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2008年04月30日

横浜市立大学教員組合、大学の問題点に関する教員組合声明

横浜市立大学教員組合
 ∟●「教員組合週報」2008.04.28

●学長と会見し、「大学の問題点に関する教員組合声明」を手渡しました

 4月23日(水)午前10時からおよそ1時間30分、榊原執行委員長と高橋書記長が、4月から新しく就任した布施勉新学長と学長室で会見しました。
 学長からは、地方自治体の監査制度の改革により、外郭団体も含め、監査の際に会計だけでなく業務の意義も問われるようになったこと、また、地方分権の推進に伴って公立大学に自治体のシンクタンク的役割が求められるようになることなどの話がありました。本学に関しては、次期中期計画作成のための検討をはじめること、経営からの教学の分離が一定程度必要であること、テニュア制の検討の必要性について話がありました。
 ところで、「経営からの教学の分離」については、国立大学法人法においても教学と経営がそれぞれ教育研究評議会と経営協議会によって担われており、伝統ある有力私立大学では教学と経営の分離が確立していることからすればあまりにも当然のことです。しかし、法人化後の本学では、これまで一般教員の意見や思いが「経営」に蹂躙されてきました。昇任人事については、まさに「経営判断」という文言で希望が拒絶されました。
 もっとも、本学の場合、市職員は行政は知っていても経営の知識や経験はないので、「教学と経営の分離」ではなく、「教学と行政の分離」と言うべきでしょう。独立行政法人化は本来、組織特有の目的を効率的に実現するために、行政から組織上切り離すものです。したがって、大学の「経営」者には、教育や研究についての専門的知識と、それをふまえた経営マインドが必要なはずです。国立大学や有力私学の経営陣はふつうそれにふさわしい識見を有していますが、そのような経営陣に対しても、教育研究面では教学が独立しているのです。大学の教育・研究も経営も知らない「行政」が本学の組織運営の実権を握って、教学側の主張に聞く耳を持たないのであれば、法人化の趣旨に逆行するものです。
 なお、教員組合からは、主に任期制の問題、TOEFL(PE)の弊害を強く指摘し、下記のような「大学の問題点に関する教員組合声明」を手渡しました。
 

大学の問題点に関する教員組合声明

横浜市立大学教員組合

 横浜市立大学は、2005年4月の法人化の際に、教育組織、管理運営組織とも大幅に変革されました。法人化の際の変革に対して、旧各学部教授会や教員組合から様々の反対声明が出されましたが、教員の反対を押し切って「改革」が強行されました。
 法人化から3年を経て、強引な「改革」による様々な弊害が明らかになっています。教員組合の主な目的は労働条件の維持向上ですが、大学教員の組合である以上、学生の教育に大きな問題が生じ、時がたつにつれて深刻化していることに、大きな憂慮を抱かざるを得ません。
 カリキュラムや非常勤講師を含む教員人事に関する権限が教授会から剥奪されたため、大学教育の改善のために、教員ができることがらがきわめて乏しくなりました。そればかりでなく、教員同士で大学のカリキュラム等の改善策を話し合って決める場も、公的には失われました。
 教員の中から代表者を選んで組織する教員組合が、今や教員の意見を集約してアピールできる希少な組織になってしまいました。
 そこでこのたび、教員組合は、現在の学内における問題のうち、多くの教員が共通して憂慮していることがらをまとめました。問題は様々ですが、学生教育と教員人事に関するもので特に深刻なものを以下に列挙します。
当局に対して、これらの問題の改善を強く要望するとともに、問題の解決のために、一般の国立大学や伝統ある有力私立大学と同様の権限を教授会に復活させることを要求します。

1)TOEFL、PE 
 この問題は、学生の精神状態に悪影響を及ぼしている。留年、仮進級した学生の中に、徐々に大学に来なくなるケースが少なからず見られる。
 留年した場合、奨学金の支給を止められるので、自宅外学生の場合は、勉学を続けていくことが経済的に困難となる。
 PEに合格した学生の場合でも、英語の勉強に時間的・精神的に追われて、充実した生活を送れなかったという者も少なくない。
 学生中心と言いながら、学生に不安を与え、学生の大学生活に過度の負担を強いている。
 TOEFLなどPEの合格者が8割にしか至らなかった。3年生段階で2割の学生が留年となることは異常であり、早急に改善を必要とする。 

2)カリキュラム
 新学部のカリキュラムでは、専任教員の減少、非常勤講師の削減、演習の増加等々の事情により、学生が履修できる講義科目が減少している。
 「副専攻」制度を標榜しているが、副専攻の演習をとることができないのでは「副専攻」とはいえない。
 同一コースで20単位以上修得しなければ副専攻コースの科目の単位が卒業単位にならないために、学生が学びたい授業をとれるようになっていない。
法人化以前はカリキュラムの編成を教員間の話し合いによって決めていたが、法人化以降、カリキュラムの決定に教員の意見が反映されなくなったため、学生の要望に応じて科目を新設・変更することがほとんどできなくなっている。
 各コースのカリキュラムは、ゼミなどで学生と日々接触して、学生の意見やニーズを日常的に把握している教員の意見に基づいて編成されなければならない。共通教養会議も含めて、カリキュラムは、授業担当者が参加するコース会議で決めるべきである。

3)人事
 任期制教員は雇い止めになる不安が大きく、安心して教育研究ができない。
 任期制に同意しないと昇任させないという方針をとっているため、優秀な教員の他大学への流失が続出している。
いつまでも任期雇用をくり返すシステムのため、教員が定着しにくく、優秀な教員が他大学に転出していく。
 新採用教員を任期制で募集するため、すでに任期のないポストに就いている他大学・研究所等の優秀な教員が応募するケースが極めて乏しくなっている。
 定年退職教員、転出教員の後任の補充が少ない。
 文科省に届出た科目すら担当者がいないまま何年も放置されているケースが少なくない。
 大学教員の教育研究業績は、当該学問分野に関する専門的な学識を持つ人間でなければ評価できないにもかかわらず、本学における採用、昇任人事の決定には、そのような力量をもたない者が関与している。

4)教員評価制度
 大学教員に対する評価制度は、一部の大学で試行・導入が始まっているが、本学の場合は、任期の更新とかかわるため、他大学の制度を安易にまねたものを導入することは許されない。
 教員の職能成長のための評価制度と、給与・処遇のための評価制度とは別物である。
 法人化以前から大学に勤務していた教員に対して、法人化の際、「普通にやっていれば再任される」といって任期制に同意を求めたのであるから、本学人事当局は「普通にやっていれば再任される」人事システムを構築しなければならない。
 他大学の場合、一次評価者である学部長は学部教授会が選出し、2次評価者も教授会から選ばれた代表者によって選出される。しかし、本学の場合、学部長、研究科長、コース長とも、教員の意向を反映することなく任命される。したがって、本学において教員評価制度を実施した場合、本来の目的からかけ離れ、長のパワー・ハラスメントの装置として機能する危険性、自由闊達の雰囲気を抑圧する恐れが大きい。

5)大学運営
 学部長、コース長に、同じ人物を上から選任し続けることは問題である。
学部長、コース長は、教員の選挙によって選出すべきである。学長の選考も教員全体の意見をふまえて行うべきである。
 あらゆる組織には、チェック・アンド・バランスのシステムが必要であるが、本学ではそれが存在あるいは機能しているとは言えない。
教員人事、カリキュラムなど教育研究に関するものは、教員間で協議し、情報を共有して、教員主体で決めるべきである。
 法人化後、大学における意思決定が少数の関係者だけで行われるようになるとともに、教職員が関連の情報にふれる機会が乏しくなった。意思決定手続きの公開性・透明性を徹底し、だれがどのような権限と責任にもとづいていかなる決定を行ったかが教職員に明確にわかるようにせよ。


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