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2008年07月01日

北陸大学、「薬学部の苦しい教育の状況は理事会が招いた」

北陸大学教職員組合
 ∟●教職員組合ニュース271号(2008.6.11発行)

薬学部の苦しい教育の状況は、理事会が招いた

 薬剤師国家試験の合格率は大幅に低下した。今回受験の卒業生は大幅定員増によって530人もの学生を入学させた学年であったから、合格率の低下は入学時点から予想されていたことであった。したがって、低下はしたものの、寧ろ、よく踏み止まった、学生も教員もよく頑張ったと評価すべき水準ではある。

 この突然の定員増は経営側の判断であった。おそらく教員は誰一人望まなかったであろう。教員を増やさず学生のみを増やすのは教育の効果を考えれば暴挙であるからである。当時喧伝された「量的拡大をもって質的向上を目指す」などということは、こと教育の場ではあり得ないことであり、世間の失笑を買うほかない妄言だからである。縮小した文系学部の余剰定員を理系の薬学部に移すなどということは、理系の教育現場では考えられない非常識であった。それでもこの4年間、大所帯の学生の教育に誰もが必死で取り組んできた。しかし、その結果がこの合格率である。定員増で教育も混乱した。教員は疲弊しきった。今年度は560余名の4年生に加えて国試不合格者200余人の教育にも心を配らなくてはならない。これまでは本学には父兄が子弟を託すに足る実績があった。他ならぬ教職員が築き上げてきたものである。今回は世間をしてその信頼を一挙に揺るがすことになった。無茶な定員増に走った経営判断の責任は重い。

 2008年度の薬学部入学者数は215名で充足率は70%となった。この入学者減は厳しい。何故、このような志願者減となったのか。私立薬学部数の倍増と6年制化は大きな理由だろう。地方大学という側面もあるだろうが、理由はそれだけにはとどまらないだろう。

 大幅定員増と「量的拡大をもって質的向上を目指す」というキャッチフレーズに無責任で金権的な経営体質を感じ取った父兄は多かったであろう。また高校の進学指導者は国試のランキングが低いにもかかわらず更に大幅に学生を増して、さらなる国試の合格率低下が危惧される無節操な大学と受け取ったのではないか。国試の結果を見る限り、父兄や進学指導者の観測は正しかったようだ。

 2007年度から全国の全ての高校を指定校とした。実質、入試の無試験化である。これも経営側の一方的判断であった。その結果、同年の志願者倍率がほぼ1、今年度は上述のとおりである(共に薬学部)。全国の高校を指定校にしたことは、「そこまでしないと学生が集まらないのか」との印象を人々に抱かせてしまったであろう。「経営が危ないのか?」、「卒業の6年先までもつのか?」と。経営が危なかったわけではなかろうが、安易な受験生集めをしたためにこのような心証を与える愚を犯したのである。果たして、そこまでして学生を集める大学に自らの子弟を心配せずに送り込む親がいるだろうか。ダメ押しをするように、定員割れがほぼ確実となった本年3月には入学を勧誘するダイレクトメールを発送したという噂がある。これこそまさに経営不安観測を自ら誘発し、一旦入学を決めた学生にすら先行き不安で入学辞退をさせかねない行為ではなかったか。学生募集という目的に逆行することになる影響について、理事会はどれだけの議論をしたのであろうか。

 どの大学でも、優秀な学生の確保に知恵を絞っている。優秀な学生の確保は、薬学部では国家試験の合格率を上げる観点からとりわけ大切であるが、教育の効果の向上だけではなく、卒業生の社会的評価の向上にもつながる。このことは長い目で見て大学の基盤を固め、当然の帰結ながら経営の安定にもつながるのである。

 全国指定校化について、マスコミには驚いたような声が散見されたが、それは本学を選択する声ではなく、切り捨てた声でもあったであろう。間違っても、「一定の理解が得られた」などと解釈すべきではない。また、学内には「もし実施しなかったら入学者がもっと減っていたかも知れないのだから、この判断は正しかった、あるいは間違いとは言えない」と、経営判断を擁護する主張があるそうである。しかし、この論理は既に消去され検証不可能な選択肢を引き合いに出す詭弁であるだけでなく、本学を選んだ学生に失礼である。全国指定校化をしなかったら受験生はもっと気持ちよく本学を志願したかもしれない、との逆の判断もある筈である。

 さらに「秘伝のタレ」に至っては誰もがインチキなキャッチフレーズと感じるのではないか。凋落傾向の国試合格率を見れば察しはつくし、そもそも教員が考案したものでもないであろう。大学選びは真剣なのである。具体的な根拠を欠く秘伝のタレでは魅力を感じようもなく、若者の琴線に触れることはできない。そればかりか、「タレ」をかけられることになる彼らが、不快感をもつことはないか、反発から彼らの心を遠ざける結果にならないか。

 18歳人口が多かった時期の大学の経営は楽であったようだ。誤った判断をしても受験生が押し寄せた。したがって、経営の力量は問われず、貢献度がゼロでも馬脚を現さずに済んだ。この間に大学を取り巻く環境は大きく変化し、ここに来て経営の力量が強く反映されるようになった。本学では、受験生、父兄及び進学指導者を敬遠させる策を選択してきたように見える。その結果が現状であろう。本学の経営に評価すべきはあったのか、取るべき責任はないのか。正当な評価と、陋習を絶つ抜本的改革を緊急に行うべき時に来ている。

 平成19年度の賞与は、薬学部の定員割れと国試合格率の不振を反映して、合計で0.6ヶ月の減となった。毎年の連続減額の合計はこの数年間で3.0ヶ月分に達する。一方、役員報酬は理事長のみ増額されたという噂がある(組合ニュースによると団交での質問に対してその事実は否定されなかった)。国試の不振も定員割れも、根本的な原因は理事会、経営側の方針の誤りにあることは明白だ。それにもかかわらず、教員の賞与を減額したのは、責任を教員に転嫁したことなる。このような無自覚無責任無節操な経営では、この先、失地挽回のチャンスはあるまい。我々には学生と卒業生の為に大学を守る責任がある。それ故、このような経営者と心中はできない。今や生活の糧すら脅かされているが、この事態を招いた責任を追求できる主体は組合をおいて他にない。全教職員の力を結集して緊急に経営刷新に取りかかるべきである。先日、韓国起亜自動車の社長は代表権を返上した。労組の協力を得るためだそうである。起亜は起死回生に成功するであろう。「信なくば立たず」とは孔子の言葉である。


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