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2008年10月27日

8大学工学部長会議声明

京都大学
 ∟●8大学工学部長会議声明

8大学工学部長会議声明

 近年の大学院博士前期課程(修士課程)学生を対象とした企業の採用活動の早期化と長期化、および就職前研修による拘束、ならびにそれに応じざるを得ない学生の時間的精神的拘束に対して強い危惧を抱き、ここに国立大学法人北海道大学、同東北大学、同東京大学、同東京工業大学、同名古屋大学、同京都大学、同大阪大学、同九州大学の大学院工学系研究科ならびに関連研究科の研究科長は、企業の行き過ぎた採用活動や就職前研修が是正され、大学院における教育研究が正常に推進される環境を取り戻せるよう強く要望いたします。

 過日平成20年7月9日の社団法人国立大学協会および公立大学協会ならびに日本私立大学団体連合会の会長から(社)日本経済団体連合会会長に宛てた「要請書」にもありますように、近年、大学院修士課程の学生に対する採用活動と当該学生の就職活動は修士課程第一学年の夏頃から始まり翌年の5月以降にまで及ぶ早期化と長期化に至っています。さらに、内定者に対する研修や課題付加による拘束も長時間にわたっています。修士課程で修めるべき講義や学生が生涯初めて経験する研究の導入時期と重なり、しかもその就職活動期間は修学期間の四分の一に相当する半年を上回る場合もあり、大学院の最も重要な教育研究を大きく妨げます。そればかりでなく、学生自身の修学意欲にも強く影響を及ぼし、さらには周囲の学生達の修学意欲に対しても少なからぬ動揺を与えており、大学院教育に甚大かつ深刻な影響を与えています。

 さらに、企業への就職のみならず博士後期課程(博士課程)への進学など、修士課程学生の進路選択肢は多岐にわたりますが、企業の早期の採用活動は学部卒業程度の知識と経験しか持たない時期にある修士課程学生に、民間企業以外の職業も社会をも十分に知らぬままに就職活動に身を投じさせ、進路選択の自由をも奪ってしまうことになります。つまり、民間企業の採用活動の異常な早期化は学生の進路選択を大いに狭めることになります。科学技術創造立国には、民間企業のみならず、大学、官庁、国公立機関など社会を構成するさまざまな場で高度科学技術人材が必要とされることは科学技術先進諸国をみれば明らかであります。欧米主要大学工学部から博士課程に進学する学生は概ね50%に及びますが、我が国では10%にも満たない状況が続いております。この状況が続けば、我が国の科学技術創造立国の基盤となる高度科学技術人材に著しい欠損を来たし、彼らが国を支える世代になる20年後には科学技術創造立国そのものが危ぶまれます。学生諸君には修士課程学生として必要な知識と研究経験を積ませ、就職活動は早くても修士課程第二年次の4月以降に始まるべきであります。また、就職前の研修等による学生の拘束は厳に慎むべきであります。

 人の育成には時間を要し、時間を戻してやり直すことはできません。民間企業の採用活動の異常な早期化と長期化がもたらす高度科学技術人材育成と国への悪影響は計り知れません。上記8大学の大学院工学系研究科ならびに関連研究科の研究科長一同、ただちに事態が改善されることを強く提言するものであります。

8大学工学部長会議構成員:
北海道大学大学院工学研究科長・工学部長
北海道大学大学院情報科学研究科長
東北大学大学院工学研究科長・工学部長
東北大学大学院情報科学研究科長
東京大学大学院工学系研究科長・工学部長
東京大学大学院新領域創成科学研究科長 
東京大学大学院情報理工学系研究科長
東京工業大学大学院理工学研究科工学系長・工学部長
東京工業大学大学院生命理工学研究科長・生命理工学部長
東京工業大学大学院総合理工学研究科長
東京工業大学大学院情報理工学研究科長
東京工業大学大学院社会理工学研究科長
名古屋大学大学院工学研究科長・工学部長
名古屋大学大学院情報科学研究科長
京都大学大学院工学研究科長・工学部長
京都大学大学院エネルギー科学研究科長
京都大学大学院情報学研究科長
大阪大学大学院工学研究科長・工学部長
大阪大学大学院基礎工学研究科長・基礎工学部長
大阪大学大学院情報科学研究科長
九州大学大学院工学研究院長・工学部長
九州大学大学院芸術工学研究院長・芸術工学部長
九州大学大学院システム情報科学研究院長
九州大学大学院総合理工学研究院長


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