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2008年3月19日

横浜市立大学、学長の要件「高潔な人格」―市大顧問とは―

学問の自由と大学の自治の危機問題
 ∟●『カメリア通信』第55号(2008.3.17)

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横浜市立大学の未来を考える
『カメリア通信』第55号
2008年3月15日(不定期刊メールマガジン)
Camellia News No.55, by the Committee for Concerned YCU Scholars
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学長の要件「高潔な人格」――市大顧問とは――

国際総合科学部 一楽重雄

4月からの学長に布施勉氏が選考された。大学の学長とは、呼んで字の如く大学のトップである。市大の場合には別に理事長がいて学長は副理事長に過ぎない。したがって、大学経営という意味では学長はトップではなくナンバー2である。一般に理事長は経営面に責任を持ち、学長は"教学"に責任を持つと言われる。そのとおりであろう。教育・研究面についての責任者は学長であり、学長は「学問の何たるか」が分かっていることが第一の条件であろう。研究・教育を主体的に担うのは教員であり、事務局はそれを支えるのが基本であろう。この観点からは、学長は教員全体をまとめて、そのトップとして大学運営を行わなければならない。
学長選考等規程第3条には、
 「人格が高潔で、学識が優れ、かつ本学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者」と書かれている。「人格が高潔」とは具体的にどういうことか。それは一言で説明できるものではないだろうが、少なくとも地位やお金にしがみつくようなことは高潔とは言いがたい。
 学長選考の際の履歴書には記載されていないが、布施氏は「市大顧問」という肩書を一時使用していた。大学の顧問というのはこれまで聞いたことがない。そこで、実際にはどういうことであったのか、大学当局に問い合わせてみた。その結果これまでにも指摘されていたことではあるが、いくつかの疑問が浮かんできた。
判断は読者にまかせるとして事実関係を中心に報告しよう。
 そもそも、大学顧問というものが制度としてあるものなのか聞いてみたが、予想どおり制度として顧問というものがあるわけではなく、その場の必要に応じて顧問契約をしたもの、ということであった。無給か有給かは重大な点だと思う。もちろん、無給であれば人格高潔に抵触することはまったくない。有給であっても、ただちに「高潔」でないとは言い切れないとは思う。しかし、有給であるとすれば、大学にとって本当に必要性があったのか、また、それに値する相談内容、勤務実態があったのかは問題となるであろう。
大学当局からは、さらに次のような説明を受けた。
1.大学の顧問は、平成18年4月1日から5月30日まで委嘱していた。当初は1年間を予定していた。
2.相談内容は、以下のとおり。
 イ.大学院の再編
ロ.ハラスメントなどの懲戒処分等に関する法的アドバイス
ハ.外部資金獲得に向けてのアドバイス
ニ.その他
3.勤務と給与
 イ.勤務は週3日、火木金、1日3時間程度
 ロ.給与額は法律の専門家としての世間相場をもとにした単価によって計算した額を月額として支払った。

なお、布施氏は5月31日から横浜市の監査委員となっている。布施氏のあとには、大学として顧問を委嘱したことはないとのことであった。給与の正確な額はプライバシーに触れるからということで教えてはもらえなかった。しかし、法律の専門家としての世間相場ということであれば、弁護士に30分相談すると5000円である。したがって、その単価で計算すると月額36万円ということになる。これは正確ではないかもしれないが、そう大きな狂いはないはずである。結構な額である。
大学当局の説明では、上のような問題を相談するのに「法律の専門家であること」、「学内の事情が分かっていること」により、お願いしたとのことであった。そして、出勤簿管理もきちんとしていた、とのことであった。
 法律的、あるいは、外形的には何も問題はないのかも知れない。しかし、教員仲間の目で見るといくつか疑問が沸く。
まず、前例のなかった大学顧問というものを置く必要性がどの程度あったのか。本当に週3回、1日3時間も相談する内容があったのか。もちろん、相談には複数の職員が関係していたかも知れないが、そう何人もが入れ替わり立ち代りというのも考えにくい。とすると、そんなに長時間かかわっているほど市大の職員はひまだったのだろうか。皮肉でなくて、本当に疑問に思う。
法律の専門家と言っても、ご存知のように布施氏の専門は国際法である。それも海洋法が専門である。確かに学内事情は分かっているかもしれないが、処分に関する法律相談に適任であろうか。市大に法学部はない。しかし、国際法でいいなら他にも現役の先生がいらっしゃる。それも海洋法ではなく人権法の専門家である。その他に国内法では、民法、会社法などを専門とする先生もいらっしゃる。これが第2の疑問である。
相談内容から見て、当初予定した一年間も必要であるのだろうか。これが第3の疑問である。
 
大学の非常勤講師の給与は大体1こま3万円くらいである。したがって、この顧問料でおよそ10コマ分は頼むことができる。ひとりの顧問より10人の非常勤講師のほうが大学のためになるように思うのだが、どうだろうか。
 学長に限らず、大学幹部は本当に「人格高潔な人」がなって欲しいと思う。私はこれまで抽象的な学長選考規程などあまり意味のないもののように思っていたが、そうではない。ただ、その規程を生きたものにするか、単なるお題目にしてしまうかが問題なのだと思う。
果たして、今回の選考会議はこの規程を生きたものにできたのだろうか、私は疑問に思う。

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編集発行人: 矢吹晋(元教員) 連絡先: yabuki@ca2.so-net.ne.jp
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