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2008年09月16日

大学評価システムを評価する

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 ∟●大学評価システムを評価する

大学評価システムを評価する

佐賀大学理工学部 豊島耕一
2008年9月9日
メールリスト「高等教育フォーラム」に投稿

要約

 現在行われている国立大学評価システムは,法人法の国会審議の段階で指摘されたように違憲の制度であり,その弊害が出始めた今日,これを法廷に問うべきである.また,評価機構の長が問題人物であったり,審議機関のありかたにも問題がある.このような評価機構そのものに対する「評価」を同時進行させる必要がある.国立大学は,授業料の大幅引き下げと,そのための運営交付金の大幅増額を掲げることによって,格差社会是正という「社会貢献」ができる.

目次

1.現行の評価システムの違憲性
2.評価機構の実態について
3.「評価」と予算配分や大学再編とのリンクに合法性があるのか
4.評価への対応について
5.違法行為に対する評価は?
6.いま最も重要な大学の「社会貢献」とは?
 関連法律,註

はじめに

国立大学の「中期目標」の期間が終わりに近付き,「評価機構」の評価を受ける時期を控えて,各大学は関係文書のとりまとめや評価への対応で忙しい.しかしこの「評価」なるものがその名に価するものかどうか,そして,自己暗示的に口にされる,評価に連動する予算配分なるものがどういう法的根拠を持つものかを明らかにすることが重要だ.いわば,評価システムとその評価行為そのものの“評価”が必要だ.

1.現行の評価システムの違憲性

現在の国立大学の評価システムの法的根拠は次のようなものとされる.すなわち,国立大学法人法35条は独立行政法人通則法34条の準用と読み替えを規定しており,その通則法には「独立行政法人は,中期目標の期間における業務の実績について,評価委員会の評価を受けなければならない」とある.読み替えを施した後の通則法の34条2項は次のようになる(すなわちこの文章が国立大学法人法となる).
「前項の評価は・・・独立行政法人大学評価・学位授与機構に対し・・・国立大学及び大学共同利用機関の教育研究の状況についての評価の実施を要請し・・・」

つまり「評価委員会」はいわばトンネル会社のようなもので,実際には「大学評価・学位授与機構法」が評価を実施することになる(同機構法の16条の2「業務の範囲」参照).

ところがこの法的枠組みと制度そのものが,学問の自由,大学の自治に照らして違憲の疑いがある.すなわち,
1)行政が大学を直接評価するシステムである.法人法9条は「国立大学法人評価委員会」が文部科学省の機関であることを規定している.
2)大学評価・学位授与機構の人事権は行政(文部科学省)にある.つまり,文部科学大臣が機構長や監事を任命し,機構長が評議員を任命する.

このような違憲性については,法案審議の際に国会で野党議員が指摘したが,その後も,評価機関が政府からの独立性を欠くという問題について櫻井充議員が2003年10月7日付けの質問主意書で取り上げている.
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/157/syuh/s157008.htm
(答弁 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/157/touh/t157008.htm

法律となり実施されたからと言って違憲性が消えるわけではない.むしろ,実害の発生によりこの問題を法廷に持ち込む根拠が成立したと言うべきであろう.

2.評価機構の実態について

機構長の木村孟氏は,「君が代・日の丸」強制で悪名高い東京都教育委会の委員長であり(2008年7月17日現在),石原都知事と並んでこの違憲行為,教育破壊行為の最高責任者である.また彼は,全国都道府県教育委員会連合会の会長でもあるので,最近問題となった大分県教員採用汚職事件と全く無関係というわけにもいかない.

評価機構の審議機関である評議員会の構成を見ると,ほとんどが学長など組織の長が占めている.これらの人々はそれぞれが重責を担っているはずであり,自由になる時間がそれほどあるとも思えない.実際,一昨年6月から今年の3月までの2年間に開かれた6回の会議についてその出席状況を見ると,委員20名のうち8名は(持ち回り会議を除く)出席率が5割を下回っている.東大総長,京大総長など5名はこの間に一度も出席していない(それでも何らかの報酬を受け取っているのだろうか?).毎回の会議も,6回のうち4回は出席率が50%以下であり,内規で認めた委任状でなんとか成立させているという状況である.
出欠表を次に置く.
 http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/UniversityIssues/hyouka/hyogiinkai.html
 ミラー http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/UniversityIssues/hyogiinkai.html
 エクセルファイル
各委員の,本務とこの委員会との間での「エフォート率」の配分はどうなっているのかを訊いてみたい.

このような,東京都の違法かつ反教育的な政策に責任がある木村氏をヘッドとし,エフォート率の低い審議機関でコントロールされる法人によって行われる「評価」に国立大学はさらされようとしている.国立大学は,単にこれをそのまま受け入れるというだけでいいのだろうか?特に,木村氏のような,東京都の教育破壊に責任がある人物が長であることを黙って認めていいのだろうか?

なお,文部科学省の「評価委員会」の議事録が,第19回(2007年4月6日)以後少なくとも5回の会議について1年以上にわたって公開されていない.透明性,公開性という点で重大な瑕疵がある.

両委員会について,その議事録の内容までチェックする余裕はないが,誰か第三者がこれを精査しなければならない.

……


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