所が免訴判決を言い渡し、それを支持したことの不当性を指摘した。

 私たちは、ここに改めて本件の問題を指摘し、最高裁判所の慎重な審理、それを踏まえての口頭弁論の実施、そして原判決の破棄を求めて本声明を公にするものである。

2 再審一・二審判決は、再審公判が「審級ニ従」って審判されるとの文言(旧刑事訴訟法511条)を唯一の根拠に、再審公判も通常審の公判とほぼ同等の手続であるという論理を取り、それ故に訴訟条件たる免訴規定についても、原則として再審公判にも当然適用されると判断した。その上で、いわゆるプラカード事件最高裁判決(最大判1948年5月26日刑集2巻6号529頁)を引用し、通常審と同様、再審公判でも訴訟条件事由の判断が実体判断に先行することを前提に、免訴事由の存在を根拠に免訴判決を言い渡した。

 しかし、訴訟条件事由に関する判断が実体判断に当然に先行するかについて、少なくとも、無罪判決を言い渡しうる程度に審理が熟しているような場合、実体判断を先行させることは許されるとの見解も、現在ではきわめて有力である。従って、訴訟条件判断が実体判断に先行すべきことは、必ずしも白明とはいえない。

 その上、仮に通常審では訴訟条件事由の判断を実体判断に先行させるべき必然性があるとしても、再審の場合、確定後救済手続であるという特殊性への考慮が必要である。
 すなわち、再審は、一応は適法と考えられる公訴権の行使に基づき、適法に成立したと考えられる確定判決にっき、その誤りを証明する新規・明白な証拠が発見されたことを理由に確定力を破棄し、公判を再開する手続である。従って、公訴権行使の適法性がなお未確定の状態にある通常審とは全く事情を異にする。

 しかも、再審は、誤った確定有罪判決を受けた請求人を救済するための制度であり、そのために二重の危険の利益を放棄して再度の事実認定を求めることを請求人に許容した制度である。従って、再審において優越されるべき利益は、誤った確定有罪判決からの救済に向け、請求人に改めて当該事件の実体に関する主張・立証を許容することに他ならない。 そして、形式裁判でも有罪判決を免れるという被告人の具体的利益を観念しうる通常審と異なり、再審において訴訟条件事由を根拠に実体判断を拒むことは、国家の一方的な都合で請求人の実体判断の主張に対する利益を奪うに等しく、請求人の裁判を受ける権利(憲法32条)の観点から見て、重大な問題を孕んでいるというべきである。

 かかる再審の特殊性を看過し、再審公判が審級に従うとの法形式のみを根拠に、再審公判でも訴訟条件事由が当然適用されるとして免訴判決を言い渡し、またはそれを支持して控訴の利益なしというのは、余りにも法の形式的側面のみを見て実質を見失ったものといわなければならない。

3 横浜事件は、戦後の一連の歴史研究が明らかにし、私たちの有志もすでに指摘し、さらに、本件即時抗告審である東京高裁2005年3月10日決定(判例タイムズ1179号I37頁)、横浜地裁1949年2月25日、同控訴審たる東京高裁1951年3月28目判決、同上告審たる最高裁1952年4月24日判決(いずれも公刊物未登載)など、裁判所自体が当時の特高警察の拷間の事実を認定したことにも表われているとおり、特高警察官の拷問によるフレーム・アップであり、事件の実体の存在自体がきわめてあいまいな事件であった。

 このような観点から見たとき、本件は、すでに無罪の実体判決を言い渡しうる程度に、機が熟している。のみならず、無罪判決を言い渡してこそ、帝国憲法の下においてさえ、議会内外で激しい反対論が展開され、「憲法の精神に戻る〔ママ〕ことの最も甚しいもの」で「現代立憲政治の下において、世にも稀な悪法」(美濃部達吉)と批判された治安維持法の負の遺産を司法自らの手で清算し、その犠牲者に対する救済を全うすることができ、歴史への責任に応えることとなるのである。

 以上の点を踏まえ、私たちは、最高裁判所が、本件一・二審判決のような形式的判断にとどまることなく、口頭弁論の実施を通じて請求人の主張を直接受け止め、それを踏まえて原判決を破棄することを改めて求めるものである。

2008年2月28日

横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明賛同者
荻野富士夫(小樽商科大学教授)発起人
奥平康弘(憲法研究者)発起人
小田中聰樹(東北大学名誉教授)発起人
村井敏邦(龍谷大学法科大学院教授)発起人
渡辺 治(一橋大学教授)発起人
愛敬浩二(名古屋大学教授)
赤池一将(龍谷大学教授)
足立昌勝(関東学院大学教授)
生田勝義(立命館大学法科大学院教授)
石埼 学(亜綱亜大学准教授)
石塚伸一(龍谷大学法科大学院教授)
伊藤 睦(三重大学准教授)
上田 寛(立命館大学教授)
上田國廣(九州大学教授・弁護士)
上田信太郎(岡山大学法科大学院教授)
大久保 哲(琉球大学教授)
大出良知(東京経済大学教授)
大野友也(鹿児島大学准教授)
岡田行雄(九州国際大学准教授)
小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授)
川崎英明(関西学院大学教授)
葛野尋之(立命館大学教授)
小松 浩(神戸学院大学教授)
小山雅亀(西南学院大学教授)
近藤 真(岐阜大学教授)
斉藤豊治(大阪経済大学教授)
佐々木光明(神戸学院大学教授)
清水雅彦(明治大学法学部非常勤講師)
白取祐司(北海道大学大学院教授)
新屋達之(大宮法科大学院大学教授)
高倉新喜(山形大学准教授)
高田昭正(大阪市立大学教授)
田村武夫(茨城大学教授)
塚田哲之(神戸学院大学教授)
恒光 徹(大阪市立大学教授)
冨田 真(東北大学准教授)
豊崎七絵(九州大学准教授)
中島 宏(鹿児島大学教授)
中山研一(京都大学名誉教授)
成澤孝人(三重短期大学教授)
新倉 修(青山学院大学法科大学院教授)
庭山英雄(元専修大学教授・弁護士)
福島 至(龍谷大学法科大学院教授)
渕野貴生(立命館大学法科大学院教授)
前野育三(関西学院大学名誉教授)
松宮孝明(立命館大学法科大学院教授)
三島 聡(大阪市立大学教授)
水谷規男(大阪大学法科大学院教授)
宮本弘典(関東学院大学教授)
村田和宏(立正大学専任講師)
本 秀紀(名古屋大学教授)
森 英樹(龍谷大学教授)
吉田正志(東北大学大学院法学研究科教授)
計53名(2008年2月27日現在)

下記は,「意見広告の会」ニュース443より

案内 横浜事件第三次再審裁判の最高裁に対する市民声明と署名

横浜事件の再審を実現しよう!全国ネットワーク

 横浜事件の再審について、最高裁は「免訴」の決定をしようとしています。これでは被害者にたいする「有罪判決」は覆されず、被害者の人権は回復されません。加害者である警察・検察・司法の罪も明らかにされません。判決は3月14日に迫っています。
 ぜひ、下記の声明にご賛同ください。

*詳しくは下記HPをご覧下さい。
http://members.at.infoseek.co.jp/yoko_hama/main.html

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横浜事件第三次再審裁判の最高裁に対する市民声明

 地球上では戦火が絶えない。
 わたしたちは日本政府が悲惨な大戦の加害者であったことを、国内外の市民に対して多大な損傷を与えたことを、知っている 。その戦争は多くの人の考えや声や夢を封殺しておこなわれた。その時に権力の近くにあったものや、指導的立場にあったものには責任がある。

横浜事件は、拷問により虚偽自白をさせ、言論を弾圧した。人々は戦争へと駆りたてられた。わたしたちは憲法の前文、憲法の条文にあるように不戦の誓いをし、平和を希求している。
その姿勢を確認するためにも司法は、過去に加害者となった悲惨な戦争について深く反省しなければならない。言論を弾圧したことを、不当な不正義な戦争へと人を駆りたてたことを。

司法がその正義を具現化し、世界に向けて不戦の意志を示し、平和に絶対的な価値と尊厳を抱いていることをあきらかにするためにも、最高裁判所は横浜事件再審判決において原判決を破棄し、無罪判決をすることを強く求める。

2008年3月4日
横浜事件の再審を実現しよう!全国ネットワーク

「横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明」は以下
http://members.at.infoseek.co.jp/yoko_hama/20080228seimei.html
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「横浜事件第三次再審裁判の最高裁に対する市民声明」に賛同します

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